セガールVSハプスブルグ! 『グレート・ミュージアム』&『沈黙のアフガン』で異種格闘感想文!

伝統と革新。急激なグローバリズムの浸透が反面で強烈なアンチ・グローバリズムと民族主義的勢力伸長の呼び水ともなっている昨今、この問題は避けては通れません。除夜の鐘が近隣住民からの苦情で中止になった一件なんて身近なところですよね。
そういうわけで僕もこの問題を考えるために映画を見てきました。『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』、そして『沈黙のアフガン』です。
名門ハプスブルグ家とスティーヴン・セガール…伝統ってこういうことですよね!

『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』

《推定睡眠時間:5分》

『パリ・ルーブル美術館の秘密』(1990)、『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』(2008)なんかの美術館改修ものドキュメンタリー、ウィーン美術史美術館編。
ウィーン美術史美術館、と言われてもアート音痴なのでまったくわかりませんが…鋭い編集とか軽やかな移動撮影とか超カッチョイイ! 色んなお仕事いっぱい超たのしい! こどもみたいなかんそうになってしまう。
そこらへん作ってる人はちゃんとした大人だなとか思うのですがこれ絵が、絵っていうか美術品がほとんど前に出てこないんです。所蔵品の威光でマウンティングをかけてくる品と芸のないドキュメンタリーじゃなくて、基本的にはお仕事観察型のドキュメンタリー。ナレーションとかインタビューとか無いやつですね。

まぁお仕事観察ドキュメンタリーも色々ありますが、これが面白いなぁと思ったのは「なんでもないがなんとなくユーモラスな瞬間」ばかり繋ぐところ。
たとえば。すごい好きなエピソードで武器コレクション館長というのが出てくるんですけれども、この人が余った軽食をいつも窓辺に置いてハトかなんかにあげてるんです。でもハト全然それ興味なくて食べてくれない。どうすかこの微妙なユーモア。
一方で大英博物館の館長(?)が視察にやってくるシーン。この人がすごい喋る、とにかくすごいオタク喋りでめっちゃ食い気味。案内する総館長とか学芸員が距離感に戸惑っているように見えるところなんかは、みなさん普通に仕事してるだけなんでしょうがクスクスポイント。
そういう、大美術館とそれに携わる人たちの機微を積み重ねていく。ちょっとロイ・アンダーソンの映画とか頭に浮かびましたね。

やんわり笑えるたのしい映画なんですが、でもなにやら批評性があるところ、やっぱりちゃんとした大人の作った映画。
大美術館の伝統と権威を担う一人一人の、決してそこには回収されない残りカスのような部分を切り取っていく。なにも言わずともそれだけで批評になるっていうことにこの作った人はたぶんきっとすごく自覚的だったんじゃないですかね。ほらちゃんとした大人なんで…。

『沈黙のアフガン』

《推定睡眠時間:30分》

『グレート・ミュージアム』に馬車コレクション担当の人と副館長がオークションに出向くシーンがあるんですがこれカッコよくてですね、プロ! っていう…一瞬で何百万何千万とか動くような現場での場慣れした立ち振る舞いがビジネス系青年漫画的なザ・プロ! っていう感じだったんですが。
『沈黙のアフガン』、これもプロ感では『グレート・ミュージアム』負けてなかったですね。原題なんて『SNIPER: SPECIAL OPS』ですよ。なんすかこのプロ感。業務用スーパーのプライベートブランド食品とかこういう命名法ですよね…。

つまりプロ。プロ映画。今回セガールはプロのスナイパー。中東でプロの人質奪還作戦を遂行中、いろいろあって敵陣に取り残されてしまう。だがそこはプロ。プロは慌てない騒がない。部屋に閉じこもって座ったままなにもしないプロセガール。プロのスナイパーに必要なものとは? あるプロは言った、「ただ待つことだ」。
セガールは、ひたすら待つ。それがスナイパーの仕事だし現場の指示だし脚本の要請だからだ。そして動く。たとえその時には映画が終わっていたとしても、要求されるアクションがサングラスをカッコよく外すことだとしても、それが仕事ならば黙ってこなすのが真のプロだ。
大山鳴動して鼠一匹。どういう意味かは知らないけどセガールは大きな山みたいな男だからきっとぴったりのことわざだろう…。

渋谷のヒューマントラストで観た。セガールが出しゃばらないので最近のセガール映画にしては面白かったとおもいます。

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こういうドキュメンタリーの巨匠っぽい人たちからはちゃんと影響受けてると思うので一緒にみたらたのしい。『グレート・ミュージアム』の話ですセガールじゃないです。

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