ウェルメイド映画『仮面病棟』感想文(プチネタバレあり)

投稿日: カテゴリー 居眠り映画館タグ , ,

《推定睡眠時間:0分》

そう思っていたのは決して俺だけじゃないと思いたいが日本映画にしては比較的スタイリッシュかつミステリアスな内容を読ませない予告編の印象からこれは絶対ミステリーの仮面を被ったゾンビものだと思っていた。舞台は監獄のような古い病院、不気味な病棟の奥深くには謎の病室、そして鎖で閉ざされた手術室に発見場所+番号で呼ばれる氏名不詳の患者たち。ゾンビ実験しかないだろ。もうゾンビウィルス実験の隠れ試験場としか思えない…が、この病院に隠された真実はそんな非現実的なものでは全然ないのだった。

そう来たか。そうですか変化球ゾンビ映画じゃなくてシリアスミステリー映画でしたか…まぁそれはそうだよね、冷静に考えたらゾンビ出さないですよ普通。変な前例があるから想像が飛躍しちゃった。ぼく『クロックタワー ゴーストヘッド』っていうPSゲームが大好きなんです。これは色々省略して説明すると二重人格の女子高生主人公が空飛ぶ殺人コケシと不死身の幼女殺人鬼から逃げて病院に行ったら院内ゾンビだらけでそのゾンビパニックは隣接する研究所から漏れた寄生脳によるものだったと分かったそのときガラス天井から鎧武者が降ってきて主人公が死ぬゲームなんですが、『仮面病棟』、ちょっとそれを期待しちゃったね。そんなの期待する方もする方だし、させる方もさせる方だ(させてない)

まそこまでとは言わなくとも昨今のメジャー邦画ミステリーはコミック路線を取ることが多いから、こうまでシリアスに寄せてきた映画というのは珍しいんじゃないだろうか。こんなの撮る人だったのか監督の木村ひさし。この人は前の『屍人荘の殺人』でも突飛かつコミカルな設定に湿り気のある人間ドラマを織り交ぜていたが、フィルモグラフィーを見渡すとライトミステリーを中心に手掛けてきた監督でありつつ、本分はこういうシリアスミステリーの方にあるのかもしれない。『仮面病棟』を観ると『屍人荘の殺人』で大量に浮上した疑問符も(なんでこれ撮ろうと思ったんだろう…)っていうのを中心にある程度は解消できる。

さてその内容。恋人を交通事故で失った医師の坂口健太郎は恋人の兄で先輩医師の大谷亮平から一夜限りの当直代行を頼まれる。こうして坂口健太郎が向かったのはいかにも怪しげな元精神科病院の介護施設的病院。当直の二人の看護師も何かを隠しているようなそぶりでどうもここは…とそこへ、銃を持った覆面のコンビニ強盗が怪我をさせた目撃者・永野芽郁を連れてやってくる。その手術を担当することになった坂口健太郎はなりゆきで永野芽郁と一緒に探偵ごっこに着手。どうもこのコンビニ強盗は単なる強盗ではないらしい…そしてどうも、この病院も単なる病院ではないらしい…。

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事の真相がゾンビ実験とかではないというのは先に書いてしまったがじゃあどんなものかというとわりと素直に読めるタイプのもの。捻りとかは基本的にない。奇抜なトリックとか時系列の操作もなければ今風の映像処理もほとんどしないのでますますレア度が上がる。このご時世によくこんなストレートなミステリー映画の企画が通ったなと思う。

『ミュージアム』とかと同じワーナー配給のいわゆる(?)和製洋画と言うべきジャンルの映画で、このジャンルは新奇性は求めずに今までの日本映画があんまりやってこなかったハリウッドの王道ネタを日本人キャストで焼き直すところに眼目があったりするわけですが、それにしても『仮面病棟』の捻りのなさは四半世紀も前の映画に見えてしまうだから良い悪いの話ではなく単純に驚く。

まあ新しいもの好きな人には確実に物足りないと思いますが、俺はおもしろかった。よくやってますよね、ストーリーとかキャラクターとか映像手法に目新しさがないってことは基本的には演出で2時間観客の興味を引くしかない。それをこの映画はちゃんと細かいところまで手を抜かずにやってると思った。杜撰な扱いのキャラクターが一人もいないし、安易な説明台詞や感情の吐露で白けさせるようなこともしない。比較的軽い暴力シーンでも記号的に済ませることを良しとしないでその行為を明確に暴力として撮るし、不自然にならない程度に会話や行為にタメや間を作る。だから一定の緊張感が持続する。

脚本にも参加している原作者の人は医師の肩書きも持ってるらしく、さすがに警察の描写にはエンタメ的な飛躍があるが、経験に裏打ちされた(と思しき)医師の葛藤であるとか当直の不安であるとか、そのへんはリアリティを感じるところ。思いのほか真摯なメッセージにも医療に携わる人の切実さがあった。こういう地に足の着いた脚本に地に足の着いた演出が乗る。で、その土台になるのが病院の裏と表を橋渡しする美術で、これもありきたりな日常風景の中の違和感をJホラー的な意匠でもってしっとりと表現していて…つまりは映画を形作る色んな要素がほどよく調和して、今時珍しいザ・堅実な王道ミステリーとなってるわけです。

ウェルメイドっていうのはこういう映画のことを言う。永野芽郁はちょっとミスキャストだったんじゃないかとか色々思うところもないわけではないけれど、まこういう映画は面白かったねー考えさせられたねーで済ませちゃったらいいんじゃないすかね。

※高嶋政伸、江口のりこが怪演にならない程度に独特の存在感を発揮。いや、この二人を怪演枠に入れなかっただけでもこの監督は偉いと思うよ俺は。だって怪演してもらいたくなっちゃうもの俺だったら。そこを抑制してあくまで現実にいそうな、でもちょっと現実から外れてる境界線上の脇役を見事に演じてもらってるっていうのはこの監督の演出力なんですよ。

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観ながらなんとなく印象が被った病院ミステリー/ホラー。そういえばこれにも高嶋政伸が出ていた。

↓原作


仮面病棟 (実業之日本社文庫)

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