コリアン時間SF『あなた、そこにいてくれますか』の感想

《推定睡眠時間:0分》

こんな甘い邦題で『プリデスティネーション』級のどんでんローリング展開SFだったんですがそんなこと言ったら藤子・F・不二雄先生の名作短編『ノスタル爺』だってあんな呆けタイトルであんなにも厳格なガチSF(≠ハードSF)とは思わない。傑作ぞろいの藤子F先生の短編SF漫画の中でも『ノスタル爺』ほんともう大好きでちなみにその次ぐらいに好きなのは『あのバカは荒野をめざす』ですが…あったね、『あなた、そこにいてくれますか』! 『ノスタル爺』要素も『あのバカは荒野をめざす』要素も中にあったよ! そんなもの好意的に受け止めずにはいられない。

以上ネタバレになるかならないかギリギリのラインを攻めたところで感想。『ノスタル爺』と『あのバカは荒野をめざす』の内容は勝手に調べろっていうか読め。

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なんか原作あるらしい。ギヨーム・ミュッソというびっくり箱みたいな名前(伝わるだろうか…)の人が書いたファンタジー? SF? ラブストーリーの世界的ベストセラーだそうで前は『時空を超える』の邦題で本邦でも読まれていた。映画に合わせて『あなた、そこにいてくれますか』に改題・再販。良し悪しはわからんけど内容は掴みにくくなったな。

ヘビースモーカーの医者(キム・ユンソク)がカンボジアでボランティア活動してたら貰った謎アイテム丸薬×10。どういうアレなのか理屈はよくわからないが飲んだら30年前にタイムスリップしちゃった。そこで眠ったり意識失ったりしたら30年後に戻っちゃった。あぁ、まだやり残したことがあるのに!
っていうわけでユンソクの過去行脚がはじまる。眠ったり起きたりを繰り返して過去の自分と会ったり過去の親友と会ったりしながら若くして死んじゃった過去の恋人の死を食い止めようとするがしかしこのタイムスリップは原理のファンタジー性に反して同一タイムライン上の時間移動だったので何回もタイムスリップして過去に干渉してるうちに現在が変わっちゃって現在が変わったら過去も変わっちゃって過去も変わっちゃったら現在(中略)しっちゃかめっちゃかになるのだった。

ともかく10回は多い。絶対に過去に戻り過ぎだ。時間SF映画史上でも屈指の大混乱っぷりを誇る前述『プリデスティネーション』だってせいぜい6~8回ぐらいに抑えていたタイムスリップをまったく遠慮しないあたりなんとなくコリアンムービーだ。アクションもバイオレンスも恋愛もノスタルジーさえも容赦がないコリアンムービーだ…。
想像ですがたぶん原作はこのへんの処理ってもっと整然としてるんじゃないかな。なんかタイムスリップ一回ごとに章立てしたりして。で、映画はふつう小説よりも話の筋に避ける部分が少ないので原作ものの脚色は畢竟ストーリーを整理して短縮する作業になると思われますが短縮する代わりにこれは凝縮したんじゃないですかね。

従って時間秩序ぐっちゃぐちゃ、カオス、途中からもーう何がなんだかわからんままパッションとエモーションだけで強引に突っ走っちゃって口ポカン。よくある時間SF映画でクライマックスになるような場面が折り返し地点でしかなかったのでそのへんがつまり、『プリデスティネーション』級のどんでんローリング展開SFだったのだ。

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『ノスタル爺』は不意に訪れるタイムスリップの描写がまったく見事で何度読んでもこう、得も言われぬ説得力みたいの感じる。そうなることが必然であるようなというか、必然であると思い込みたい心情の描写の方に真実味があるのかもしれない。目の前の現実より思い出の過去を選ぶとはどういうことか。F先生の目はたいへん厳しい。
俺はF先生を「白い藤子」的な意味でヒューマニズムの作家とは思わないのだけれども人間を深く探求し続けた作家だとは思っていて、ただそのことは『あなた、そこにいてくれますか』とはまったく関係ない。

言いたかったのはこの映画のぐっちゃぐちゃローリング展開は別に作劇の上でパッション&エモーションが暴走したわけではなくて、ファンタジーなタイムスリップ設定も手抜きとかそういうわけじゃなくて、ストーリーに照らし合わせてよーく考え抜かれた結果なんだろうなってことですよ。
パッションとエモーションの映画かと思ったらシナリオ第一の映画で、それも若干力業っていう感じあったんですけど大混乱抜けた先でどっと伏線回収の波が押し寄せてくるとこ、いやあれちょっと感動的だったな。愛が云々とかっていう内容よりお話として充実感すげぇっていう感動あった。過去で現在の紙幣を使おうとしたら不審者扱いされるとかディティールもしっかり(ただし途中まで)。

シナリオ重視の時間SFでも理屈っぽく感じられないのは時間旅行者が『チェイサー』のキム・ユンソクっていう夢のなさが効いてるんだろうな。30年前のキム・ユンソク(の役)はイケメン枠のピョン・ヨハンですよ。時間秩序ぐっちゃぐちゃ系&過去の自分に会う系時間SF映画の『ルーパー』はジョセフ・ゴードン=レヴィットがウン十年経ってブルース・ウィリスになってましたが所詮ハリウッドスターがハリウッドスターになっただけだけだからな。軽い。こっちはどんなイケメンも30年経ったらキム・ユンソクみたいになるっていう圧倒的真実があるから重みが違うね!

そうだ重みといえばユンソクの親友がキム・サンホ。キム・サンホ…どんな顔かわからなければ検索してほしいがこの、大地康夫と上島竜平のハイブリットみたいなこの顔がユンソクと並ぶことの重みたるやですよ。ふたり並んで浜辺でねーちゃんのケツ眺めながら酒飲んでる画とか恋愛映画とかSF映画的なものと最も遠いものなんじゃないかと思うがだから重みが、人間が、説得力があるってもんじゃないですか。
本当きったねぇんだから。オッサンふたりきったねぇんだから。FはFでもこっちは漫F画太郎の方を連想させる汚さの説得力だよ。でまたその使い方が上手いんだよ…このきったねぇオッサンの…。

ほか、いろいろ言いたくはあるがこういう内容なのでだいたい何を言ってもネタバレ絡むため自重。とにかく面白かったですね、脚本も俳優も相当クドいけれども。

【ママー!これ買ってー!】


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これが恨というものかどうかは知らないが韓国映画はよく過去を悔やむなぁっていうことで思い出した悔恨ムービー『建築学概論』。苦いと甘いが交互に押し寄せてきちゃって感情引き裂かれまくり。
松江哲明監督がとてもほめていた。

↓その他のヤツ

あなた、そこにいてくれますか (潮文庫)
時空を超えて (小学館文庫)
箱舟はいっぱい (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)

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