13人いる!映画『十二人の死にたい子どもたち』感想文(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:0分》

ツツミストとしては堤幸彦の新作映画が昨年11月公開の『人魚の眠る家』に続いて早くも公開という状況はよろこばしい限り。
しかも面白い。ツツミストであるから仮に『真田十勇士』みたいな酷い映画でもよろこんで観に行くし観た後でお前は二度と映画を監督するなと心中で悪罵を浴びせつつも新作をやればまた観に行くが、普通に面白いのですからこんなにありがたいことはないですよ。

といっても企画としてはかなり小規模なもので、『人魚の眠る家』とか『天空の蜂』とかの堤大作と比べたら撮影期間なんか相当短かったんじゃないだろうか。
なにせ舞台が廃病院だけですからね。回想でほんのちょっとだけ病院外のシーンも出てくるが、それにしたって高校のどっか裏の方の人の通らない階段とかだから。
キャストとスタッフを度外視すればほとんど自主映画かホラー系オムニバスOVの観だ。

これだけ舞台を限定していて、しかも何か派手な展開になるわけではないので、びっくり特殊効果が出てくるわけでもないので、ということはシンプルにシナリオと役者で見せるしかない。
極めて舞台劇的な作劇。なにか小劇団系の原作戯曲があるのかと思ったら原作、SF作家の冲方丁らしい。こんな新本格的なミステリーを書いていたのか冲方丁。しかも短編じゃなくて長編。
そんなイメージはまったくなかったので意外、コンパクトな作りの中に色んな意味でサプライズが詰まった映画である。

それでそのシナリオですが、十一人のティーンエイジャーが闇サイトを通じて廃病院にやってきた。主催者のサイト管理人を加えて十二人。こいつらの目的は集団自殺。穏やかじゃないすね。
ところが更に穏やかならざる事態がガキどもを待っていた。自殺会場となる地下室に…身元不明の死体が一人ベッドに寝かされているじゃないか! 十三人いる! 萩尾望都より二人も多いんだから大変である。

どのように死ぬかは合議で決めるのがこの集まりのルール。納得ゆくまで話し合って全会一致で死ぬなり帰るなりしましょうというわけで、そのへんが陪審員映画の古典的傑作『十二人の怒れる男』をもじったタイトルの由来。
で、異常状況に疑義を呈す自殺志願者がいた。この誰だかわからん死体の謎…ほっといたまま俺たち死んでいいんすか?

まぁ大抵の参加者はいいじゃん別にさぁって思っていたが、全会一致にならないと死ぬことができない。
かくして死体の謎を巡って十二人の死にたいガキどもは動き出し、やがて思いもよらぬ的な事実が浮かび上がるんであった。

規模は小さいが、というよりもむしろ規模が小さいからこそなのかもしれない。結構よくできている。
冒頭、十二人のガキが次々と病院にやってきて、会場に入る前に気持ちを整理するように病院をうろつくのですが、その見せ方が巧かった。
各々が病院のどこでどんなことをしているか、というのでキャラクターの輪郭をミステリアスに描きつつ、そこで彼ら彼女らが目にする物、風景、何気なく聴いた音や台詞のひとつひとつで伏線を張っていく。

この予算感だとそもそもそんな余裕がなかった可能性もあるが、堤幸彦らしい突飛なビジュアルや演出は今回見られず、あくまでストーリーを語ることに専念。
『桐島、部活やめるってよ』とまでは言わないが、若手俳優のアンサンブルが面白い映画でもあるのだし、その作りは良い方に作用していたように思う。
十二人出てくるとはいえほぼ密室劇で119分のランタイムは長くないかと思ったが杞憂で、ディスカッションはタイトにまとまって謎の解決と新たな謎の提示はシームレスで淀みなし、わりと119分とかあっという間だった。

小気味よいキャラクター捌きと無駄のないシャープな謎解きはなんだか『金田一少年の事件簿』(堤幸彦版)を見ているよう。
懐かしいっすねぇ。こういう堤幸彦久しぶりなんじゃないすかねぇ。幸彦できるんですよ王道ミステリーも。全然できるんです。
でも本人は王道よりハズしが面白いと思ってるからミステリーでも『SPEC』とか『RANMARU』とか『トリック』とかあぁいう飛び道具ばっかやりたがるんです…いや『トリック』は面白いと思うけどさ。

俳優陣に関して言えば、若手の実力派を揃えてきているが死にたい子どもの切実さというものを感じさせるキャラクターは実はいない。
それをどう捉えるか。単に演出力と演技力の不足という見方も当然あると思うが、俺は意図的なものだと思っていて、ここで俳優たちが表現しているのは死のリアルではなくて、死のリアルを感じることができないガキどもの姿なんである。

予告編を見るとまるでデスゲーム系の映画なのだが、デスゲーム的に死を想像するガキどもの映画と思えばあながち間違いでもない。
そもそも死ぬことが目的であれば一人で死んでる。目的は決まっているのに死の前に合議を挟むのは奇妙だが、その奇妙なルールにガキどもは甘んじる。
ゲーム的に空虚な死のイメージを通じて、話し合いを通じて自分が何者で何を求めているか、そのことを知るために、あるいは打ち明けるために集まってでもいるかのようだ。

端的にこのような映画と言えるかもしれない。死体の謎を解明することで死ぬことを理解しようとするガキどもの映画。
ずいぶん陳腐で説教臭いが、そこらへん重たくならずにエンターテインメント昇華するのは堤幸彦の手腕である。

あえて明確な主人公を置かない群像劇のタッチは手垢の付いた臭い物語にゲーム的にクールな視点を導入する。
新本格的なトリックの強引さはガキどもの死の非リアリティを引き立てて、これも効果的だった。
最後は爽やかでTVM版『ランゴリアーズ』的にスッキリ後味である。そのたとえでどれだけの人に通じるのかはわからないが。

杉咲花(これは良い役)、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、橋本環奈、と若手スタァが並ぶ中では比較的地味な渕野右登、物語の鍵を握る…というか開く役ですが、死を前にしての幼い焦燥がよく出ていて、個人的MVP。

【ママー!これ買ってー!】


11人いる! (小学館文庫)

冲方丁SFの人だからこれはやっぱ意識してんだろう。オチというか後味は近いかもしれない。

↓原作と関連するの

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)
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