ノオミ・ラパス七変化『セブン・シスターズ』を見る

《推定睡眠時間:30分》

近未来SFだったのかっていう。ノオミ・ラパス一人七役! っていう、それしか頭になかったんで近未来SFだったのかよっていう。人工抑制のためこの世界では厳格な一人っ子政策が施行されてる。ディストピア。

アイディアとしてどっちがメインのつもりだったのか知らんけど失敗してる感あったなこれ。七人のノオミ・ラパスが見せたいのかスーパー一人っ子近未来が見せたいのかどっちなんだよっていう。そこ両立は難しいだろうと。七人のノオミ・ラパスは存在感強すぎてディストピアな世界観覆い隠しちゃうし、ディストピアな世界観は七人のノオミ・ラパスをストーリーに縛り付けて芝居の幅を狭めちゃうよなっていう、なんかそういう感じの感想。

がっかりだったのはそういうわけで七人のノオミ・ラパスがわりとポンポン死ぬ。つまりこれは『ウルトラ・ヴァイオレット』とか『イーオン・フラックス』みたいな近未来ディストピア+ヒロイン・アクションのバリエーションであったからアクション満載サスペンス満載、一人だったら少なくとも映画の最後までは殺せないがー、七人いるから半分ぐらいはアクションの中で殺してもストーリー上は差し支えないつー判断がなされてるわけですよ。

それはちょっと明らかに絶対もったいと思うね。もっと見たかったぞ七人のノオミ・ラパスの演技合戦。ディストピアとかいいんだよ。SFとかいいんだよ。ノオミ・ラパスが俺はノオミ・ラパスが見たかったんであってしゃくれたサッチャーとか別に見たくはないんだよ…。

七人のノオミ・ラパスを成立させるに悲劇的な舞台背景が必要ならホロコーストもののサスペンスとかそういう方向で見てみたかったなぁ。ノオミ・ラパス七姉妹がアンネみたいに屋根裏部屋に隠れてさ、生き延びるために同胞を売って迫害を免れた長女ラパスを演じて外出するんです。それで演じてるうちに葛藤が生じてきて、不和も生じてきて…みたいな。

ただし近未来ディストピア+ヒロイン・アクションの形式がノオミ・ラパスの魅力を減ずるばかりかというとそういうわけでもないのであって、やはりノオミ・ラパスの瞬発力と凶暴性は! こういうバカみたいな映画だから発揮されるんだろなっていうのもあるんで痛し痒しというか。

ラパス宅に警官隊が突入する場面とか快哉っすよね。七人のノオミ・ラパスがな、筋肉ラパスとか、頭脳ラパスとか、タチラパスとか、ネコラパスとかいるわけですけれどもこの七人のラパスが七通りの(※諸事情あって本当はもっと少ない)ブチ切れアクションを同じシーン内で見せてくれるわけですよ! ノオミ・ラパスがノオミ・ラパスを解き放つ瞬間はいつも燃える。

ストーリーとかはガバガバかつ凡庸なのであんま面白いもんでもないがこういう場面場面の爆発力っていうのはあったりして、それはそれでノオミ・ラパスの映画っぽい気はまぁする。ロジックよりも完成度よりもパッションの暴走度合いを作品選びの基準にしているとしか思えないノオミ・ラパスだから映画的にはゴツゴツしてるが妙に馴染んではいた。

『プロメテウス』とか『パッション』とか『ラプチャー 破裂』とかそういうのだからなノオミ・ラパスの仕事って。つーかこのフィルモグラフィーの信頼度の高さ(あるいは低さ)。

俺は完全にノオミ・ラパス目当てだったので他はもうどうでもいい感じだったわけですが監督が『処刑山 デッド・スノウ』の人らしいのでなんか趣味っぽい感じ溢れる。
趣味というのはどんなものでもそれなりにおもしろいもので映画のラスボスはサッチャー的な女宰相、一人っ子政策の話だったが一人っ子政策といったら『トゥモロー・ワールド』の元ネタの一つ『赤ちゃんの永遠に』だろってことになるのでイギリスSFのかほり。

原題は『What Happened to Monday?』というらしいがこりゃあチェスタトンの奇怪作『木曜日だった男(The Man Who Was Thursday)』を彷彿とさせるな。つまりイギリス趣味。この原題はなにやら警句的な響きもあって内容に見合わない良いタイトルだと思うがノオミ七姉妹をプッシュしたばかりに邦題からは消されてしまったからここでもノオミ・ラパスと映画が全力でバッティングしている。

一人でもエイリアンぐらいは殺すノオミ・ラパスが七人もいるわりにはズバっと進行してくれたりドカンと物事を解決してくれたりしない気の晴れなさ。ラストの苦さもイギリスみ、だが『ソイレント・グリーン』ぽいところもあったしそもそも人口爆発テーマなんてカビの生えた題材掘り出してきてるぐらいなので、たぶん70年代ディストピア映画の行き詰まり感というのをやりたかった映画なんだろうな。

ダセェ美術デザインとかざっくりした展開もオマージュあるいはフェチ的に解釈すればおもしろくみれるというもの。意外と、近く感じたのは70年代ディストピア映画の焼き直し的な映像感覚っていう意味で映画版の『ハンガー・ゲーム』だったが、考えてみればジェニファー・ローレンスとノオミ・ラパスは一脈相通ずるような気がしないでもない。

歯車の各々のパーツがちょこっとずつ突き出しているので遠目には上手く回りそうに見えるが実際回してみると噛み合わないみたいなそういう映画に思うが、近くで見てみるとどのパーツも結構興味深げ。
警備のオッサンのムサ苦しさとか、ノオミ追跡班の人の偽マット・デイモンぷりとか、ノオミ・ラパスVSノオミ・ラパスの大喧嘩とか、あと少女がエンコ詰めるとこ、とか。ノオミ・ラパスをノオミ・ラパスが化粧してノオミ・ラパスにする場面の映画的なケレンにはゾクっとしたな。あれは素晴らしい。

トータルでおもしろい気はあんまりしないがおもしろがれる所は盛りだくさんて感じでしたね。

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