かなりの定番米軍特殊部隊映画『ランド・オブ・バッド』感想文

《推定睡眠時間:55分》

低予算だけどVFXを効果的に使ってスケールの大きなSF映画を撮れる人という意味でこの映画の監督ウィリアム・ユーバンクは次のギャレス・エドワーズだと思っていて、深海モンスターものにクトゥルー神話のエッセンスを織り交ぜた『アンダーウォーター』、コッポラを思わせるミニマムで壮大な映像叙事詩『地球、最後の男』、人気(なのか?)シリーズに新たな息吹を吹き込んだこちらもラブクラフト風の『パラノーマル・アクティビティ7』と、この人が撮る映画は今のところユニークで面白いものばかり。

そのユーバンクがあらすじを読むになにやらベタな米軍特殊部隊ものを撮った。クトゥルーとかラブクラフトとかの名前が出ているようにユーバンクの趣味嗜好は明らかに現世を超えるコズミックなものにあるので、ぶっちゃけ人選ミスではないかと思ってしまうが、しかしコズミックなユーバンクなら単なる米軍特殊部隊ものにはしていないはずだ、脚本も書いてるみたいだしなということでこの『ランド・オブ・バッド』である。

結果、かなり普通の米軍特殊部隊ものだった。って別に悪い意味ではなくミリタリーアクションとして充分に迫力と緊張感があって面白いウェルメイドな映画ということなのだが、新橋文化のアクション2本立てでタイトルすら知らずに観るならともかく、ユーバンクの名前に惹かれて観に行っているこちらとしては、ラーメン屋でラーメンを頼んだらみそかつが出てきて面食らいたかったのに、まぁまぁおいしくて量もある普通の良いラーメンが出てきてしまったという感じで、それはラーメン屋の商売として正しいにも程があるのだが、いや、でも、そうなんだけど…である。ユーバンクとしてはハリウッドでのキャリアアップを狙っていろんな映画作れますよとアピールしたかったんであろう。たぶんそれには成功しているはずである。

まぁしかし内容的にはとにかく普通の米軍特殊部隊ものである。人質の囚われた東南アジアのどっかに特殊部隊が入ってって敵襲を受け壊滅状態に陥るがわずかに残った主人公たちが頑張る的な。同種の映画と多少趣を異にする点があるとすれば無人機支援をもう一つの主軸としているところ。今はハイテク戦争の時代やということでかつてであれば人間の乗った飛行機が現地に直接行ったりしていたが、イラク戦争ぐらいから米軍は無人機での偵察や爆撃を本格的に行うようになったらしく、そのオペレーターはアメリカ国内の安全な基地からゲームみたいな感じでモニターとにらめっこして無人機を操作してるわけである(ちなみにそれを題材にした映画としては『アイ・イン・ザ・スカイ』が傑作)

このオペレーターの人たちはやってることは戦闘行為なのだがなにせ現場にいないものだから直接作戦区域で活動する兵士たちと同じ心理状態を共有しろといっても無理な話。ということで現実ではそこまでダメではないかもしれないがこの映画の中ではラスベガスにある安全な基地の中で戦闘などどこへやらバスケの試合を見ながらおおさわぎ。クソッそれで給料もらえてるんだから良い職場だなおい! ダブル主人公の片割れであるベテラン無人機オペレーターのラッセル・クロウはそんな他のオペレーターたちに苦言を呈したりするがあんまり尊敬されていないので聞いてもらえないのであった。

最初は現場のリアム・ヘムズワースと無人機オペレーターのラッセル・クロウ(+相棒の人)が二人三脚で作戦を進めていくが途中でオペレーターが交代してヘムズワース危うし、この危機を救えるのは俺しかいないと結局はクロウがまんまる体型を揺さぶってなんとかヘムズワースを救うとまぁそのへんの展開はカットバックの使い方など巧みでなかなかハラハラさせられて面白いとはいえとにかく普通の米軍特殊部隊映画だが、この映画にユーバンクの作家性のようなものが滲み出ているとすれば、それは死地に置かれた人間の心理や選択に肉薄しようとするところかもしれない。

『地球、最後の男』にしても『アンダーウォーター』にしても主人公はもうどうにも助かりそうもないという地点に最終的に辿り着く。そのときに人は何を感じ何を考え何を選択するのか。今のところそれがユーバンク映画の主題らしきもので、この映画でも現場のヘムズワースは当然敵地で死にそうになるわけだが、その敵地たる地下基地の造型や照明は宇宙船内を思わせてSF的で、生きるか死ぬかの極限状態に置かれたヘムズワースの心象風景のようだし、そんなヘムズワースにクロウは必死で寄り添おうとするわけである。米軍特殊部隊ものというジャンルの都合そのへんのテーマが深く掘り下げられることはないけれども、まぁ読み取ろうと思えば読み取れる程度にはそういうところもある。

余談ですがこの映画、宣伝もほとんどされてないし誰も観に来ないだろと思ってたらなんとお盆休み最終日は東京のメイン上映館であるところのTOHOシネマズの昼の回が二つの劇場で満席になっており、えっそんな人気あるのかよすごいなと思って非シネコンの池袋シネマ・ロサでもやってたからそっちの予約画面を開いてみたら3つしか席埋まってなかった。みなさん! 映画館はシネコンだけではないんです! あまり映画館の選択肢のない地方もあるでしょうが、東京などの都市部ではシネコン以外にもわりと映画館はありますしそういうところでもシネコンと同じ映画をやってたりするんです! シネコンにばかり集わないで他の映画館にも目を向けてやってください! 客入りもまばらな非シネコン系の封切館は設備はショボいがたぶん満員のシネコンで映画観るより快適!(あと安い)

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