《推定睡眠時間:0分》
いつものようにホラーらしいということ以外に内容などまるで知らずノリで観に行ったのだがポスターを見れば『AFRAID』の「AI」の部分だけ赤字になっているからAI関係のホラーらしいとわかる。映画が始まるとまず画面に現れたのは俺の宿敵ブラムハウスのムービングロゴであった。あーこれは。ブラムハウスとAIといえば『ミーガン』があったが世評の高さに反して俺はこの映画のホラー的な意味でのヌルさと露骨な家族愛推しっぷりが合わず良い映画とは思えなかったのでこの『アフレイド』もたぶん同じような感じだろうと本編に入る前にぐっと期待値が下がる。案の定ストーリーはジョン・チョーとキャサリン・ウォーターストンの一家(子供3人)になんでも願いを叶えてくれるし子供の教育とか超やってくれるスーパーAIアシスタントがやってくるというものでそれおめー『ミーガン』と同じやないか。2作目はコケたが1作目はヒットしたから『ミーガン』の亜流をさっさと作って一儲けという魂胆だろうと冷めることこの上ない。
……と思われたのだが違いましたこれはなんと終末SF。具体的に言えば原作にクレジットされていないし製作者もその存在を知らないと思うので偶然似ただけだと思うがショートショートの神様・星新一によるサイバーパンクSFの原型とも予言の書とも呼ばれる1970年の長編『声の網』とよく似ていた。電話網が世界を覆う高度情報化社会を舞台に電話が織りなす情報の海の中で電子生命体が誕生、電子生命体は電話を通して人々の人生に介入することで人類を学習すると同時に密かに支配していく……というような感じだが、スーパー家庭用AIが一家を守るために段々と行動を過激化させていくというこの『アフレイド』はおおむね『声の網』を一家族に絞って映像化したものといってよい。
『声の網』好きなんだよなぁ。なんでこれが知る人ぞ知る作品のようになっているのか、1970年という書かれた年を思えばあまりにも鋭利に現代社会の在り方を予見してしまっているし、電子生命体の人類支配が決して暴力的・強権的なものではなくあくまでも「人々のために」というやさしい独裁(コロナ禍でみんなそれを経験したものだ)であることも含めて凄まじいまでの洞察力にあふれた星新一のSF代表作ではないか……と思うのだがまぁ『声の網』はいいとして『アフレイド』はそうしたところを意図せずして忠実になぞっていたので良かったし、ブラムハウスはとくにそうだがブラムハウスに限らず最近のアメリカン・ホラーなんてのは家族愛推しのハッピーエンドが多すぎるので、この冷徹とも言える視点は実にアッパレだ。
それにしても上映時間84分は短い。そのために無駄なシーンがなくプロットをそのまま見せているだけのような作りになっていて、なんだかこの映画自体が生成AIによって制作されたかのように見えるのが不気味だ。あのみなさん見たことありますかね生成AIに作ってもらった動画って。YouTubeとかにいくらでも転がってるしOpen AIのSoraとか使えば誰でもスーパー超簡単に実写にしか見えないCGの動画が今や作れる時代なわけですけれども、生成AIが作った動画というのは面白いけどつまらないと思ってて、なぜかって無駄がまったく無いからなんですよね。それもそのはず生成AIはあくまでも人間にこれを作れと命令された「これ」を映像化するに過ぎない。だから往々にしてAI制作動画というのは風景ショットや面白いアングルからのショットがなく人間を正面から見たバストショットの数珠つなぎのようになってしまって、だから退屈なわけです。
そうしたいわば余白のショットが84分という現代の映画としては短尺のランタイムのためにこの映画にはないのだな。人間の顔を映して台詞を言わせる、そしたらまた別の人間の顔を映して台詞を言わせる、俗にピンポンカットなどと言われる無味乾燥な編集が多いし、シナリオの面でも人物の心情とか背景を長々と語らせるようなことはなく、情報は必要最低限のまま、状況だけが刻々と悪い方向へと転じていくのを見せる。それが怖い。人間が撮った映画であれば、というか映画に限らずすべての創作分野でどうしても介在してしまう無駄とかブレがこの映画にはほとんど見られないので、そのハリボテじみた完璧さによって人間ではなくAIが作った映画のように見えてしまうし、物語の終盤になると今見ている映像が(映画内の)現実のことなのかそれともAIの作り出した虚構の映像なのかわからなくなってくる。
そうした現実が揺らぐような不気味さはあまり狙ったものではなく偶然生じているような気がするのだが、狙ったとか狙ってないとかそんなことはこっちとしてもどうでもよし、だって怖いホラー映画が観られればなんだっていーんである。まるで黒沢清の『回路』のような幽霊(?)描写も気持ち悪く、ディープフェイクやスワッティング(気に食わないヤツが武装してテロを企んでるとか虚偽の通報をしてSWATを突入させ射殺しようとするアメリカで流行ってるカス行為)、そして超AIによるパーソナルアシスタントが浸透した、もはや何が現実なのかわからない世界の行く末を垣間見せるラストに戦慄の、これはたいへん掘り出しものの終末SFホラーではないかとおもう。
それにしても主演のジョン・チョー、『search/サーチ』にこれにとやたらデジタル・スリラーに縁のある人だ。そういうの好きなんだろうか。