キラキラ業界激震映画『小説の神様 君としか描けない物語』感想文

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《推定睡眠時間:30分》

ポスターとか見るとヴィヴィットな色使いのいかにもなキラキラ映画なので開始15分ぐらいモノクロ画面とかいうそう来るか演出に一応タイトルは確認しているがもしかしてシアターを間違えたんじゃないかと思ってしまった(俺が観に行った映画館は作家性の強いインディーズ映画なんかもよく上映しているのだ)

ちょっとこれは予想外というかたぶんキラキラ映画で初めて見る展開である。確かに回想シーンなんかの一部でモノクロを採用したり、あるいは主人公の男子高校生でも女子高校生でもいいが、とにかくうだつの上がらない高校生の暗い日々を表現するために冒頭5分かそこらモノクロというのは過去にもあったような気がしなくもない。モノクロの暗い日々があって、で、そこに転校生とかがやってきて、主人公が彼または彼女に一目惚れすると世界がパパッと色づくという仕掛け。

しかし15分くらいもの間モノクロというのは…この約15分後になにがあるかというと売れない高校生作家の主人公(佐藤大樹)がたまたま転校かなんかしてきたらしい売れっ子高校生作家女子(橋本環奈)との共作を編集者から持ちかけられ、初めは乗り気でない佐藤大樹であったが橋本環奈のプロット案を聞いているうちにその面白さにすっかり心を奪われてしまい…こうして世界は色を取り戻すのであった。

動揺してしまう。なんというか、俺がいつもバカにしながら楽しんで見ているインスタントなキラキラ映画ではない。超設定とはいえ売れない高校生作家の失意の日々を冒頭から15分も(沈鬱なピアノの調べに乗せて)モノクロで描写するなんて…しかもそのモノクロ画面が美しいのなんの。いや、これはもうモノクロを採用した近年の日本映画の中でも屈指の美モノクロではないかなというぐらいで、なんとなくのモノクロではなくてモノクロで何を写すべきかっていうのをとてもよく練っているんです。

とくにここはと思ったモノクロショットはまずやはり教室。佐藤大樹が一人でノーパソ広げて「俺が小説の主人公なら面白い話にはならないだろう」とかなんとかタイプしていて、これが縦書きテロップで画面に出るのですが、その光景を佐藤大樹の真上、天井側からの俯瞰ショットで撮る。すると教室ですから他の机が写り込みます。で、この机が素材感をお楽しみ下さい的な木目のくっきり出たやつなので、ハイコントラストなモノクロで撮ると墨をぶちまけたみたいな感じの結構すごい絵面になるんです。

これは本当に始まってすぐのショットなんですけれども開始直後にこんなアーティーな画が来る。わざわざ俯瞰で撮る拘りからすればおそらく机もモノクロを意識してチョイスされたもので、もうこの時点でキラキラ映画らしからぬ並々ならぬ画作りへの熱意にヤラれてしまう。その直後の屋根の汚れを捉えたショットもまた見事。

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そんな中であぁこれをモノクロで見せたかったのかと思ったのはノーパソ画面で、佐藤大樹は最初は高校生話題性もあって売れたのかもしれないが今はもう売れないしネットで感想探しても酷評ばかりだしで、病気の妹のためにっていう動機も以前はあったものの今はだいぶ弱くなってしまい、結果いくらノーパソを睨んでも全然書きたい文章が出てこない。コントラストの強いモノクロ画面の中で真っ白に光るノーパソ画面は佐藤大樹の心象風景を映し出す鏡のようでもあって、これが強い印象を残す(ヒッチコックの牛乳のようだ)

参ったなぁ、これはなんだか強烈な映画だなぁ、と思って見ているとモノクロからカラーへの移行もまたすごかった。その過剰なケレンにちょっと笑ってしまうくらいなのですが、喫茶店で橋本環奈のプロット案を聞いて衝撃を受けた佐藤大樹の頭の中には自分たちの座っているテーブルの周りが大草原になったイメージが広がる。イメージっていうか実際にどっかの大草原にテーブルセット持ってって(!)撮ってるのである。マジックリアリズム的な手法でもって日常と空想がシームレスにモンタージュされ、やがて周囲には七色に輝くガラスの破片のようなものが飛び交い、プロットを語る橋本環奈はふわりと宙に浮かぶ…こうして世界はカラーになるのであったってすごいなおい!

高校生作家二人が反目しながら一緒に小説書くとかいうはいはいそういうやつね以外の感想がミリも出てこないキラキラあらすじからこんな作家的映像世界が想像できる人間がいるだろうか。脚本を書いた人だってまさかこんな風になるとは絶対思ってなかっただろう。心象風景をシュルレアリスティックに映像化していくわりには意外や映像テクニックに溺れず俳優の演出を丁寧につけるタイプの映画でもあった(そこもまたすごい)のだが、台詞や展開だけ取ればどう考えても典型的なインスタント・キラキラ映画の脚本だし、しかしそれが画の強さと記号的ではない硬質の演技の力で明らかにキラキラ領域を離脱してしまっているのである。

普通のキラキラ映画であれば鼻で笑うに決まっているネットでの酷評に悩む高校生作家の設定もこう本気で撮られると笑えないどころか結構真剣に高校生作家って大変なんだな~とか思ってしまう。日常性を象徴する野球部のスローモーションも詩情を帯びていて良かったし、カラーパートでのちょっとした遊び心も感じられる色彩構成も目に楽しくで、俳優の演技も含めてとにかく徹底して「画」で物語を見せる映画なのだが、そうすることでキラキラ映画のファンタジー性を強引にヒューマンドラマに着地させ、陳腐な物語に迫真性を与えていた、という感じだろうか(とはいえシナリオも細かい伏線が結構効いている技あり感なのだ)

キラキラ映画のクライマックスといえば相手役の男子高校生なり女子高校生なりの下に全力ダッシュで向かう主人公であるが、この映画の走りは俺の中で『フォレスト・ガンプ』を超えました。すごい良い走り、長回しの移動撮影の中で走り出すタイミングに意表を突かれたし、走り出した主人公をただ横からベタ撮りするのではなくわざわざ高校の駐輪場の向こうに主人公、こちらにカメラを置いての間に遮蔽物を挟んでのズーム寄せ移動撮影、駐輪場を抜けたところで主人公は角を曲がって同時にカメラは主人公を追い越してその全力ダッシュを正面から…というわけでただ走るだけなのになにこの空間の使い方とアクション性。しかも全力ダッシュを表現するためにシーン三つぐらい使って主人公が色んなところを走る、カメラは色んな構図でそれを捉える!

あまりにも呆気ない、もしくは潔いエンドロールの入り方も良い意味で衝撃的であった。いやこれは本当にびっくりしたよ。びっくりしたし素直に良い映画だった。まぁタイアップだかなんだか知らないが挿入歌を幸福の科学の映画ばりに多用し過ぎる点だけは下品でダサいのでどうかと思いましたが。

【ママー!これ買ってー!】


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高校生作家設定のキラキラ関連映画ってことで見比べてみるのも一興。

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