キラキラ難病映画『10万分の1』感想文

《推定睡眠時間:30分》

あらすじを頭に入れないで観に行く派なのでタイトルの意味がわかるところでえっそうなの!? って俺はそこそこ驚いたんですが公式サイトとか見たら普通にネタばらししてたので別に書いてもよかろうというわけでバラしてしまいますがアイスバケツ・チャレンジでお馴染みになったのかなってないのかわからないが筋萎縮性側索硬化症、ALSネタの映画でした。10万人に1人の難病ということね。

そう来たかー。序盤からやたら不自然に主人公の女子高生(平祐奈)が転んでたのは伏線だったのかーあれはー。こっちは難病っていうよりネタ知らないからキラキラ映画として観に行ってるからね。キラキラ映画ってそこそこの頻度でめちゃくちゃ不自然に天然属性の女子高生が転ぶじゃないですか。何を言っているかわからない人もいるかと思うが転ぶんです。なんか意中の男子と一緒に歩いてる時に転んで咄嗟に男子がキャッチして良いムード的な。

だからいちいち転ぶ平祐奈をあーキラキラしてますねと思って観ていると突然「足が…動かない!」。ALSネタだと知った上で観れば予定調和の展開でしかないが知らない目には突然の転調がショッキング、思わず唸る仕掛けである。他にもキラキラ映画的な登場人物とか(主人公に嫉妬するやたら意地の悪いクラスメート女子とか)ロケーションというのがとくに序盤に連打されるが、戯画一歩手前のベタなキラキラ映像をリアリティを重視した後半の難病展開と対置する形で、まさしくキラキラしていたあの頃…という形で取り入れているように見えるので、白濱亜嵐と平祐奈のダブル主演とかいうキャスティングからはにわかに想像しがたい凝った作り。

監督の三木康一郎は俺の中ではキラキラ映画を撮る二人の三木のうちのダメな方というイメージだったが(良い方は三木孝浩)ちゃんとした題材とちゃんとした脚本(これもちょっと意外なのだが『兄友』の中川千英子)さえ与えればダメな方の三木でもこんなに面白くなるんだというスタイリッシュな映像と繊細なストーリーテリングで、そこも含めてなんだか意外性の塊のようなキラキラ映画だった。

平祐奈の祖父役の奥田瑛二なんかもキラキラ映画とは思えぬ好演でしたしね。そう書くとキラキラ映画に出ているやつはみんなどうせ仕事だからと割り切って適当な芝居をしているかのようだがいやそういうわけではなくて、キラキラ映画的ではないリアルな芝居をしていたなぁという意味で…その点では白濱亜嵐も静の芝居をちゃんとしていて全然良かったですよ。俺の中の白濱亜嵐は『貴族降臨』でハカ踊ってた土建屋のホストだったのでギャップすごい。

でまぁストーリーはゆーてもキラキラ難病ものなのでキラキラ展開から難病展開への巧みなブリッジを越えればそう変わったところはない。みうらじゅん言うところの涙カツアゲ型のざっくり映画にはなっておらず、平祐奈の病の進行に絡める形で部活の剣道に熱を入れる白濱亜嵐とか優希美青と白洲迅の至って平凡な恋愛なんかが並行して描かれる群像叙事詩のスタイルをとっているのは大変に好感の持てるところだったが、面白かったのはやっぱ細かいところ。

序盤はキラキラの王道みたいなことを書きましたが表面的には王道をやりつつ微妙に外してくる。キラキラ映画で屋上シーンとくればこれはもう山です、背景に山入れる。都会型のキラキラ映画ならともかくこれは栃木県足利市で撮ってるので山を入れるのは比較的簡単なことで、実際に山も映り込むわけですが、平祐奈と白濱亜嵐が屋上で会話をしているところでこの映画はあえて背景に屋上から見える住宅街を置く。これはなかなか珍しい。上から見るとオモチャみたいな町並みは確かに映画的には絵になるがいわゆるキラキラ映画で撮る風景ではないですよ。

カメラと俳優の間に窓を置くガラス越しロングショットの多用も目を引くところで、一般的なキラキラ映画は感情移入させてナンボみたいなところがあるのでこういう、観客とキャラクターの間に感情的な距離を作るような物理的に被写体と遠い撮影っていうのは(手間も掛かるし)あんまりしない。面白いっすよね~。それがどういう効果を生むってこれは難病込みの青春叙事詩なので、なんか、どうしようもなく流れていく時間の無情っていうのを感じるし、悲劇でも喜劇でもなくて単にこれが人間の人生だよねっていう、ちょっと透徹した眼差しも感じるわけです。

白濱亜嵐と平祐奈の二人きりの会話の場面なんかで使われる長回しの緩やかなドリー・インも緊張感と仄かなエロティシズムを漂わせてですね…二人きりの会話といえば平祐奈が白濱亜嵐に小声でちょっと悪戯っぽく「したい?」って言うところ、あれもよかったな~。そりゃそのうち可能な動作が限られてくるって分かってたら身体動くうちにヤッときたいですよ思春期女子高生。そこでこれまでは平祐奈をリードしていたはずの白濱亜嵐の方がちょっと恥ずかしがっちゃうっていうのがまた良くてさ。人間ドラマがあるな~って。グッと来ちゃったね。

この場面なんか象徴的だったんですが別に汚い話ってわけじゃないですけどキラキラ難病映画らしい綺麗事にも逃げないんですよね。ALSの病状が悪化してくるとどんな状態になるかっていうのもお涙頂戴でも恐怖の喚起でもなく当たり前の現実としてサラリと描いていて、自分でトイレに行けなくなってショックを受ける平祐奈とか、恋人だからと全部自分で世話しようとしたら絶対に関係続かないからヘルパーを入れるように患者家族にアドバイスされる白濱亜嵐とか、入院した平祐奈を見る奥田瑛二の悲しいんだけれども納得はしているというような表情とか…劇的に強調されないで淡々と描かれるからこそ響くって感じで。

そういう意味では結構大人の映画だと思いましたね。このビジュアルとキャスティングで大人客が観に行くとはあまり思えないが…丹念に作り込まれたキラキラ映画と難病映画の王道にして誠実な融合、とそこからはみ出すついに開花したダメな方の三木の映像美学(撮影は三木とは何度も組んでる板倉陽子)、地に足のついた俳優陣のリアル寄せ演技(役柄的にはモブだが担任教師のなんとも言えない佇まいもALS患者を生徒に持つ教師の苦慮を漂わせて素晴らしかった)に手抜きなしのALS考証と…セックスとメシぐらいにしか興味のないガキカップルどもに見せておくのはもったいないくらいの映画であった。いやセックスとメシぐらいにしか興味のないガキカップルどもにこそ観て欲しいみたいなのもあるけどさ。

※あと眉村ちあきの曲がかかるタイミングが良いんだよ。あのへんはテン年代のキラキラ映画っていうよりゼロ年代の平成難病映画のセンスだよね。静かに沁みる。

【ママー!これ買ってー!】


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シュワの息子主演でハリウッドリメイクもされた(なんで?)平成難病映画の名作。

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