実存的恋愛青春映画『虹色デイズ』感想文(ネタバレ容赦なし)

《推定睡眠時間:0分》

108分も費やして近づいたり離れたりをゼロ繊細でだらだらと繰り返していた佐野玲於と吉川愛がついにくっつくクライマックスで吉川愛が今まさに愛の言葉を発さんとするその時、閑散とした劇場内で誰かがスマホをガタと落とす音が聞こえたが落とす!? そこでスマホ落とす普通!?

しかしそんなことは別に問題ではない。だって胸キュン的な張り詰めたムードとか場内にないからそもそも。うるせぇ野蛮な女子高生グループが来てたんですよ俺の観た回。
そいつらクライマックスの佐野玲於にめっちゃツッコんでましたよ「キショ!」とか「無理無理!」とか。お前らそれ映画の根本否定じゃねぇか。

たいへんよろしい。バカみたいな映画だと思ったら素直にバカにして観たらよいじゃない。真面目に撮ってるからと客が忖度して真面目に観る必要なんてないですよ。
こういうしょうもない(※個人の意見です)映画を映画館で観てよかったと思えるのはこういうしょうもない客に遭遇した時で、きちんと禁止事項を守ってお行儀良く客が騒ぐタイプのイベント上映なんかよりもよほど、しょうもない客の存在は映画は観客が作っていることを実感させてくれる。

ちゃんとした映画ほど観客は多様性と遊びを失うの法則。クリストファー・ノーランの映画を上映しているところに上の女子高生蛮族どもを放りこんでツッコませようものなら私刑ですよ私刑。一番いいとこでスマホをガタと落としても絶対睨まれるか舌打ちを食らうよ。
それにクリストファー・ノーランをひとりで観に行って恥ずかしいことありますか。ないでしょうが。クリストファー・ノーランの映画は豊かな娯楽で立派な芸術で、そのことは観客の私的な判断や感受性を一旦保留にする代わりに彼ら彼女らに一抹の優越感を帯びた一体感と陶酔を与え映画を観ることを正当化するのだ。

翻って『虹色デイズ』はどうか。めっちゃ恥ずかしい。来てるの友達連れの女子高生ばっかだからおっさん一人とか映画始まる前にもう帰りたい。しかもしょうもねぇ内容だから良い映画だから一人でも観に来たみたいな言い訳も効かない。
だが観客の真の自由はこのような退路なしの孤独と無意味の中で達成されるのだ。受動的な観客から能動的な読者へ。同郷人の幻想から異邦人の実存へ。これこそデモクラシーというものだ。

俺は見た。俺は見たぞ『虹色デイズ』に真の自由を! 俺は見た。俺は見たぞ『虹色デイズ』に映画民主主義を! 俺は見た! 俺は見た! 俺はみ…(日記はそこで途切れている)

佐野玲於、中川大志、高杉真宙、横浜流星の仲良し高校生四人組がいる。そのうち佐野玲於が吉川愛に一目惚れ。電車登校の吉川愛と偶然を装って一緒に登校するため佐野玲於は毎朝自転車をかっ飛ばしてはアマガエルを轢きそうになって思わず急ハンドルを切ったその先には泥水がみたいなベタをやるがそれにしてもよくアマガエルを認識できたなその速度で。

本当はビールでも飲ませたかったのだろうが諸事情から変更になったと思しき形跡を生々しく残す栄養ドリンク中毒のパワハラ担任教師、滝藤賢一は俺お前らのこと本当は気にかけてるから的なあざとい演出の中で佐野玲於の底辺生徒っぷりを嘆いていたがロードバイクで全力走行中に路上のアマガエルを見分ける動体視力は買ってやれよと思うしあと滝藤賢一おもしろい怪演でしたけどその切り取り方がダメだからやっぱパワハラ教師にしか見えねぇ。

トータルではともかくそこだけ見ればあまりに拙い演技くしゃみを更にはそのシーンでのみ唐突に連発するから白々しさがRGBでいえば255,255,255な吉川愛にブタクサのアレルギー対策を教えるなどして吉川愛との距離を縮めていく佐野玲於に吉川愛の親友・恒松祐里が健さんばりの三白眼で待ったをかける。
実はありふれた家庭の事情によりありふれた男性不信に陥ったありふれたガテン系兄貴を持つありふれた恒松祐里(でもこの人はこんなしょうもない映画で一番演技に熱が入っていたと思うのであまり悪くは言えない)だったので親友が吉川愛に取られることが我慢ならなかったのだ。我慢ならないからストーキングとかする。我慢がならない。

さてそんな恒松祐里をどうするか。佐野玲於の恋愛を成就させたい中川大志、高杉真宙、横浜流星は絶対こいつそんなの来ないじゃん的なクリスマスホームパーティに彼女を半ば強制的に招待して超ローテンションでパーティに現れるやホスト的なケーキのロウソク消しちゃってコールをかけたりして懐柔しようとするのだったが予期せぬコールを生理レベルで全力拒絶した恒松祐里は雪降る町へひとり駆け出す。

恐怖の鈍感男ども。そんなの恒松祐里みたいな心的外傷を負ってないノーマル枠の人付き合い苦手人間の俺でも裸足でダッシュですよ。
だかバカどもにそんな心情は少しも通じない。ひとりになりたい恒松祐里をそれはスマホで連絡をとればいいだけなんじゃないかと思うが非情にも追いかけて町へ繰り出すバーバリアン系男子たち+吉川愛。

やがてバーバリアンズのひとりが陸橋でスーパー孤独タイムにインする恒松祐里を発見。「そんなところにいたら攫われるじゃねぇか!」どんだけ治安悪いんだよそこ。その流れでわたしに構わないでの正論を一切無視して強引に恒松祐里の唇を奪おうとする場面へと続くので性犯罪というのはこういう、加害側が意識しない形で起こるんだろうなぁとボンヤリ思っているとショック! さっきまで元気いっぱいに消しちゃってコールをしていたはずの佐野玲於が煌びやかなイルミネーションの下で立ち上がれないほどの高熱に冒されているではないか!

俺もびっくりしたが発見した吉川愛も大いにびっくりしたから動転するこころを抱えてとりあえず佐野玲於を家に連れ帰ろうとするのだったが急性症状だったため途中で白目をむいて倒れてしまいショック! 倒れた拍子にキス!
バカじゃねぇか。バカじゃねぇか。バカじゃねぇか。三回言ってもまだ言い足りないラッキースケベ的キスが少女漫画ないし少女漫画原作映画とポルノグラフィの親和性を強調するが本当に偶然のラッキースケベならともかくクライマックス直前の佐野玲於による走馬灯的想い出フラッシュバックの場面にしっかりこのラッキースケベ的キスも組み込まれていたからその前後のショットとの連続性を考えれば無意識と見せかけて佐野玲於はきっちり事故キスを記憶していたし仮にそのような演出意図がないとしたらストレートに編集ミスだから編集にも自分の名前をクレジットしている監督の飯塚健さんこと井上和香さんの夫はちょっと考えてほしい、色々と。

女は守られるもの。男は守るもの。男はカップ麺とか大好き。女はケーキとか大好き。女は電車通学で男はチャリ通学、な性差別的記号的出だしは地方学園映画の大ベター。
つらい。つらいよ。そんなつらい映画を女子高生どもがあざ笑っているのと同じ場で一人で見てたんですよ俺は。その状況。カミュだ、カフカだ、サルトルだ…。

あと仲良し男子四人組の中に実家がすげぇ金持ちで金持ってるから学校の成績も良くて趣味人でみたいな残酷すぎる設定の人がいるんですけどこいつが恋人とやってるコスプレがまた残酷であぁそのへんは作る側は本当に興味がねぇなっていう、オタクの記号だけあればいいんだなっていう雑さ加減があまりに残酷でそれはせめて隠そうとはしろよと思うが隠そうともしないのでこころが痛い。悪意の攻撃より無邪気な無関心の方がつらいこともある。この映画の場合がそうだ。安直な男尊女卑も含め。

わけのわからない演出多数。アマガエルに英語ネイティブっぽい人のサンキューの声をかぶせる意味がわからないし何がおもしろいのかもわからないが都合三回ぐらい出てくる。
微妙に対象世代を外したようなポップソング大量使用。全然そこに繋がる必然性を感じないところで急にレキシの「きらきら武士」が流れたりするのでお前ふざけんなよ曲でごまかすなよと思うしレキシ流したら面白いじゃんみたいな糞センス死ねよ。お前には死んでほしくないけれどもお前のセンスは一回死ねよ。岡崎体育とか聞きながら盛り上がってしまえよ!

こんなに感想に体力を使う映画はひさしぶりでした。みんなも見よう。

【ママー!これ買ってー!】


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とくにべつに言うこととかないよ読んでないし。

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