【ネッフリ】『桜のような僕の恋人』感想文

《推定ながら見時間:100分》

このあいだ何年かぶりの花見をやった時に聞いてなるほどと思ったのだが知人が映画はスローモーションにすればなんでもエモくなるというようなことを言っていた。スローモーションを多用する邦画ジャンルといえばキラキラ映画、出会いですれ違いでキスで手繋ぎで別れで事故でともうあらゆる瞬間がスローモーションになって確かにこれはエモいことこの上ないわけで、とすればこの時間操作志向はキラキラジャンルが意外や時間SFネタの秀作をこのSF映画不毛の地ジャポンにあって何本も生み出していることと無関係ではないかもしれないとか思ったりもする。

『桜のような僕の恋人』は主人公カップル(松本穂香と中島健人)が成人しているので狭義のキラキラ映画ではないし時間SFでもないのだが、演出のタッチは紛れもなくキラキラ映画だし時間を扱った悲恋ものでもあった。いつもの美容院でいつもの美容師・松本穂香に髪を切ってもらっていたカメラマン志望崩れの中島健人は松本穂香のうっかり☆ミスで耳たぶを切られてしまい大出血、きゃーのベタな記号的悲鳴が上がりるんるん気分の美容室は一転して惨劇の場に。だが中島健人は心の中で小さく拳を握りしめていた。よし…これで貸しができた…今デートに誘えばきっと断れない!

被害者といはいえろくでもない魂胆はガッツリ見透かされていたのでボクサー崩れで飲み屋の大将とかいうまたベタだないやベタっていうか…橋田壽賀子ドラマ? な松本穂香の兄は「そんな野郎俺がぶん殴ってやる!」と客前でキレ散らかし松本穂香自身もうーわマジかよ普通思っても言わねぇだろ的な激冷めテンション、デートをしたところでかなり最悪な結末しか予想できないわけだがそれは現実ではの話でこれはキラキラ演出の邦画難病恋愛映画です。現実ではあり得ないことですが二人は仲良くなってデートを重ねるのでした。くそっ!

今話題のザ・業界パワハラに耐えかね一度はカメラマンの夢を諦めた中島健人だったが松本穂香の勇気づけられ再び頭を下げてパワハラ職場へ。他にカメラマンになる道いくらでもあるだろっていうかお前は現場を探す前に写真を撮れよもっと日常的にとは思うがイケメンがパワハラに耐える姿はみんな大好きなのでこんな展開は外せません。一方、松本穂香はといえば…幸せの絶頂で早老病の診断を受けてしまった! 以降超速で進行する老化現象が相思相愛の二人を引き裂いていくというわけでこれも時間に関するエモの映画なのでした。「桜のような」っていうのは桜みたいにすぐ散っちゃうってことですねなるほど!

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面白いのはキラキラ映画のとくに地方でロケしてるやつは数少ない観光名所だからか絶対に橋を撮るっていうセオリーがあってこれは首都圏もののキラキラ映画では他に売るもの多数だからかそうでもないんですけど、この映画は舞台が東京も東京の結構中心部ぐらいなところなんですけどわざわざ橋のドローン撮影を入れたりしてるんすよね。いや、だから何って思われるかもしれないですけど! でもほら、それがキラキラ映画としてこの映画を撮ろうとした証左っていうかさ。証左だとしてもだから何感はすごいがとにかく俺は面白かったのそういうの! 劇的にファジーな映像とかね! あれはもうキラキラ映画でしかあり得ないから!

だがそういうキラキラ映画っぽい絵面が乱発されるのは松本穂香の病気が発覚するまで。以降は沈んだトーンの画と演出になって要するにこれは二人の人生最良のラブラブ期間をキラキラ映画的に撮ることでその特別な時間を引き立たせている、という実はちょっとテクニカルなことをしてる。テクニカルと言えばおおっと思ったのがナレーションをエモ演出として使っているところで、この手の映画のナレーション(独白)なんか鈍感な観客に対する説明のために用いられることしか基本的にはないわけだが、この映画では老いて変声した松本穂香(ではなく演じるのは別の老人俳優なのだが)のリアルな声を先に観客に聞かせておいて、後に彼女からの手紙を中島健人が読む時にはその頭の中で再生される声として若かった頃の松本穂香のナレーションが入る。

このナレーションによって中島健人の中で松本穂香はいつまでも変わらない姿をしていることがわかるし、それは美しい純愛のようでいて、中島健人がそのイメージから離れられないからこそ彼は大事だったはずの松本穂香を失ってしまったのだ、という男の身勝手と弱さの表れであることもわかる。うん、つらい! まぁでも本当につらいのは早老病の松本穂香だからねってことでそのへんの描写もまぁまぁちゃんとやっていてよかったよね。兄貴のさ、恋人っていうのがよく家に来て飯作るの手伝ったりしてくれんのよ。で病気発覚前は松本穂香と兄貴の恋人すげぇ仲良かったんです。でも病気が進行してきたら松本穂香その人にもうウチに来ないでって言うのね。なぜって健康で幸せでいることに嫉妬するから。好きだった兄貴の恋人に嫉妬して嫌いになる自分を想像すると耐えられないから。

あるなぁ。こういうあるなぁ。ないけどあるよこういうシチュエーション。兄貴もさ、最初は荒くれ者みたいなやつだったのに松本穂香が病気になったらもうしょぼんしょぼーんとしちゃって声を張る元気もなくなっちゃって、そんで標準治療じゃ対症療法にしかならないからって超怪しげな代替医療という名の詐欺にハマっちゃうんですよ。でもハマってるのは兄貴だけで当の松本穂香の方はそんなに乗り気じゃないっていうか、兄貴を失望させたくないからとりあえず詐欺医療受けてやってるみたいな感じがある。あるなぁ。こういうのあるなぁ。…いや、ないけどさ! まぁでも…わかれよ!

こういう難病映画としての痛みつらみも序盤のキラキラ映画風演出があってこそで、また逆に難病映画展開があるからこそキラキラタイムはかけがえのないものになる。難病パートもキラキラパートも何かを声高に訴えることはなくどちらかといえば展開にしても演出にしても淡泊な部類に入ると思うのだが、二つのパートの相互作用が劇的な効果を生んでいて、案外安っぽいところがある映画なのだが安さを感じさせないエモがあった。エモがあれば映画は正義だ。なんか悔しいが世の中そんなもんだろう。世の中もそうだが俺もそんなもんだ。

というわけで『桜のような僕の恋人』は面白い映画でございました。やはり時間テーマのキラキラ(系)映画に外れなし!

【ママー!これ買ってー!】


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キラキラ時間SFの佳作。こちらは絵面のエモはそんなに強くないのだがシナリオが面白い。

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2 Comments
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匿名さん
匿名さん
2022年4月16日 8:46 AM

キラキラ映画が公開されるたびに感想を楽しく拝読しております。

1点、早老症を発症した後も代役立てず、松本さんに特殊メイクしてご本人が演じられているようです。おそらく声もご本人ではないかと…?
https://www.banger.jp/movie/75180/