トリガール映画『ハッチング―孵化―』感想文

《推定睡眠時間:0分》

映画が始まってすぐに主人公家の窓に鳥が激突したが最近洋画で鳥が窓にぶつかる場面をよく見る気がして例を挙げれば『イレヴン・ミニッツ』とか『新感染』とか『リフレクション』とかそれぐらいしか浮かばないのでまぁそう多いわけでは案外なかったが使われ方はだいたい同じで凶兆、もしくは心理的凶兆をあらわす。現状に不満があってなにか心に溜め込んでいるけれども様々な理由からそれを外に放出できない人がいるところに鳥は激突する。そういえば『イレヴン・ミニッツ』も『新感染』も『リフレクション』も顔色の悪い子供が出てくる映画というのは面白いところだなと書いてはて『イレヴン・ミニッツ』には子供は出てきていただろうかと即疑問が生じたのでこんな脳はアテにならない。

そんなことはどうでもいいとしてですが俺にとってのこれ結構正体不明系の映画でポスターやら予告編やらを見てもなんやよくわからん、まー卵を拾ってきたら家が変になる映画っぽいので? 卵が怖い映画かな?(なんだそれは)とか思っていたわけですが蓋を開けるいや殻を割りましたら怖いのは卵ではなく卵から出てきたものでもなく主人公家のママでした。

映画が始まるとぶわっとしあわせフィンランド理想家族風景が広がり下の子供(男児)はなにやら楽しそうに駈けておりますし上の子供(この人が主人公の女子)が新体操みたいなのをやっておりますし華美な調度品の並ぶ照明過多のセレブハウスじみた居間にはにっこり笑顔のパパとママがおりますしうわー逆にしあわせすぎてグロテスク無理! となっている観客(俺)の思いをスクリーン越しに察知したのか空気を読まないカラスが窓に激突、そしてその処理をしようとしていたところにナイスタイミングでカラス第二陣が舞い込みセレブハウス的室内ガシャーンガシャーンガシャガシャガシャーン! ああ! 高く見せかけているけど実際はわりと安物かもしれない調度品の数々が! シャンデリアが! 壁が! 食べ物が!

気持ちよく暴れ回っているカラスと唯一心を通わせなんとか捕獲することに成功したのは主人公の体操少女であった。ママこれどうする? そうね、こんなに暴れたカラスはこう! ふん! 笑顔&素手でカラスの首をねじ切るママの迷いのなさにちょっと笑ってしまうがママこわいよママ。やがて明らかになるのはこのママ人気ライバーになるためならなんでもするライバー界の星一徹、部屋の華美装飾もセレブ見せかけ配信に使うためのものであり、ママ一徹の保護下で主人公はわりとキツイ思いをしているということなのであった。さて、そんな折、少女は森でカラスの卵っぽいなにかを拾うのだ…。

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まぁ寓話だよね。最近は寓話ホラーっていうジャンルが確立されてきた観もあって『聖なる鹿殺し』とか『ビバリウム』(これは寓話かSFか見方が分かれる映画だが)とか、あとなんですかねぇあぁ『ライトハウス』とかね。A24とかそのフォロワーのホラーはだいたい寓話ホラー。不条理なシチュエーションを通して登場人物の普段は外に出さない不安とか怒りを怪物の形で描き出すっていう、そういう構造をもったやつ。

だからこれはポスターとかは正体不明感のあるビジュアルですけど展開的にはそう意外なこともなく予想の出来る範囲で、変な映画ではあるんですけどもっと振り切れてくれてもいいのなっていう消化不良感すらあった。主人公は一徹ママから優等生を求められてますけど(見栄えを重視し勉強ではなく体操と振る舞いで)この映画自身もどこか優等生的なところがあって殻を割るまでいかない。反抗期の寓話として見れば綺麗にオチついたとも言えますけどね。

とまずは下げつつここからはよいところばかり書きますがホラーともブラックユーモアともつかない笑うに笑えないギャグ? がツッコミ一切不在状況で不意打ち的に次々繰り出されるのはなかなかシュールで面白かった。説明しにくいんだよなーこれはー。たとえばさ、ママが不倫しているのを知っているが文句を言ったりできない気弱パパがちょっと震えながらママは貪欲だからねって朝食の席で主人公に言ってその後で言い直すんだよ、ママは元気だからねみたいな感じで。そのなんともいえない悲哀がさ、ちょっと笑っちゃうのよ。これ松本人志のコントとか映画に近いかもしれないな。カメラに映えないから配信のネタに使えない下の子供をママが基本無視するんだけど下の子供は鈍感だからとくに気にしないとかさ。あとこの子供がパパと瓜二つでそれも可笑しい。そういう笑いどころが間違い探しみたいに散りばめられてるんですよ。

あと卵から孵化した怪物ね! 怪物かわいいよ怪物、グロテスクとキュートの中間を攻める造型であんな怪物俺もほしい。まぁでもグロキュートなのは最初だけで育つとうーんそっち方向に行くカーってちょっとガッカリしますけどね! この怪物は主人公の内面が投影されたものなわけだから怪物が成長するということは主人公の心もそれに伴って成長するということでもある。一種のドッペルゲンガー譚、ユング心理学でいうところのシャドウの物語でもあるわけで、怪物に焦点を当てたお話ではないのでそこらへんはしょうがない。とはいえ、成長過程で怪物が見せる様々な相貌は生理的に厭なものがあり見事なのだが!

で、ママですよ。ママもうママー! ママ基本ずっと配信用のキラキラ笑顔を浮かべてるけどこわいよーその笑顔こわいよー。どうしても娘を体操大会に送り込みたいママが主人公とは仲良しのライバル生徒にさり気ない一言でメンタルダメージを加え主人公に対しては星一徹ばりのスパルタ特訓を施す場面とか怖いよーママー。ぶっちゃけママの方が怪物より怪物ですからね。ママの望むことを主人公はするし、主人公の望むことを怪物がする…ということは、ママ=怪物なのだ。思春期反抗期の主人公女子にとっては。

おもしろいですねこの不穏。笑える不穏。このキュート。グロテスクなキュート。そんな映画でした。

【ママー!これ買ってー!】



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SF的にも不条理劇的にも観れるがここはやはり家族というものの得体のしれなさを描いたホラー映画として観たい。

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