殺人鬼と話そう映画『死刑にいたる病』感想文

《推定睡眠時間:0分》

主人公の大学生・岡田健史に幼なじみの宮崎優が「お酒飲みたい」って言うシーンがあってこの台詞はついこのあいだ『N号棟』でも主人公の大学生が言っているのを聞いた。その意味するところは「セックスしたい」なのだが、いやなんなんだお前らお前らっていうかこの台詞を書いてる脚本家! そんなもん隠語にすなよセックスぐらい台詞に書けや! てかわざわざ書かないでもいいわ普通にセックスシーン描写すればいいわ! なんなん! なんなん!!!

こういうの本当よくないと思うんですよ。セックスしたいときはセックスしたいと男も女もトランスもみんなハッキリ言っていくべきじゃないですか。俺はセックスをエッチと言い換えることにも反対ですからね。なにがエッチだバカヤロー! セックスはセックスだろうがエッチと言ったところで可愛くもマイルドにもならねぇだろうがエッチだろうがセックスだろうがしょせんは肌と肌の擦り合いと体液の交換でしかないでしょうが!!! あとセックスをSEXと英語で書いたところで別にいやらしさに変化はない!!!! いやらしさに変化はない!!!!!

こういう風に言うべきことを正面から言わず対立と傷つきを恐れて婉曲的な言い回しで良しとしてると連続殺人鬼なんかにいいように使われるんだえそうなの!? それは関係なくないか!? 確かに俺も関係ないとは思うがでも文句を先に吐き出しちゃった都合どうにかして映画の話に繋げないとなんか申し訳なさが出るっていうかそういうのあるからね! いや、でも一理はある! あるはずだ! この映画の主人公ときたらとにかく言いたいことを言えずいつも下を向いてイライラ鬱々としている人間なのだがそんな彼の下に届いたのが高校生23人殺しを成し遂げた悪名高い連続殺人鬼・阿部サダヲからの手紙! こんな俺の気持ちをわかってくれるのは連続殺人鬼だけかもしれないな~なーんていって事件に深入りするうちに大変なことになっていくのですからやはり!

言いたいことははっきり言う! セックスをしたい時は「お酒飲みたい」ではなく「セックスするべ」! デートの時は流れでなんとなくラブホに入るのではなく「じゃここらでセックスしよか」と言って入る! エッチなどという言葉は今日から禁止外来語だ! そのようにして風通しのいい性のコミュニケーションを日頃から行っていれば邪悪な連続殺人鬼に目をつけられることなどないだろう! 防犯としての、セックス!

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と下らない話で(いや俺はセックスをセックスってちゃんと言うことは性的合意の観点からも大事なことだと思ってるけどね!)お茶を濁しているのはこの映画のオチ、というかトリックの部分に俺はおいおいおい~と思ったのだがそれを書くとネタバレになってしまうのでどうしたもんかなと考えながらとりあえず書き始めてしまったためだ。どうしたもんかな。うーんとですね、ネタバレにならない範囲でギリ勘のいい人にはわかるように言うと、90年代のドラマにこういうのあったよね。でそれは面白いけどリアリティとしてはそんなにないし作り手もそういうつもりで作ってなかったよね。だからそれをリアルでシリアスなミステリーのネタとしてこの2022年にもなって使われてしまうと、ちょっと白けるね。あちなみに90年代のドラマって「カンチ、セックスしよ」の『東京ラブストーリー』ではねぇから! わかるか!

そこがいちばんわかりやすいところなんですけどこの映画って全体的にリアルな話ではないんです。でもそれを映画の嘘でリアルにやろうとしてちょっとうまくいってないっていうか、観ているこっちが「なるほど」とか「確かに」って思えるような迫真性が足りない。たとえばね、阿部サダヲの連続殺人犯ってこの人栃木の田舎でパン屋やりながら人殺しまくってたんですけど、近所の人とかはみんなあの人はエエ人だったと回想したりするんです。みんなに好かれてたけどその裏でってキャラ。でも阿部サダヲがどういう演技をしてるかってニコニコしながら猫なで声で「君を信頼してるよ」とか「頑張ってるね」とかやたら言ってくる。いや、普通にウザくない? って思うし、田舎の人って野蛮だし僻みっぽいから(要出典)こういう下手に出てくる奴って逆にめちゃくちゃ警戒すると思うんすよね。何考えてるかわかんねぇっつって。だから栃木の田舎でみんなに好かれてたってキャラ設定に俺は全然説得力ないなって思ったんですよ。

それでいうと主人公とかもそうでさ、鬱屈してるのはわかるんですけどそれを連続殺人鬼との対話+事件の再捜査だけで晴らそうとする心理に映画とはいえ無理があるんじゃねぇかなって俺は思うのよ。だって俺むしゃくしゃした時にはツイッターで誰かしらに議論を吹っかけるもん。それがあまりよろしくない趣味であることはわかっているがいや良いとか悪いとかじゃなくて! 今時の若者なんだから鬱屈の晴らし手段なんていくらでもあるよね。別にツイッターやれよってことじゃなくて俺が言いたいのはこのキャラクターを表現するための描写が足りないんじゃねぇかってことですよ。たとえばさ、それこそ夜中にぼーっとツイッター画面スマホで眺めてて何度も何度も画面を上にスクロールしてリロードするけど全然タイムライン更新されないみたいなさ、そういう描写を一つ入れるだけでもだいぶ主人公の人物像に奥行きが出るじゃないですか。あぁこの人は現実に居場所がないしネットにも居場所がないんだって。

そういうディティールが足りないっていうか、全然無かったと思う。色んなキャラクターに。だから何が起こってもなんか軽いんですよ。映像とか音楽(効果音含む)はなんとなく重たくてシリアスなんだけど起こる出来事は絵空事にしか見えない。連続殺人鬼に関わるうちにダークサイドに堕ちていく大学生っていうプロットならもっと厭な怖さがあってもいいのに、単に根暗で煮え切らない主人公にイライラさせられるばかりで怖くないどころか(さっさと殺っちゃえよ)とか物騒な思いすら抱いてしまう。

プロット自体は取り立てて良くもないが悪くもないので、この手のミステリーの得意な韓国映画界とか台湾映画界が作っていたら…と思う。っていうか作ってる側も韓国映画とか台湾映画を意識してたんだろうとは思いますけどね(だから決してつまらなくはないのだが)

【ママー!これ買ってー!】


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島田荘司の原作を映画化した台湾ミステリー。トリック自体は大したことがないが冷静に考えればわりとしょうもないような話でも映像力で見せ切ってしまうのが今の台湾映画界。

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