話題邦画二本立て感想文『やまぶき』『はだかのゆめ』

インターネットの口コミによるとどちらもたいへんな傑作だということで昨日今日インターネットを始めたわけではない俺にはそれがかなりの誇張口コミであることがわかっていたがそれでもそんな風に褒められていればやはり気になってしまう…気になってしまうよ! という邦画を2本観てきた。

まぁいいけれども。まぁいいけれどもほらインターネットって一部の人の声が多くの人の声よりもでかく響いちゃうようなことあるじゃん。それはマイノリティの声がマジョリティと同等の力を持っているということだから一概に否定すべきではないと思うが、でもほらさぁ、やっぱね、そういうのどうなのって疑う眼と頭は持っていたいよねっていう、そう思ったよね! 婉曲的に作品をディスるんじゃない。

『やまぶき』

《推定睡眠時間:0分》

地方を舞台にした日本のインディペンデント映画には河瀬陽太か松浦祐也のどっちかはだいたい出てる説が最近俺の中でアツいがこの映画には高橋ヨシキ監督作『激怒』で刑事役だった河瀬陽太がまたもや刑事役で登場するので「やっぱり!」とか思ってしまった。ちなみに松浦祐也もちょっとした役で出演しているので更に「やっぱり!」。これで木村知貴も出てたらある意味MCU映画だったよな。アッセンブル! 古いかもう。

それでどういう映画かと言いますとこれは岡山が舞台の群像劇で一人は採石場で働く韓国人の肉体労働者、この人は子持ちの保育士と同居していて子どもとの関係も良好、仕事では正社員登用の打診も受けて順風満帆と思えたが、思わぬ事故に巻き込まれて人生の歯車が狂ってしまう。もう一人は戦争反対とか9条守れとか沖縄の基地移転許すなとかあと増税するなとかっていうプラカードを持ってかなり人通りの少ない交差点に立ってる人たちに交ざってる日本人女子高生。受験も近いのにそんなことばかりやるなと刑事でシングルファーザーの父親に言われて親子仲は冷め切ってる。もう一人はその刑事で、夜系のお仕事をしてるっぽい中国人女性となにやら深い関係にあるこの刑事は地元で起きた現金強奪事件を追っている。それぞれ別の人生を歩んでいる三人の運命は少しずつ交錯し…というのがそのあらすじ。

途中まで左翼の映画かと思ってた。リベラルじゃなくてこれは左翼。カタカナ表記じゃないところで別に揶揄する意図はないと汲んでほしいが、街頭デモはいかにもだし演説調の台詞もなんだか共産党の宣伝みたい、多様性や非定型的な家族の在り方を尊重したいという思いはわかるがこれではさすがに露骨で映画として稚拙じゃないか…ってな感じである。でも違ったね。いや別に左翼映画なら左翼映画でもいいと思うけど大事なところで思想の伝達よりも映画的なダイナミズムを取っていて、単なる政治主張映画にはなってない。

多様性とか非定型家族の尊重というのもドグマ的なものではなく地方に暮らす中で(監督は岡山で農業やりながら映画もやってるらしい)当たり前に見るリアルな風景から生まれた生活者の実感のこもったもの。なぜ女子高生は左翼デモに行くのか、なぜ採石場の労働者は危険な橋を渡るのか、なぜ刑事はやたら山に行きたがるのか。最後のはともかく一見して突飛に思える行為にもその足取りをしっかり辿れば地に足の付いた理由がある。それを丁寧に見せていくことでどんな人間にも事情はあるんだという風に隠れ移民社会日本の今の風景を肯定する、そんな映画だと俺は思ったな。

シナリオは気が利いているとは言いがたいどちらかと言えば素朴なもので、色々期待させるわりには十全に展開されないので消化不良感があるが、なんだか土から生えてきた雑草のような(そこは山吹と言うべきだろうが)映画という感じで巧い映画にはない魅力があったように思う。ちなみに役者陣は芸達者を揃えているわりにはあんまり映えてなかった。

『はだかのゆめ』

《推定睡眠時間:0分》

幽霊の映画だがこの映画に出てくる幽霊は怖いものではまったくなく多少ふわふわしたところはあるものの生身の人間と同じような感情や意識を持っているし時折ふらっと実家に帰ってきてそこらへんをほっつき歩いたりしてる。これがお盆の映画なのかそうじゃないのかはよくわからなかったがお盆に先祖が戻ってくるとはきっとこういうことなんだろう。どこまで時代を遡るかで伝統という言葉の意味するものなど180°変わってしまうのだから安易に伝統的ななどとは言いたくないが、しかしこういう幽霊観にはやはり日本らしさを感じてしまう。生きているようで死んでいるようで、コミュニケーションが取れるようで取れないようで、何も考えていないようで胸に何かを秘めているようで。見守っているようで見守られているようで。

でこれはその幽霊の里帰り浮遊感のあるタッチで描いた映像詩、イメージの断片はあるが確固たるストーリーはなく、幽霊と一緒にどこかの小村の生活に何日間か寄り添うような感じの映画となっている。何を言っているのかあまり明瞭には聞き取れない独り言を言いながらそれぞれの仕事に勤しむ人々、その中にふっと紛れ込んで話し相手になったりする幽霊、それを誰もなんとも思わず当たり前の出来事として受け取る。都市では人と人の関係が希薄なように幽霊と人間の関係も希薄で幽霊といえばよくわからない怖いものだが、都市性とは無縁の田舎の小村では幽霊も他人ではないので怖いことはない。なにか幽霊というものについて新鮮な視座を提供してくれる映画である。

ぶっちゃけ俺はそんなに面白い映画とは思わなかったが映像詩ゆえこのセンスや世界観がめっちゃ合うという人はきっといるんだろう。ハッとするような場面は確かにあった。暗闇の中に電車の光がふっと入ってきて線路沿いの道を走る主人公を追い越していくところなんかカッコイイですよね。しかしそれぐらいしか思うことがない。ガサツな人間なのよ俺は。

【ママー!これ買ってー!】


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『はだかのゆめ』はこの映画にちょっと似てた。

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