世界を学ぶ映画二本立て感想文『マリウポリ 7日間の記録』&『グレート・グリーン・ウォール』

イメージフォーラムで面白そうなドキュメンタリー映画がやってたので観に行ってきた。どちらも世界の広がる映画です。

『マリウポリ 7日間の記録』

《推定睡眠時間:35分》

なんだかとても眠くなる映画なのだがそれというのも劇的な瞬間というのが出てこない。ウクライナ戦争勃発直後の激戦地マリウポリで教会に避難した市民にカメラは密着するのだが、市民が戦時下っぽい(?)話をすることはあまりなくまた軍隊の姿も周囲にはない、そこがウクライナ戦争の主戦場であることを示すのは倒壊した建物群と背後にボソボソ響くロケット弾かなにかの音だけで、それも実体が見えないものだからずっと聞いていると雷鳴かと錯覚しそうになる。要するにそこは戦争報道によってこちらの頭の中に出来上がった「最前線」にはとても見えないのである。何に見えるかと言えば震災の被災地の光景に見えてしまうのだ。

そのあえて言うならつまらなさがこの映画の存在価値だなと思った。希望は戦争なんて言って話題になった人もいたけれど、その人が戦争と言う時に思い描いているのはなんというか非常に刺激的で同時に破滅的で、そしてパッと始まりパッと終わってしまう花火のような戦争で、もう長い間軍事衝突を経験していない現代日本の人たちは当然ながら俺も含めてそうした戦争イメージを大なり小なり持っていると思うが、でもそうじゃないんだよなたぶん、実際の戦争って。

戦地にいる非戦闘員にとって戦争って単なる壊れた日常で、壊れてはいても日常は日常だから刺激的なことってない。あるのは慣れと不安と倦怠と飢え、様々な種類の痛みと疲労、諦め。それが一日二日じゃなくてずっと続くっていうのが戦争なんだろうなってこの映画観て思ったよ。ぜんぜん面白くないですね戦争って。良識ある人には当たり前だろうと怒られるかもしれないが…。

市民と共に避難生活を送るカメラは避難市民に見えるものだけを映し出す。時には市民の目となって何もない、遠くに煙が上がっているのが薄ら見えるだけの市街地風景を延々と眺める。そこに無力と空虚を感じ取って、様々なフィクションや戦況報道の作り出すヒロイックな戦争の幻像を打ち砕くことは、何を直接変えるわけでもないにしても、戦争の狂気に対する静かな抵抗になるんじゃないだろうか。解毒する映画である。

『グレート・グリーン・ウォール』

《推定睡眠時間:30分》

グレート・グリーン・ウォールというのは大西洋からスエズ運河までアフリカ大陸を横断する、サハラ砂漠南縁部・サヘル地域に建設中の植林地帯、またはそのプロジェクトの名称を指す、らしい。サヘル地域は気候変動の影響を受けて目下のところ砂漠化が進行しているらしく、農業を主産業とする貧国ではこれは死活問題。農業が継続できなければ人は住めないし経済も止まる、貧すれば鈍するで折からの紛争は激化しますます人が住めなくなってヨーロッパに難民が殺到する。それでいいのかいやよくない。今こそアフリカンドリーム、今こそサヘルにグレート・グリーン・ウォールを形成して砂漠化を止め雇用を生み負の連鎖を止めるのだ!

というわけでこの前代未聞の大ビッグプロジェクトをマリ出身の歌手インナ・モジャが現地を巡りながら紹介してくれるのがこれなのだがあんま面白くなかった。最近の俺ブームはアフリカ映画なのでこれはアフリカ資本の映画ではないとしてもアフリカの色んな風景が見られるだろうとそこそこ楽しみにしていたのだがそういう映画じゃなかったね、これは俺言うところのナビゲーション映画ですよ。プロジェクトの解説や啓発が主目的なので(エンドロール前に「このプロジェクトをみなさんも支援してください」みたいなテロップが出る)ドキュメンタリーとしての掘り下げや意外性は皆無に近い。

そりゃあグレート・グリーン・ウォールについてはちょっと寄付しろと言われたら800円寄付するぐらいには(それだけか?)賛成ですし現場で頑張ってる人には大いに今後も頑張ってもらいたいとは思いますよ。でもそうじゃなくて、というかそうだからこそとも言えるが、もっと具体的にグレート・グリーン・ウォールに迫ったり、それに対する現地の人々のリアルな声を拾って欲しかったよ。だってめちゃくちゃでかいプロジェクトじゃないですか、何カ国も横断する植林地帯形成なんて。そしたら当然聞くだけでめまいがしそうなほど大量の問題点とか懸念材料っていうのが出てくると思うんですよ。

だけどそれには触れないし、インナ・モジャは確かにグレート・グリーン・ウォールに沿ってアフリカを旅するんですけど、交流するのはプロジェクトの現場責任者みたいな人とか現地ではそれなりに有名っぽい歌手とかばかりで、町の人にグレート・グリーン・ウォールって知ってますかと聞くようなこともない。こんな素晴らしいプロジェクトがあるんですね、さぁみんなもグレート・グリーン・ウォールを支援しよう! っていう最初から最後までそれだけなんですよ。

こういうプロジェクトがあると知れたのはよかったし、かなり限定されているとはいえ様々なアフリカの風景が見られたのもよかった、行く先々のミュージシャンとコラボしながらインナ・モジャが新曲を作っていくのも楽しいですけど、でももうちょっと映画として気合を入れてくれよっていうか、いや別にふざけてるわけじゃなくてむしろ真面目過ぎるくらいなんでしょうけど、、まぁ、だから、プロジェクトの宣伝に過ぎないような映画だったんだよ。

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