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いったいこれはシリーズ何作目なんだろうか。POVホラーアンソロジーシリーズ『V/H/S』の日本で公開されたものとしては最新作だが、このシリーズ途中からおしりに年号を付けるようになって、それも若い方から順にではなく前回が99で今回が85、各年代に1本とかそういうわけでもないのでどれがどれなんだかぶっちゃけわからん。なんか『V/H/S 84』とかもなかっただろうか? 探せばすぐわかるけどいいです面倒臭いす。
で先々週ぐらいに日本で公開された『99』は思ったより面白くなくて、99というぐらいだから世紀末ネタがたくさん入ってるのかと思ったらとくにそういうことはなく、やってることはいつもと同じなので取り立てて出来が悪いわけではないにしても拍子抜け感が強かった。それと比べると『85』はとくに期待させるようなものがない分だけ逆に面白く見えたな。あれは何作目だったかな、なんかこのシリーズのどこかにインドネシアの改造人間ラボで発見された衝撃のバトル映像的な無茶設定のエピソードがあってシリーズ屈指の名編だったと思うんですが、そういうインパクトの強いエピソードはなかったものの、今回は予算をたくさんもらえたのか映像的に派手なエピソードが多かったので、お金の力で楽しめました。
最初のエピソードは無差別銃撃もの。湖でたのしく遊んでいた若者たちが何者かにライフルで銃撃されボートの上で人体がぐちゃぐちゃになってしまう。その後ちょっと捻った展開になるのだがまたいつものそういうやつかと思わせるこの捻りはいっそなかった方がインパクトが強かったかもしれない。続くエピソードはどこだったかな南米が舞台の災害パニックもの、未曾有の大地震でテレビ局内に閉じ込められたクルーとレスキュー隊が出口を探して彷徨っているうちに街の地下に隠された古の神々の祭殿に辿り着いてしまう……ってなんでだよと思うが、これも途中まではホラーではなくおそらくシリーズ初のパニックものなので新鮮。ちなみにこのエピソードには古の神々に憑依されたおねぇさんが全裸になって男の心臓をえぐり出すというショットがあるが、おっぱいと心臓というまさにエログロが一画面に収まってしまうこのショット、喜んだらいいのか怖がったらいいのかわからない感じがよかったです。
神々繋がりで三つ目のエピソードはスロッビング・グリッスルとスーサイドをドッキングしたようなライブパフォーマンスをやっている女の人がデジタル世界に神を見出す……と書いてもなんかよくわからないのだが、デジタルの世界から悪魔かもしくは邪神的なものが襲ってくるという意味では『デビルスピーク』とか『魔界覇王』みたいなものを狙ったのかもしれない。ところで次のエピソードはスナッフビデオ題材、刑事のもとに何本も送られてきたスナッフビデオは不思議なことに未来の殺人を記録したものだった……というお話だが、このエピソードでスナッフビデオのシーンに流れるのがスロッビング・グリッスルの暗黒ソング「ハンバーガー・レディ」で、なぜかスロッビング・グリッスル繋がりである。
このエピソードは怖かった。殺人シーンの残虐さと薄気味悪さはさすが監督スコット・デリクソン、最近は『ブラック・フォン』とか『ドクター・ストレンジ』とかのメジャー映画を撮るようになって穏健化していたが、この人はホラー映画ファン的には『エミリー・ローズ』、そしてスナッフフィルム題材の『フッテージ』を撮った人なわけで、こういう情のないエピソードだと本領発揮だ。最後らへんはPOVのスタイルを捨てて普通にカット割りしてたから笑ってしまう感じだが。初の無差別銃撃のエピソードの続きを挟んでのラストエピソードは謎の擬態生物ちゃんの実験が案の定失敗して研究所のみんなたいへーん編。阿鼻叫喚だがオチが下らなくて『クリープショー』的な俗悪コミックのブラックユーモアになっていたんじゃないすかね。
予算がおそらく増えたのでそれに比例して今回はどのエピソードも阿鼻叫喚。いや、いつも阿鼻叫喚かもしれないが、いつもはそんなにお金がないので阿鼻叫喚だけど恐怖の対象はカメラにあんまり映らないとかやたら暗いところが多いとかそういう誤魔化しがあったのに、今回は特殊メイクと特殊効果をドシャバシャ使ってゴア描写度高し、恐怖の対象をきっちり作って具体的に見せるのであった。でもそれは一方でストーリーとか発想の面白さで見せる作劇からの後退を生んでもいるので(従来からそんなものはこのシリーズになかったという説もある)、身も蓋もなく見世物化したというか。まぁこのへんは良し悪しだろうな。今回はとにかく血と臓器と絶叫のたっぷり載った凄惨な阿鼻叫喚編。面白かったが、なんか気分が荒む。