《推定睡眠時間:20分》
それ本当にこの映画を観た感想なんですかと怪しまれそうだがデヴィッド・リンチはすごい映画監督だなーとか思った。どこまでも広がる謎の人工空間バックルームというのがこの映画の舞台だが入り込む人間の記憶をこの映画の設定では吸い込んで反射しているらしいので(『惑星ソラリス』みたいな)その一角には主人公の家のリビングの不完全な複製がある。そこで主人公はバックルームの住民たち……これもまたバックルームが作り出した以前バックルームに入り込んだ人間たちの動くオブジェのような不完全な複製ということで映画版『8番出口』を思わせるところだが(その『8番出口』も原作ゲームの元ネタはバックルーム動画ないし都市伝説だろうから面白い関係性)、この住民たちと奇妙な晩餐会を開く。そのシーンが実にリンチの『ツイン・ピークス』および映画版『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』にて登場の精霊たちの棲まう空間ブラックロッジ、通称レッドルームなのだ。その不完全な複製。リンチのブラックロッジはリンチの美意識が炸裂して実に異様にしてうっとりとさせられるけれども、このレッドルームならぬ『バックルームズ』にはそこまでの美意識なりセンスなり哲学なりはないので、同じようなシチュエーションでもリンチ映画のようには残念ながら響かないのであった。
元になったYouTube動画シリーズはたぶん最初の1本しか観たことがないので詳しく知らないが、どうやらこの空間は無限に広がっているとはいっても一応各階層の形はある程度決まっているらしく(仄めかし程度なので不明だが新しくこの空間に人が招かれるとその人の記憶に基づいて部屋の増改築が行われている模様)、そのためにローグライクダンジョンと見せかけて地図を作ることも可能なのだが(とそこで思い出すのは今度は『グレイブ・エンカウンターズ2』というアメリカ産POVホラーの秀作なのだが、いやまぁそれはいいとして)、こういう設定なら『CUBE』みたいにある日突然なんの前触れもなくバックルームに迷い込んでしまった主人公が彷徨いながら出口を探して、その過程で同じように迷い込んだ人たちと協力したり反目したり、出口を探す人もいれば狂ってしまう人もいて、こちらを殺しにかかってくる人もいればバックルームの作り出す不完全な記憶の複製に溺れる人もいて……とかそういう人間模様をサスペンスフルかつゲーム的に見せた方が面白かったんじゃないだろうか。
というか俺が観たYouTubeのバックルーム動画最初の1本はそういうテイストだったと思うのだが、この映画版はA24が配給に噛んでいるとかオズグッド・パーキンスが製作に入っているとかそういう関係なのか、『CUBE』ライクのサバイバルホラーとはならずに人生の隘路に入り込んだ中年主人公がバックルームを発見してそこに人生の何かしらの可能性を見つけようとする的な、なんていうかちょっと頭が良い風に見せたい感じの『世にも奇妙な物語』っぽい不条理SFになっていた。それはそれでもちろんやりようによっては面白くもなるだろうが、人間ドラマが主体の物語なら登場人物の心理や心情はある程度濃く描き込まないとダメだよな。でもこの映画はそれが出来てないと思った。監督がYouTube動画出身のまだ20歳とかの若い人っていうのも関係あんのかな。十代で作った自作動画がYouTubeでバズって若干20歳でハリウッドスタア(キウェテル・イジョフォー)を主役に据えた商業映画で世界的に監督デビューなんて順風満帆な人生を送ってる若造に結婚生活も事業も上手くいかず煮詰まった中年男のドラマを描けと言ってもまぁ無理はあるだろう(脚本は一応別の人らしい)
あまり巧く描けているとは言えない人間ドラマを主体にしてしまったのでバックルームに入るまでは無駄に長く、バックルームに入ってからはバックルームのゲーム的な面白さがあまり感じられない。美術はオズグッド・パーキンスとのタッグで知られる(といっても今検索して知ったのだが)ダニー・ヴァーメット、ロン・ミュエクの巨大人形を思わせる巨人の怪物であるとかレアンドロ・エルリッヒぽいバックルーム内のシュールで騙し絵的なインスタレーションは見物なのだが、その魅力を引き出すような撮り方や展開にはなっていない。新世代の監督の送る斬新体験! 的な感じで売り込もうとしている映画なのではあろうけれども、それにしては既視感が多すぎるし、うむこれは、これはなんだかもったいない映画だ。もしかすると無限住宅地映画の『ビバリウム』でも観てこういうちょっと頭が良い風のお話にしようと思ったのかもしれないが、題材を面白く見せるためのベストな選択は何かという判断の甘さは、なんだかんだ超若手監督の商業監督デビュー作であった。
ちなみにエンドロール後には十数分にも及ぶ特別映像なるものが付いてくる。これはおそらくYouTubeにアップされているこの映画の前日譚的なバックルーム動画だろうと思うのだが、さすがにオマケが十数分は長すぎるし、だいたいこういうのは本来であれば短縮するなりなんなりして映画本編に組み込むべきだろう。そこも含めて、部分部分は面白いけど全体的に詰めが甘いよなぁ。
原作未見で鑑賞しました。「The Classrooms」という類似世界観のホラーゲームは知っていたので、この映画もそういう作品かと思ってたら、「思てたんとちゃう…」っていう感想です。もうちょい短い尺でスタイリッシュにまとめた方が良かったような(全編POV風にすると手垢つきすぎでしょうが)。後半にある食卓シーンは、『悪魔のいけにえ』を連想しましたが、リンチ作品のレファレンスなんですね。まだまだ未見の作品が多いので、勉強になります。余談ですが、この作品の前に鑑賞したドキュメンタリー映画『GUN FISH あなたの知らないフグの世界』は、個人的にかなり面白かったので、よろしければ是非(笑)。
インタビューとかは読んでないので意識的にリンチ風になったのかどうかはわかりませんが、『ツインピークス』に出てくるレッドルームはあんな感じなんですよ。
フグの映画……機会があれば見てみます笑
中年層には伝わりにくいと思うけど、そもそもZ世代向けの映画だからね。
CUBEみたいな方向性にしてしまうと、もう「バックルーム」ではないと思う。
バックルームの魅力って、あの独特の不気味で何とも言えない雰囲気そのものにあるわけで、それをわざわざ面白おかしく演出してしまったら、バックルームではなくなってしまう。
映画以外の作品を原作にして映画を作る時に、どう映画向けにアレンジするかっていうのは、人によって何を良しとするかが異なるので難しい問題かなぁと思います。