宇宙的家庭崩壊映画『カラー・アウト・オブ・スペース ー遭遇ー』

《推定睡眠時間:2分》

自然豊かなアーカムの片田舎で妻はトレーダー自分は果樹園管理とアルパカ飼育そして三人の子供たちの長女はゴスった年頃なので天使と精霊に祈りを捧げる魔術実践というなんでしょうなんといいますか中高年向けライフタイルマガジンの表紙に自分で建てたログハウスで自家栽培のコーヒー豆を使ったコーヒー片手にニッコリ笑っている写真が載るようなドリームライフを送っているニコラス・ケイジでしたがニコケイに安定した老後などない。

何の前触れもなく家の前に落下してきた奇怪な色と強烈な異臭を放つ隕石がニコケイの中高年ドリームライフのすべてを変えた。まずビフォーではニコケイの何十倍か知らん年収を屋根裏部屋のパソコン一つで稼ぎ出していた妻がアフター隕石では劇的な注意散漫に陥りニンジンのつもりで自分の指をカットして「ごはんですよー!」。ビフォーでは健康だった野菜もアフターは…やたらでかいが基本的に食いたくない感じの見た目に育って味も糞だったので「ダンクシュート!」ブチ切れたニコケイにゴミ箱に葬られてしまう。ビフォーでは…とにかくすべてが変わってしまったのだ。でも隕石前から結構壊れた感あったけどなこの一家。

というわけで『カラー・アウト・オブ・スペース』です。ニコラス・ケイジ最新作、限定公開も含めれば今年三本目の劇場公開されたニコケイ映画です。今回もキレてますよ~ニコケイ! みんな大好きキレ系ニコケイ! その限定公開された二本も渋い映画で非常によかったのだが、ただニコケイがキレてなかったからね。いつの間にか一般公開されるニコケイ映画、ニコケイがキレ散らかすやつばかりになってしまいました。キレのニコケイも好きだが哀愁のニコケイの方が好きな俺としてはまぁ特集上映とかじゃなくて一般公開されるのはよいことですが…と若干複雑な気持ちではある。キレだけじゃねぇだろキレだけじゃ。キレばっか推しやがって! いいけどさ! ニコケイの影響で俺までちょっとキレてます。

しかし『カラー・アウト・オブ・スペース』でキレるというか理性を失うのはニコケイばかりではないわけですね。一家みんな理性を失っているので本格的に怪異が襲ってくる前から会話なんか全然噛み合いませんし行動が全部謎。母屋のすぐ隣に建ってるアルパカ舎にエサを持ってった長男およそ15歳がその距離で迷子になって何時間か後になって帰ってくるもなんで迷子になったんだろう…と本人もよくわからない。

小学生の次男は家の外で井戸の底にいるらしい何者かと交信しているが誰も止めないので一日中ずっとそうしてる。なんかやばそうだから逃げたらいいんじゃない? 誰もがそう思うと思うし、兄弟もそう話すのだが、なぜか逃げない。そしてトレーダーの母はニコケイにブチ切れる。「通信状況を改善しろおおおおお!」それどころじゃないと思うのだが、もう、とにかく、全員理性を失っているのだ。ニコケイのキレが一家全員キレ狂っているのでむしろ当たり前に思えてしまうという前代未聞の緊急事態であった。

原作は邦題が『宇宙からの色』とか『異次元の色彩』とか色々あるH・P・ラブクラフトの同名小説ってことで「これぞラブクラフト!」と激賞する声もあるみたいですが俺としてはあんまこれぞ感はなかったっていうか、むしろ熱心なラブクラフトのファンには比較的評判の悪い『死霊のしたたり』とかの方にその狂ったユーモアと暴走感覚から言えば近いんじゃないかと思ったりした。今時珍しいSFXホラーの側面もありますしね。その点でも悪趣味SFX博覧会の『したたり』っぽいわけですよ。

クトゥルー者ではない俺にとってラブクラフトの小説はもっと固いイメージがある。ラブクラフトの小説って基本的には第三者による怪異体験の聴取とか怪異に遭遇して精神を病んだ人の回想の形を取るじゃないですか。だから報告書みたいに味気がなくて、その味気なさの中に言葉で把握できない名状しがたい何かが蠢いていて、想像できないものを読者の好奇心を煽って想像させるから怖いっていうか、うわぁ理解できないものに触れちゃったなーっていう感覚を残す。

そういうところはこの映画、ないっすよね。だって怖いものを画で実際に見せちゃうし。それに第三者の淡々とした語りの形式は取ってなくて直接怪異に遭遇するニコケイ一家の目線で物語が進むし。っていうかラブクラフトは家族の血の通った関係とか絶対描かないよね。だから展開自体は原作からそれほど離れてるわけではなくて、おいおいユニバース展開狙いかよみたいなラブクラフト小ネタもちょいちょい挟んできたりもする真っ当なラブクラフト原作映画ではあるんですけど、ラブクラフトっぽさとか、ラブクラフト小説の怖さは感じないわけですよ。

さっきも書きましたけど『死霊のしたたり』とか。あとノンクレジットですけどラブクラフトの『狂気の山脈にて』から着想を得ているのは監督のジョン・カーペンターが後にタイトルからしてラブクラフト題材(相変わらずノンクレジットだが)の傑作『マウス・オブ・マッドネス』を撮ったことからも明らかな『遊星からの物体X』とか。ラブクラフト原作の空気っていうよりSFXの進歩によってラブクラフトの奇想が次々と(不完全な形でも)具現化された80年代のラブクラフト原作映画の空気を醸成しようとした映画なんじゃないすかね。

あぁ『ポルターガイスト』感もかなりあったな。テレビの砂嵐を眺める場面はそこからの引用ぽいし、子供が異界と交信するところも『ポルターガイスト』由来じゃないの。自作にラブクラフトのネタを度々引用した〈残酷のマエストロ〉ルチオ・フルチの家もの不条理ホラー、『クロック』とか『墓地裏の家』とか『ビヨンド』とかもそういえばなんとなく彷彿とさせないでもない…まこのへんは妄想ですはい妄想でいいです。

怪異に次ぐ怪異、SFXに次ぐSFX、登場人物の誰も気にしないがどう考えても普通じゃねぇだろのツッコミが不可避な「宇宙から色」で色づく妖気漂う森…そして逆噴射崩壊していくぶっ壊れ家族と暴走ニコケイ! ぶっちゃけかなり力技の映画だと思ったが飽きる暇がなくて面白かったし、恐怖描写のコメディ反転も恐れぬその強引な押し切り方も含めて80年代SFXホラーの現代版という感じなので、憎めない。

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一作目のプロデューサーだったブライアン・ユズナが監督・脚本も兼任してもはやラブクラフトのラの字もなくなった今のところシリーズ最終作。蘇生薬でハイになった囚人が爆発したり、もげた蘇生チンポがネズミとボクシングしたりするバカグロ暴走っぷりだが、こういうの大好きなので…。

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