おとなの『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』感想文(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:0分》

ちょっと去年の『新・日本誕生』の出来が良すぎたのでそこまでとはいかない今年の映画ドラえもんはどうしても比較しながら見てしまって、なぜ本編前のプリキュア予告の「みんなも応援してね!」コールにノリノリでレスポンスしていたお子様たちのように観れないのかとちょっと悔しくなる。
まぁでもどうせおれが映画ドラえもんにハマったの成人してからなんで初めからそんな風には見てないんですけどでも『海底鬼岩城』とかワクワクドキドキの連続であれこれ考える余地なかったですけどねほら! ほら出たオタク的な小言! かんそう。

ちなみに超ネタバレなんですけど映画ドラえもん恒例のエンドロール後の次回作予告、旧作リメイクとオリジナルを隔年で交互にやるのが現在の映画ドラえもんなので今年オリジナルということは来年はリメイクなのですが、いやーこの作品チョイスは…ちょっとこれはびっくりしたな! そこ、行く!? そこ行っちゃって大丈夫なの!? 危険水域入ってない!? ていうかなんでそれなの!? まだFシナリオの旧映画ドラえもんも残って…いやこれ以上はやっぱりやめておこう!
とにかく言えるのは最近のハリウッド大作なんかだとよくエンドロール後またはエンドロール途中にサプライズ的オマケ映像がついたりしますがそのどれよりもサプライズでしたね今年の映画ドラえもんのエンドロール後予告は。

それで。今までオリジナルシナリオの映画は比較的リメイクものよりもポップで軽いタッチのものが多かったと思うんですけど新映画ドラえもん。…なんか怖くない今回の。なんか空気重くない今回の。なんか…今回のガチってない? ていうの観ての第一印象。
ちょっとこれまでのシリーズになかったミステリアスなポスタービジュアルが話題を呼んだりしていたが看板ならぬポスターに偽りなしで、気軽な旅行でもワクワクの冒険でもない謎だらけ命がけの南極探検にお子様のハートを強奪すべく投入された客寄せパオパオもキュート空しく凍り付いてしまう。
だいたい、敵が怖い。『魔界大冒険』の使い魔幽霊メデューサとか『海底鬼岩城』の暴走AIポセイドンとかはたまた『夢幻三剣士』の妖霊大帝オドロームとか旧映画ドラえもんの敵キャラは見た目におそろしいものが多かったがそれも今は昔と油断していたところに冒涜的な異言を喚き散らしながら襲ってくる巨大ペンギン、それに名状し難いタコのような…うわってなるじゃんそんなの!

『新・のび太と鉄人兵団』では鉄人兵団のリーダーが地球侵略の野望を語るというオリジナルにはなかったシーンが冒頭に追加され、台詞で言わせたら台無しじゃねぇかと怒っている大人()もいたが…相互理解の大切さを訴える保護者向けの建前からか敵と言わず味方と言わず年々キャラクター間コミュニケーションと説明台詞の比重が増しているかのように見えた新映画ドラえもんにあってここではコンタクト不能な異物と遺物が超やべぇの原初的恐怖に怪奇な回帰。
ゲストキャラクターとの交流はハートフルからハードボイルド(的な抑制)になってしまった。保護者ポジションから悪友ポジションに降格させられた水田わさびドラえもんの頼りなさは極点に達しておい大丈夫か! 旧映画ドラえもんのF原作後期諸作において「ドラえもんを破壊する」という力業で解決が図られていた予定調和の打破と緊張感の醸成をわさドラのポンコツ加減が自然ともたらしている気がしたので、新ドラはこういうダークなテイストも意外にいけるとわかった映画ドラえもん2017なのだった。

ところでもうおわかりかとおもいますがクトゥルーネタです。南極の超古代文明遺跡に眠る恐怖っていうの『狂気の山脈にて』だと思うんですけどラブクラフトの中でもとりわけ科学的叙述が多くて理屈っぽいホラーっていうかSFがこれなので、ドラえもんとクトゥルーの組み合わせになにそれっていう気も一瞬したがむしろ新映画ドラえもんではあまり見られなかったSF性が前景化して旧映画ドラえもんの初期作に近い作劇になってるの、なんかおもしろい化学反応。

旧映画ドラえもん回帰の方向性はかなり狙っていたようなのでオマージュ・ファンサービスと思しき場面は多かったなぁ。クトゥルーネタとか言っといてなんですが地下に異文明が、というのはそこに辿り着くまでの流れも含めて『竜の騎士』っぽいんじゃないすか。『日本誕生』や『創生日記』は雪山と南極に地下世界への入り口があったな。敵地に突入してからのてんやわんやをダイジェスト処理するのは『パラレル西遊記』の再現じゃないか? 氷山の氷で遊園地を作る発想はきっと『雲の王国』でしょう。『雲の王国』ではロボッターを組み込んだ雲ロボに王国を作らせていたのびドラだったが今回はちゃんと自分たちの手で作るから偉い。パオパオ、映画ドラえもん初登場は『宇宙開拓史』でしたがその舞台となったコーヤコーヤ星に対してこっちに出てくるのはヒョーガヒョーガ星だっ。
そして後半に待ち受けるびっくり展開は…それを言ってしまうとネタバレになってしまうがただまぁ旧映画ドラえもんで育った人なら開始20分ぐらいでネタが割れてしまうのでサプライズというよりノスタルジー。途中で読めたとおじさんはこどもに自慢できます。

ということを書いていて、しかし、じゃあ懐古厨歓喜みたいなこどもおいてけぼり思い出映画かというとそうとも言えなくて。実はこれは欲張りなことに旧ドラオマージュありクトゥルーありだったが新映画ドラえもんの、特にオリジナルに顕著な、旧映画ドラえもんと区別する意匠であるところの、心なしかの宮崎アニメ志向というのもきっちり取り入れていて…とにかく最後らへん『ラピュタ』か『ナウシカ』かみたいなことになった。それはちょっと節操が無さすぎないすかっ。
新映画ドラえもんのオリジナルシナリオは全般的にあんまり整理されてなくて闇鍋感があったりするがそういう意味ではいかにもそれっぽい感じかもしれない。なんかキャラクターの扱いが雑だったり詰将棋的なようで結局カオスで勢い任せだったりみたいな。

でも俺としてはそういうところがおもしろい新映画ドラえもんのオリジナルシリーズなのだ。よかったよかった今年もおもしろかった。来年も観に行くよドラえも~ん!

【ママー!これ買ってー!】


映画ドラえもん のび太と翼の勇者たち

映画ドラえもん史上の最狂作だと個人的には思っている森繁久彌のゲストキャスティングも謎なドラカオス。なにがなんだかわけがわからないがハイスピード鳥人レースがあったりして(ポッドレース…?)とにかく勢いだけはあるのでおもしろいとおもう。おもしろいとおもう。案外『南極カチコチ』にいちばん雰囲気が近いのはこれなんじゃないかな。

↓その他のヤツ

ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
※『狂気の山脈にて』収録

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