さよならみんなのマイケル映画『ハロウィン THE END』(オチバレあり注意)

《推定睡眠時間:0分》

初代『ハロウィン』の主人公ローリーを演じたジェイミー・リー・カーティスがシリーズに再々復帰しジョン・カーペンターと共に制作にも名を連ねた『ハロウィン』リブート三部作は結局ローリーの物語だったなぁとラストシーンを観ながらしみじみ思ったのだがそのラストシーンはどういうものかというとローリーの住んでる家の無人の部屋部屋をカメラがフィックスでハマスホイの室内画のように切り取っていくというもので、これは初代『ハロウィン』のラストと呼応する。違うのは初代『ハロウィン』では夜のシーンで、カメラが無人の室内を次々に映し出すうちに死んだはずの殺人鬼マイケル・マイヤースのコーホーという呼吸音が徐々に高まっていく…のだが、『ハロウィン THE END』では朝のシーン、そして室内は静寂に包まれてマイケルの呼吸音はもうしない。マイケルは死んだのだ。というよりも、ローリーの中に棲むマイケルが死んだ、といった方がいいかもしれない。

それまでのシリーズ作の様々な要素を切り貼りしつつ現代風にアレンジされたリブート三部作ではマイケルは典型的なスラッシャー殺人鬼の形はもはや取らない。人のこころに潜む魔物、ユング心理学にいうシャドウがマイケル・マイヤースという憐れな男に投射されたものが不死身の殺人鬼マイケルであり、こうした視点はカーペンターによる初代ハロウィン続編構想にはすでにあったし(なんでも事件後にマイケルを崇める人々が現れ、その昏い願望がマイケルを復活させる…のだとか)従来のシリーズ作にも底流していたのだが、諸般の都合(※セールス)により前面に出ることはなかった。これが、殺人鬼が人を殺すだけの映画ではあんまり金を稼げなくなった2010年代後半には反転して、前面に出ることとなったのである(しかし『ハロウィン THE END』が本国公開された昨年は単なる殺人鬼が人を殺しまくるだけのゴア映画大作『テリファー2』が想定外のスマッシュヒットを米国で記録したというのは皮肉である)

したがってジェイミー・リー・カーティスがシリーズ再々復帰を遂げたリブート三部作ではマイケルは三つの面を持つ。一つは単なる殺人オッサンのマイケル・マイヤース、一つは故郷ハドンフィールドの人々の願望や憎しみが投影されたシェイプ(マイケルの通称)、そしてもうひとつは初代でマイケルに殺されかけた体験を克服することができないローリーの恐れが投影されたマイケル。だからリブート三部作最終章のこの映画ではマイケル事件というトラウマをローリーと街の人々がどう乗り越えるかに焦点が当てられる。それを乗り越えることができたときに不死身の殺人鬼マイケルは単なる人間の殺人鬼マイケル・マイヤースに戻ることができるだろう。そして人間ならば殺すことができる。オチバレとは書きつつもある程度ネタバレのないように書くつもりだったがこう書けばもうほとんどネタバレ同然である。

まぁそんなわけでなんかこの映画って本国でも日本でもわりと酷評が多いみたいですけど俺に言わせればそういうのは『ハロウィン』シリーズをちゃんと全部観てない人のいいかげんな意見であって、三大スラッシャー殺人鬼の中ではマイケルが一番好きな俺からしたらこの内容はこれまでのシリーズの展開からいって予想の範疇というかむしろそうなるのが当然でさえあった。というのもカーペンターの続編構想を下敷きにしたと思しき『ハロウィン6』が当初のシナリオではこれに近い内容で、そこでは幼少期にマイケル事件を体験したことで引きこもりがちなマイケル・マニアとなってしまった男子高校生(ちなみに演じているのは若き日のポール・ラッド)がかつてマイケルが住んでいた家に引っ越してきた女子高校生をマイケルの魔の手から守るためにマイケル・ハンターのルーミス医師と共闘するのだが、そのラストはマイケルを使役しマイケルの子孫を作ろうとするドルイド・カルト集団によってマイケルの魔力がルーミス医師に乗り移ってルーミスが次なるマイケルとなることを暗示するというものだったのだ。

撮影後にルーミス医師を演じていたドナルド・プレザンスが急逝したことを受けてこのシナリオは修正を余儀なくされ、再撮影された別のラストを加えて再編集されたものが劇場公開されたのだが、おそらくシリーズ継続を目指して行われたこうした努力は実を結ぶことなく、シリーズはここで一旦途絶える。その後ジェイミー・リー・カーティスを呼び戻して設定も新たに製作されたのが『ハロウィンH20』と『ハロウィン レザレクション』だったがー、これはどちらもジェイミー・リー・カーティスには(そして観客にも)満足のできる作品ではなかったのだろう。こうした経緯を踏まえれば『ハロウィン THE END』はカーペンターの続編構想に『ハロウィンH20』と『ハロウィン レザレクション』の断片、そして『ハロウィン6』のシナリオ倒れに終わったアイディアを加えて、ローリーの物語として語り直したリメイク的な物語とも言えるんである。

だから俺はこれあぁちゃんと『ハロウィン』してるな、むしろリブート二作目よりも『ハロウィン』してるな、しっかり『ハロウィン』シリーズを研究してる人が作ってるなと思って気に入ったんですけど、ただあれだね、面白かったんだけどこれ半分くらい『ハロウィン』っていうか『ツイン・ピークス』のシーズン1とかシーズン2序盤とかの感じだね。新キャラクターの屈折した性格がそれっぽいし無人の道路の上で赤点灯する信号機とか闇に浮かぶセンターラインとかデヴィッド・リンチ作品のオマージュっぽい絵もちょいちょいある(前者は『ツイン・ピークス』、後者は『ロスト・ハイウェイ』だ)。『ハロウィン』シリーズも好きだしデヴィッド・リンチ作品も好きな俺にはたいへんお得な映画だったわけだがこれは思うにこの映画のお客の中では比較的少数派であり、『ハロウィン』の新作というからスラッシャー映画だろうと観に来た素朴なお客は『ツイン・ピークス』っぽい何かが延々続く最初の一時間くらい(長い!)結構困惑も退屈もしたんじゃないだろうか。そう考えれば酷評したくなる気持ちもわからないでもないっていうバリわかる。

とはいえ、数は少ないながらもゴア描写はなかなか気合いが入り殺害方法も豊富、初代と同じ構図やシチュエーションを形を変えて何度も反復することでローリーとハドンフィールド住民のトラウマを表現するなど、リブート最終章らしく作りはかなり凝っていて、初代には『遊星よりの物体X』を子供たちがテレビで観るシーンがあったがこちらでは『遊星からの物体X』を観ていたりとシリーズのファンならニヤリとできる箇所も多い。同じようでいて見比べると作品ごとに結構違うマイケルのマスク造形も初代と『ハロウィンⅡ』に近いものになっていたりとかね。

難を言えば映像がちょっとスタイリッシュすぎて軽い、という点はリブート三部作すべてに共通して言えることだが良くもあれば悪くもある。『ハロウィン』って例外はあれど基本的にはスラッシャー映画よりも怪談映画のトーンが強いシリーズだからサクサクっと殺しを撮ってほしくないんですよね、個人的には。もっとタメにタメてじっくり殺しを見せて欲しい。その怪談映画的なじらしが『ハロウィン』を他のスラッシャー映画と区別する強みだと思ってるので。

あとはこれローリーとマイケルの物語としてはいいんですけどローリー以外のハドンフィールド住民の物語としては駆け足気味で説明不足だった。だからね俺リブート三部作って映画じゃなくて連続ドラマでやったらよかったんじゃないかなと思ったんですよ、こういう結末にするならば。そうしてたらハドンフィールド住民ひとりひとりの人生を深掘りすることができて、マイケルの「お葬式」のシーンなんかもっと大団円感出たんじゃない。ま、ローリーの最後のシーンなんかわりかしジーンとくるものがあったからいいんだけどさ。よぼよぼのマイケルもなんだか沁みる。

あちなみに『THE END』と謳ってますけれども例のマスクの行方に着目すればこれはあくまでもローリーとマイケルの物語のTHE ENDであって、あのマスクが象徴するシェイプは…ということはわかるんじゃないかと思います。つまり、これが儲かればなんだかんだまた続編作る気満々というわけですな。う~む、そう考えれば真におそろしいのは殺人鬼の復活を望む観客と金のためなら何回でも殺人鬼を蘇らせる映画会社なのかもしれませんなぁ。

【ママー!これ買ってー!】


『ハロウィン6 最後の戦い』プロデューサーズ・カット [Blu-ray]

世にも珍しいこのプロデューサーズ・カットなるバージョンの正体はなにかというと変更前のシナリオに基づいて再々編集されたバージョンで、リブート三部作がこういう形で完結した今観れば腑に落ちるところ多数。2023年4月現在Amazonマケプレではアホみたいなプレ値なのでこのリンクからは買わないでほしいが、機会があれば観てみるとリブート三部作の楽しめ度上がります。

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