殺しはつらいよ映画『ハロウィン KILLS』感想文

《推定睡眠時間:15分》

マイケルが走った! これはなかなかの衝撃ではないのか。確かに『スクリーム』シリーズのゴーストフェイスのように走るスラッシャー殺人鬼は存在するが『ハロウィン』シリーズのマイケル・マイヤースといえばシェイプの通称が示すように影のような存在である。まぁ第一義的にはということなのでシリーズを重ねるにつれてマイケルのキャラと立ち位置もどんどん変わってロブ・ゾンビのリメイク版二部作では人間マイケル・マイヤースが描かれさえしたが、でもダッシュはシリーズ初じゃないのか。マイケルの生家に土足で踏み込んだ警官に向かってダダダーって走ってって…よっぽどムカついたんだろうな。

マイケルといえば家ですし家といえばマイケルです。一人で家に居たいっていうんだから放っておけばいいものを(その時点で既に何人も殺してますが)この警官は勝手に入ってきちゃったもんだからそれはマイケルも怒りますよ。シリーズ8作目にして前のリブート作である『ハロウィンH20』の続編とかいうややこしいポジションの『ハロウィン レザレクション』でもマイケルの生家で当然本人の許可なく心霊ライブ配信とかいう失礼千万な行為に及んでいた若者たちにマイケルめっちゃキレてましたからね。キレてるかどうかわかんねぇだろあいつマスク外さねぇんだからという意見もあるがマイケルの真っ白マスクは同じように見えて作品ごとに微妙に違い、その違いでその時々のマイケルの感情を表したりするが、『ハロウィン レザレクション』は「殺す!」って顔で言ってるシュっとしたマスク造形だったのであれはやっぱキレてたんだと思います。

しかし怒涛の家ダッシュまで繰り出す今回のマイケルは『ハロウィン レザレクション』のように怒りに駆られて殺人に手を染めているわけではないらしい。これはちょっと面倒くさいところなのだがこの『ハロウィンKILLS』、まずシリーズ第一作目の『ハロウィン』(1978)の数十年後を舞台にした直接の続編として、2作目~8作目(+ロブ・ゾンビ版二作)までの流れをリセットした前作『ハロウィン』(2018)のエンディング直後から続く前作と同じ夜の物語となっており、したがって前作の回想が折々に入ってくるのだが、それに加えて第一作目の回想(という体の新撮パート)まであり、マイケルが家ダッシュ殺人を繰り出すのはこの一作目の回想の中でのことなのだ。

回想の中のダッシュマイケルは確かにキレて人を殺していた。しかしその数十年後、2018年のおっさんマイケルが人を殺すのは個人的なキレのためではなく人々がそう望むからである。医療刑務所で静かに暮らしていたのに「お前はマイケルだよ! 伝説の殺人鬼じゃねぇか! こんなところはお前の居場所じゃねぇ!」…みたいな、余計にも程があるマスコミの発破を受けて渋々例の白マスクとジャンプスーツに身を包んだ前作のマイケルであったが、今作ではもうマスクを被ることに躊躇いはない。あぁやってやるさ、これが俺の仕事だからな。かくして前作のラストで死んだかと思われた(誰も思ってない)マイケルは燃え盛る家の中から姿を現すと、完全に想定外のことだが近接格闘術を駆使してその場に居合わせた消防隊員たちを血祭りにあげていくのであった。

それにしても炎をバックにした近接格闘殺人とか今回のマイケルは殺しをいかに「魅せる」かを殺人系エンターテイナーとしてめっちゃ考えている。第一作目のマイケルが誰に頼まれるでもなくなんとなくの感じで殺しを繰り返しその魅せ方もあまり拘りのあるものではなかった無気力で無軌道なスラッシャー殺人鬼だったことを思えば、マーシャルアーツ殺人鬼としてのキャラを確立した今作のマイケルはずいぶん大人になったものである。

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マイケルの生家のあるイリノイ州ハドンフィールドの人々は今でも1978年の惨劇を町の怖い話としてどこか楽し気に語り継いでいる。同時代のスラッシャー殺人鬼スタアだったジェイソンとフレディは大金を手にしてすっかり人が変わり映画の仕事からは手を引いてしまった。『スクリーム』シリーズのゴーストフェイスは本業スラッシャー殺人鬼じゃないし『悪魔のいけにえ』シリーズのレザーフェイスは今でも細々と芸能活動を続けているがスラッシャー路線からは距離を置いている…なら俺が殺すしかないだろ! だいぶ間違った使命感に駆られたマイケルは殺人マーシャルアーツを駆使しておそらく過去最多の約三十人殺しを達成するのであった。真面目な人ほど融通が利かない。

それぐらい映画の中で殺すと怖いとかむしろ少しも感じられないが前作だって別に怖かったわけではほぼほぼない。前作がホラーアクションなら今作はホラーコメディに近いぐらいで、演出もストーリーもシリアスなのだがとにかくマイケルが殺しまくるしそれでぶちキレたハドンフィールドの住人たちまで私刑上等の殺しに走るので人の生き死にが限りなく軽い映画である。しかしこの住人たちも学ばない。今作と同じく前作(一作目)のエンディング直後から始まる『ハロウィン2』(1981)でも自警団がハロウィンコスプレをした若者をマイケルだと勘違いして死に追いやってしまっているし、その後のシリーズ作でもマイケル狩りをやるたびに住民側に死者が出ている。

ストーリー上は2~8作目とリメイク二作がなかったことになっている新生『ハロウィン』だがそうしたシリーズの流れやお約束は実はしっかりと引き継いでおり、一作目を監督して今作では音楽と製作総指揮を担当したジョン・カーペンターの続編構想ではマイケルをカリスマと崇める人々の思念によってマイケルの影がぐーんとでかくなっていくみたいな展開があったというから、このリブート三部作はその展開を練り直したものとも言える(ちなみにマイケルを崇める人々は6作目で登場しており、これには1作目の事件を目撃してトラウマを追った高校生が出てくるなど今作と共通するところも多い)

スラッシャー映画斜陽の時代に人々の「もっとスクリーンに血を!」の欲望を汲んでたった一人立ち上がった元祖スラッシャー殺人鬼マイケル・マイヤース。前作でマイケルとガチバトルを展開するも今回はバトルで負った傷の治療で病院にこもってるだけだったローリー=ジェイミー・リー・カーティスはマイケルパニックで暴徒と化した住民を膝蹴りで床に沈めつつ言い切る。「奴は暴力では倒せない…」。思うにいつ公開されるか知らん次作のリブート三部作最終章はマイケルの生家とシリーズ6作目で描かれたマイケルの依り代としての存在にスポットが当たるオカルト要素の強めな内容になるんじゃないだろうか。5作目ではマイケルが一旦生家に帰ったところをマイケル・ハンターのルーミス医師が捕らえるんだよな。今度はたぶん実家に帰して成仏させてやるんだと思います。ハロウィンじゃなくてお盆に公開した方がいいかもしれん。

思えば『ハロウィン』シリーズとは家に帰りたくて毎回どっかから逃げ出してくるマイケルと家で平和に暮らしてたらマイケルが来て家に居られなくなるローリーの、帰れない二人の物語であった。がんばれマイケル。がんばれローリー。なんかプロレス感が増したので応援する感じになってしまったし、あとなんとなくマイケルとローリーの関係性が『男はつらいよ』。

【ママー!これ買ってー!】


堕落編

地味スラッシャー殺人鬼からマーシャルアーツ殺人鬼に転身したマイケルも海援隊のように「思えば遠くへ来たもんだ」と思っているに違いない。そして「故郷未だ忘れ難く」とも。

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