『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』観ました最高でした日記(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:10分》

藤子・F・不二雄先生の短編漫画に『裏町裏通り名画座』というものがありますけれども、青年が怪しげな名画座に入ってみたら『スターウォーズ』(1977)がやっていた。これは楽しみにしていたSF大作と胸を躍らせて観始めたがどうも様子がおかしく、なにやら辺境惑星の農家から話が始まる(まぁそうだな)。ある日のこと赤紙が届いて長男が徴兵される(そんなだったかな)。彼は帝国軍の兵士として戦地に赴き、そこで大事な戦友を失う(なんか違うな)。
反乱同盟への復讐心ただ一つで戦闘機のパイロットに志願した彼の初出撃はデススター防衛戦(あれ?)。その日、帝国の野望と反乱同盟の大義の前に一人の名もなき農民はデススターもろとも宇宙の塵と化したのであった……なんだこれ!
映画を見終わった青年が映画館の看板を見ると『ヌターウォーズ』。ズコー。

で、こういうパロディの領野に本家が本格的に踏み込んできたというのが『ローグ・ワン/スターウォーズ・ストーリー』らしく、スターウォーズあんまり詳しくないので分かりませんけどこれかなり革新的なんじゃないすかねと思た。
外伝とはいえキャンベル『千の顔を持つ英雄』との関係で論じられるような英雄神話シリーズが神話のベールを脱いでしまったわけでしょ…つまり何が言いたいかというと超おもしろかったですね。超おもしろい新機軸のファンメイド・スターウォーズ。

たぶんオマージュパロディ小ネタ伏線てんこ盛りみたいな映画だと思うので、考察ブログが雨後の筍のようにはえる。当ブログかんそうぶん。くわしいことわからない。それでもおもしろいのだからほんものだ。

『ヌターウォーズ』とか持ち出したのは映画が始まるとやはり辺境の惑星から始まるのですが、そこで慎ましく暮らしているマッツ・ミケルセン一家の下に帝国軍の偉そうな人がやってきてマッツをしょっ引いてく。
実はマッツは帝国軍の天才兵器開発者だったのだが、良心の呵責を感じたかなんだか知らないが逃走生活を送っていたのだった。こうして連行されたマッツが後に設計することになるのがデススター。で、マッツの一人娘ジン・アーソは反乱同盟のゲリラ指揮官ソウ・ゲレラに拾われて一命をとりとめる。
その後いろいろあって盗賊にまで身を落としたジン・アーソがなぜローグ小隊として戦うに至ったか。そういう話で、これは『ヌターウォーズ』の戦争悲話と同じ系列だったんで思い出したのでした。前前前世のような関係性。

それでこの冒頭、時代劇になっていて(比喩とかではない)さすがスペース時代劇! と思ったのですが次に出てきた惑星がどう見ても『ブレードランナー』(1982)。デッカートが街で蛇の鱗を鑑定してもらうシーンのカメラワークを再現したりする完コピっぷりに驚いてしまった。
なんというか、ルーカスが関わっていた頃のスターウォーズならもう少しビジュアルの統一感を意識したんじゃないかと思う。色んな惑星は出てきても同じ世界観を共有していた気がし、その映像秩序がジェダイの神格と悪神討伐の物語に説得力を与えまた正当化してきたように思うのですが。
『ローグ・ワン』の徹底された混成様式(なんなら続く『エピソードⅣ』(1977)のアウトテイクまで混ぜて使ってしまう!)はそういうの、壊す。神話の外部に位置し神話を語りながら解体していくわけで、これがファンにすら求められ受け入れられる時代になったのかみたいのがある。

っていうか単純にスターウォーズの中でブレランやるのがすごいよ。まぁ日本でもこういうのやってましたけどね。ほら『テラフォーマーズ』で…そうか『テラフォーマーズ』は日本の『ローグ・ワン』だったのか! ごめんなさい。

個人的に好きだったのは。荒っぽいストーリーテリングが。色んな様式が代わる代わる現れる中で後半30分ぐらいは戦争映画になるのですが、それが『プライベート・ライアン』(1998)以降の戦争映画じゃない。
ここ重要。連想されるのは『特攻大作戦』(1967)とか『ナバロンの要塞』(1961)とかの方。時流に反して60~70年代の戦争映画の語りを目指したんじゃないかと思う。

これは叙事の映画で、人物の内面や多義性といったものはスッパリ捨てているようで気持ちよかった。銃を撃つ、人が死ぬ、前へ進む、その行為だけが続く映画っていいじゃないですか。
キャラクターをクローズアップしないことは一つの美徳。抒情を押し付けないことは誠意。そういうの歴史に埋もれて誰にも顧みられることのない独立愚連隊を扱うに相応しい態度なんじゃないすかね。
こういう視座から捉えたジンの戦場巡り(『地獄の黙示録』(1979)だ)は監督ギャレス・エドワーズの出世作『モンスターズ 地球外生命体』(2010)と意外なほど接点が多かったりして、父親との結びつきや想像を絶する光景を目にしたときに芽生える畏敬と決断(そしてその崇高)など、比べていくと面白いところはありそう。

超かっけー盲目の達人ドニー・イェンはもとよりローグ小隊の面々はことごとく障害や問題を抱えていて、ソウ・ゲレラは両足が義足だった。正常の領域から追放された連中が戦う。こういうのに弱い。『博徒七人』(1966)か。『スーサイド・スクワッド』か。
いや『孫文の義士団』(2009)だ! という人もいて…これら共通するのは誰も大義のためには戦ってなくて、善悪をも超えた個人的な動機に基づいて戦っていることですよね。
そういう、神話が語れないことを『ローグ・ワン』は荒々しく叩きつけるわけで…そんなの最高に決まってるじゃないすかとしか言えないな!

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スターウォーズよりも映画ドラえもんが好きだから『宇宙小戦争』だなんて我田引水、牽強付会! と思われるかもしれませんが例の『ヌターウォーズ』とドラえもんのスターウォーズ・パロディ回『天井うらの宇宙戦争』を発展させたシリーズ最強クラスに泥臭い本格戦争映画が『宇宙小戦争』なのであって、隠れ無頼派・藤子F先生がこれが戦争の現実だと言わんばかりに宇宙戦争のワードに浮かれるガキどもに叩きつけたドラえもん版『ローグ・ワン』がこの映画なのではないかとあくまで言い張ります。

それにルーカスはきっとここに出てくるお喋り犬ロコロコをパクってジャージャー・ビンクスを作りましたからね。F先生も幾度となくスターウォーズのネタ描いてるから相互影響ですよ。武論尊先生もジョージ・ミラーとはお互いパクり合ったと証言してるじゃないですか!

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