『幸せなひとりぼっち』が『グラン・トリノ』で『マッドボンバー』な感想

《推定睡眠時間:0分》

こないだの『ドント・ブリーズ』はホラーな『グラン・トリノ』(2008)だと思ったのですがこういう偶然なるイメージの連鎖というのは時折発生し『幸せなひとりぼっち』は似ているというかリメイクかパロディに見えなくもないレベルで同じような話、『グラン・トリノ』と。

主人公の毒舌頑固おじさんは元町内会長のような人で、誰にも頼まれてないがとにかく近隣の秩序を維持することを勝手な日課としている。妻には先立たれ長年の職も失ってしまった。だから他にすることがない。
秩序にルーズなバカどもに毒づきながら放置自転車を勝手に押収したりなんかするだけの退屈な日々。生きる意欲を失ったおじさんは自殺を企てる。お隣に移民の女性が引っ越してきたのはそんな時だった。
初めは煙たがるおじさんだったが段々と打ち解けて車の運転を教えたり家の修繕を教えたり…ってだからつまりこの人は『グラン・トリノ』のイーストウッドなわけですよ。愛車に誇りを託しているあたりも含めて。

『グラン・トリノ』、あれ良い映画だった。というわけで『幸せなひとりぼっち』もアルゴリズム判定により良い映画になりました。おもしろかったな。

ところで『グラン・トリノ』と違うのはイーストウッドは死に場所を探しつつ中々見つけられなかったのに対してこちらのオーヴェおじさんは死に場所にこだわらない。さっさと亡き妻の下に行けたらなんでもよかったので死を厳粛なる宗教儀式として演出するイーストウッドと違ってホームセンターで買った安いロープとかで死のうとする。
雑な死に方ゆえ死のうとする度に誰かが邪魔して死ねない。これがひとつのみどころ。客席からドカンドカン笑いでる。格の違いか(なんの?)

自殺ギャグを繰り返しながらおじさんは少しずつ過去を振り返っていく。こっからが本番。走馬燈のように現れる記憶の断片の数々は『ガープの世界』(1982)みたいに脈絡のない悲劇性を醸しだすので泣けてきてしまう。
トラウマ的大事件もあった、が、そのほとんどは取るに足らない出来事に過ぎなかった。けれども死を前に思い返せばその一つ一つが得も言えない複雑な色彩を帯びてくる。

いちばん好きな回想シーン、おじさんがその人生でただ一人の友人と疎遠になったキッカケ。もうあまりにも凡庸でつまらなくて…でもこういうのめっちゃあるよなと苦笑いせずにはいられない、なにか人生の縮図のような名シーンなのでした。
ちなみにですが。おじさんのモノローグで回想に入っていくこの入れ子構造はちょっとしたギミックを形成しており、回想シーンはおじさんの主観なので現実には出てくるはずのない人が出てきたりする。
なんだかモヤモヤしぃ不思議な印象の残るラスト近くの展開はそういうギミックだと考えれば納得がいくような気もしましたね。

オーヴェおじさんのキャラクターについてもう少し言うと、この人はホームセンターでクーポンが使えないと言われて(「二つ購入の場合に使用できるクーポンでして…」)完全なる俺様理論で無茶なクレームを入れるような人(「シフトを考え直せ!」)。イーストウッドだったら怒鳴りはするがすぐ帰って二度と来なさそうなので面倒くさい度では勝ってます(このおじさんは来店の度にクレームを入れる)

ほんで道端に捨てられたタバコを忌々しげに拾い上げる場面があり、そこでひとつ思い出したのですがこれ『マッドボンバー』(1972)で爆弾魔チャック・コナーズのキャラクターがまさにこのまんまだったな。
この人は愛する家族を失ったショックで訴訟魔&クレーム魔&爆弾魔になってしまったというすごい人で、『マッドボンバー』は彼がタバコをポイ捨てする男に説教するところから始まってスーパーでクーポンが使えないとクレームを入れるシーンもあったりする。
この映画は『ダーティハリー』(1971)に顕著な影響を受け、というかパクってるのでここにもイーストウッドの陰あり。爆弾魔と秩序の番人はイーストウッドを媒介に表裏一体を成すのであった。

『幸せなひとりぼっち』に話を戻せば、これは回想シーンの情感に比して現在のシーンはとてもサラっとしてあと腐れがないというか味気ないというかなんというか、おじさんと近隣住民の交流が描かれるのですがそれが意外と深いところまでいかない。
そういうの良かったすねなんか。この移民の受容にも関連するお話はイイ話としてしまうには微妙なところがあったりして(スウェーデン映画なので…)、だからこれぐらいの距離感でサラっと流してくれた方がいいじゃんと思うところもあり。

結局、あの秩序の番人オーヴェおじさんの裏側にはチャック・コナーズの狂気があるわけで。チャック・コナーズがなにを爆破するって新しいもの、新しい考え方、そういうの爆破していく。保守テロリストですよね、秩序を好むあまりの。
こういう問題に『グラン・トリノ』は一つの答えを出そうとする。『幸せなひとりぼっち』はそこまでいかない。けれどもその折衷的な優柔不断が現実の生活では必要だよなとか思うわけです。

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爆弾魔VS強姦魔VS鬼刑事っていう煽りが強すぎるくせにあんまり戦わない肩透かしが余計にやさぐれムードを強調してグっとくるところなのでおそろしい映画だと思います。

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