『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を見た

《推定睡眠時間:10分》

長い長いとは聞いてましたが上映時間236分。236分。4時間見たし4時間休憩なしで見たので感想のひとつでも残さないと整理がつかないし納得もいかない。4時間。長い。おもしろかった。長い。
長すぎて頭がおかしくなったのでフレデリック・ワイズマンの終末医療ドキュメンタリー『臨死』(358ぷん)もノリで見に行ってしまったよね。ちょっと前まで上映時間2時間以上が許せなかったのに。もう、4時間も5時間も同じだし。こうなったら6時間も8時間も同じだよね。
なに『鉄西区』? 545分? うわぁおもしろそう。内容とかもうなんでもいいですよ。スクリーンになにも映ってなくてもいいですよ。545分て何時間? 瞬時に換算できないけどいいよどうせ座ってスクリーン見ながら死んでますから。オムツだけつけてこうオムツだけ。

どんどんおかしくなっていくよ。おそろしい映画だよ!

長いに加えて説明描写の希薄な映画で同じエドワード・ヤンの『恐怖分子』は去年かそこらのリバイバル上映で見ましたがまったく意味がわからなかったので『恐怖分子』109分、ということはその倍以上のランタイムを誇る『クーリンチェ』であるから倍以上意味がわからないはずであるライタイムがどう理解度に関係するのか定かではないが!
ところが実際見たらストーリーの骨子は案外シンプルで、やけに多い登場人物を脳内でさばくのは骨が折れたがまぁ不良グループの抗争の話だから別にそれほど複雑な人間関係もない、いやそうは言っても時代背景よく知らないし台湾文化はわからないし人物の名前は覚えられないし物語の焦点は不明瞭だしで取っつきにくいのは間違いないが逆に言えばこの程度の取っつきにくさで済んでいたので一安心。
あぁこういう話が好きな人なのかとここからあれほどわからなかった『恐怖分子』の輪郭もおぼろんと浮かんできたりさえしたのだった。

でなんていうかこれはあのなんでこんなに有り難がられてるのかはあんまり映画を勉強していないのでわからなかったんですけどでも良い映画だったなぁクーリンチェ、入植者とその家族は大変という映画。
面白いところ凄いところ、色々あると思うんですけどおれにとってはキャラクターの魅力に尽きた。リトル・プレスリーの可愛げのない可愛さ、ガキ大将ホアトウの授業中に後ろの席から椅子を蹴ってきそうな感じ、以下キャラクター名を把握してませんが親父の銃刀を自慢してくる転校生の金持ちのボンボンとかクラスの一番前の席に座ってる小さい生島ヒロシとか素晴らしいよな土の臭いのするいい顔のこどもばっかり。

主人公の属する小公園(実は地名なのかグループ名なのかよくわかってない)の番長ハニー、ハニーとダーリンじゃなくてハニーという名前だったんですけどこの人には驚いた。なんか、もう、とんでもないバンカラで…セーラー服に学ラン羽織って下駄を履く、雨だれを物憂げに見つめて『戦争と平和』の一節をそらんじる…なんだお前100点満点じゃんなにがかは知らんけど!
小公園と対立するビリヤード大好きヤングギャング217の紅一点、確かクレイジーと呼ばれていたズベ公なんかも格好良すぎたな…こういう人たちがすごい活き活きといつかの日々に息づいてて。
なんていうか、バイオレントなちびまる子ちゃんみたい…!

それにしてもこのタイトル。〝クーリンチェ”という所で少年殺人事件が起きたんだろうというのはわかるが少年が殺された事件なのか少年が殺した事件なのかが微妙な漢字表現のむずかしさ。
映画は前情報をあんまり気にしないで見に行く派なので…後から実際に起きた事件(ですよね?)を想像力豊かにいくぶん自伝的に解釈した映画と知るわけですがそれさえ知らず、タイトル(英語題も含め)の意味がわかった瞬間、雷に打たれたような衝撃。
何人も少年が死ぬのでその度にあぁこれがクーリンチェ少年殺人事件かあぁこっちがクーリンチェ少年殺人事件かと誤解を繰り返し勝手に振り回されたわけですがその感覚がサスペンス的ツイスト的に機能したので無知の功名というのも、ある。

無知の功名といえばこれは惹句が実によくできてるんじゃないすかね後から考えると。〝この世界はぼくが照らしてみせる”。あぁ…。
照らさなくてもべつにいいのに照らさなければいけないの焦燥。移民一世の親の挫折を受けてなにがなんでも明日を背負わなければいけなかったこどものかなしさ。
外省人のガキ同士徒党を組んで縄張り争いにしのぎを削るのはついに新天地に居場所を見い出せなかった親世代の不安を反映してるんだろうか的なテロップが最初に出ますが、希望を語らなきゃ世界を照らさなきゃの過剰な義務感に駆られたこどもとそんな光の押しつけに息が詰まりそうになっていたこどもがまともにぶつかってしまったのがクーリンチェ少年殺人事件なんだと思ったよ。

希望はいつでも希望というわけではないな。バイオレントで切ないまる子ちゃんだ。それはもうまる子ちゃんではないと思うけど…(でもまる子っぽい女の子は出てくる)

ちなみにこの長さは途中から時間感覚が麻痺してくるのでまったく気になりませんでした実は意外に。

【ママー!これ買ってー!】


予告された殺人の記録 (新潮文庫)

知らないけどエドワード・ヤン好きなんじゃないすかねガルシア=マルケス。

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2 Comments
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さるこ
さるこ
2017年8月23日 8:19 PM

こんにちは。やっと見ました。私は四時間辛くなかった。幸せでした。内容は、「〝ハニー〟トラップに気をつけろ」かな。