弁当こわい映画『今日も嫌がらせ弁当』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

篠原涼子演じるお母さんが反抗期に入って言葉を交わさなくなった中学生の娘に徹底抗戦すべく学校に持っていくお弁当で嫌がらせをする映画らしいということしか知らずに映画館に入ったので鑑賞前イメージとしては井上ひさし的な昭和DV作家の従順な殴られ妻が実はこっそり水銀汚染されたマグロの刺身を飯に出すなどの地味なデストラップの数々を毎日仕掛けて暴力夫の事故死を狙っていたという藤子・F・不二雄先生の異色短編『コロリ転げた木の根っこ』みたいなものかなぁと想像していたがそんなわけないですよねそうですよね。そんな映画じゃありません。

ほぼカメオ出演レベルの夫・岡田義徳に先立たれて早十数年、女手ひとつで二人の娘を育ててきた辣腕マザーの篠原涼子だったがその快進撃に下の娘・芳根京子が待ったをかける。これが反抗期か! 上の娘はなかったのに! 家では口を利かずわざわざLINEでやりとりをする芳根京子にビッグイライラを覚える篠原涼子(LINEはやるんだ)。
反抗期の芳根京子はクールキャラを気取りたい盛り。たまたま町で友達とだべっていた芳根京子の一言が篠原涼子の耳に突き刺さる。キャラものとかダサくない?(的な)

篠原涼子は閃いてしまう。そうか、お前がそういう反抗的な態度を取るならこっちにも考えがある。お前、キャラものはダサいと言ったな。ならば今日からお前のお弁当は毎日キャラ弁だッッッ!
朝はパン工場っぽいところ、夜は居酒屋、空いた時間は内職に充てる生活所要時間マイナスの篠原涼子はこうして娘が高校を卒業するまでの3年間、命を削りながら毎日いやがらせキャラ弁を作り続けるのであった。

キャラ弁というが篠原涼子の作るキャラ弁はキャラっていうかなんか装飾性があればいいやみたいなことに途中からなってくる。旬のお笑い芸人なんかは欠かさずキャラ弁にするがネタがなくなってくると木工ボンド柄のキャラ(キャラではない)弁当が飛び出す始末。そこまでして娘に嫌がらせ弁当を作りたいのか。そこまでして娘に構ってもらいたいのか。絵面はアホっぽいがなんか切実である。

切実なのは娘の方も同じだろう。微笑ましい話に思えるかもしれないがちょっと考えてみてくださいよ、教室で弁当開けたら母親がハサミでのり切って作ったスギちゃんの顔がバンと飛び込んでくるんですよ。めっちゃ嫌じゃないですか。それがしかも毎日なんですよ。小島よしおのキャラ弁の日もあるんですよ。その面白いだろう感めっちゃ嫌じゃないですか。家で芳根京子と夕飯食ってる篠原涼子が黙ってる芳根京子に向かって独り言的に職場の愚痴を話しながら「でもそんなの関係ねぇ」っておどけて芳根京子がガン無視する光景が頭に浮かぶじゃないですか。すげぇめっちゃ嫌じゃないですか…!

それ三年間続くんでしょ。ある意味やっぱ『コロリ転げた木の根っこ』ですよね。こっちが殺されるんじゃなくて向こうを殺したくなるって感じで。

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それにしても『FF14』をネタにした『光のお父さん』に続いてまたもやブログ原作の実話もの。なにかこうセオリーがあるのかお話の構造まで似ているのがおもしろい。コミュニケーションのうまく取れない親子がいて、片やゲームを、片やお弁当を媒介にオルタナティブなコミュニケーション図って、そのうち親は病に倒れるが病院を抜け出してゲームをやりに行ったりお弁当を作りに行ったりする。そのことを通して子供は親離れして社会人として成長する。

よく難病映画と揶揄される病気持ちヒロインの出てくる純愛邦画がそういえば最近減ったなと思えばこんなところにその最新バージョンが、という感じのプロット。ブログ原作映画はあまり観てなかったので他にどういうのがあるのか知りませんがこれ純愛映画の流れを汲む業界トレンドなのかもしれないっすねぇ。ゼロ年代に比べて客層も高齢化しているからそこに対応しましょうみたいな。
いやもちろん、もちろん原作ブログがすばらしかったので感動した映画会社のえらい人が映画化しただけなのかもしれませんけど。そうですよねそういう可能性も捨てきれません。…ブログ原作は原作主がアマチュアなのでなんか気を使うな。

映画素因数分解にかけると、いやかけなくてももう一つ出てくる映画の構成要素は地方振興型キラキラ映画のフォーマットであった。ヴィヴィットな色使いやオシャレ小物で溢れた室内美術は典型的キラキラ映画の画作り、雄大な山々と夕陽にキラキラ輝く母なる海の風光明媚な実景ダブルフィーチャーは地方振興型キラキラ映画が必ず組み込まないといけない必須ショットである。登場人物がやたら観光スポットに行ったり祭りに行ったりするのもあまりにもそのまんまだ。

キラキラ映画の意匠を借りつつアンチ・キラキラ映画を実践した山戸結希の野心的な『ホットギミック ガール・ミーツ・ボーイ』の舞台が東京の豊洲~東雲だったことは偶然ではなく、これは明らかに(撮影の都合上)物語の舞台となる地方を無条件で賛美する安易な定型キラキラ映画に対する攻撃の意図があるが、『今日も嫌がらせ弁当』は全力で地方賛美、こちらの舞台は東京は八丈島(「東京行くよ。あ、八丈島も東京か」という台詞がなんと4回も出てくる)だがアバンタイトルで題名であるところの嫌がらせ弁当の説明よりも先にポップなアニメーションや豊かな実景+篠原涼子のナレーションを駆使した八丈島の概要説明と推しポイントが入ってきてしまう。芳根京子が想いを寄せる同級生は八丈太鼓ひとすじマンなのだからめちゃくちゃ直球の八丈島PRである(原作準拠だろうとはいえ)

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八丈島の良さはよくわかった。それ以外はどうか。キラキラ映画としては芳根京子の学園パートがどうにも単調で、芳根京子の塞ぎ込んだ演技というか存在感でそれなりに見せるが、あんまおもしろくない。
母娘のドラマとしてはどうか。これも篠原涼子がコメディエンヌの引き出しを全部出してくるのでその面白さで引っ張るが、言うても毎日キャラ弁作るだけの話なんだからそんな別におもしろいこともない。

ブログになった篠原涼子のキャラ弁日誌を読んだシングルファーザーの佐藤隆太(これも芝居がいいんですよ)がお弁当を通して息子との関わりを見つめ直す下りを織り交ぜたりしてシナリオに多少の広がりを出そうとしているが、でもお弁当作るだけだからな。身も蓋もないけれどお弁当作るだけの映画だから、よくまとまっていると思いますけどそれ以上あんまおもしろポイントないよ。篠原涼子と芳根京子の自然な関係性の変化と成長っぷりはよかったですけど。

お話的なおもしろポイントがあんまないのでキャラ弁の芸人が動き出し話し出すストップモーション・アニメ等々のポップなコミック演出で乗り切るというのは数多のキラキラ映画と同じ。
ブログ原作の実話ものだからあんまダイナミックな脚色はできないし八丈島PRから逸れてはいけないのでシナリオでできることの幅はもっと狭くなる。そこに篠原涼子の多芸芝居で彩を付けてキラキラ演出でデコって色んなキャラ弁で味付けしておもしろくしている映画なので逆になんか企画の安パイ感に反して冒険的なプログラムピクチャーに思えてきてしまった。

おもしろかったな。おもしろかったですよ。お弁当はコミュニケーションであり同時にディスコミュニケーション。お弁当は時に愛情、時に暴力。娘は嫌がっているが娘のクラスには自分のキャラ弁がウケていると知った篠原涼子は最終的に期間限定ケータリング業者になってしまうのでなんかすげぇなって感じの映画でした。どんな映画よ。

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料理は女の武器、などと軽々に言えないジェンダーフリーな世の中ですがこの映画はそういう映画だったので…。

↓原作

今日も嫌がらせ弁当 改訂版 ~ちょこっと“よろこばせ”~

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