『レイルロード・タイガー』を見て困惑する感想

《推定睡眠時間:25分》

いやもう今年いちばんかなしい映画だよね。世界をね、世界の現状を感じますよ『レイルロード・タイガー』。
なにが世界でなにがかなしいのかなうーんここは慎重にならねばならないのですがーあえて言えば全部かなしいよ世界だからね! 世界はかなしい!
ジャッキー映画で! 世界はかなしいと感じること自体が耐え難いかなしみなのだタイガーよ…。

しかし感想に困るなこれは。なんすか、それなりにお金はかかっているらしく機関車走らせ戦車を走らせ橋をドカンと爆破するんですからダイナミックチャイナスタイル、ジャッキージェイシーの親子共演でしょそれでラストにサプライズ出演があって…なのだけれども。
ジャッキーの加齢は織り込み済みであるし予告編から抗日映画であることも知っていたし今更カンフー大会ってこともねぇだろの予想はついていたのだけれども…そうだ抗日映画といえば。
悪役の池内博之が武闘派憲兵隊長として登場した際には『イップ・マン 序章』の死闘が脳裏を掠めたのですがつい掠めてしまったのですが、掠めただけでそれ以上の展開は無かったな。なんかおもしろお兄さんになってました。

つまり要するにあんまりおもしろくなかったのですがしかし。…言い難いよなんかものすごく単純につまんねぇと言い難いよ。ニコラス・ケイジの新作だったらなんだこれつまんねぇなと笑いながら言えますが。スティーブン・セガールの新作だったら見ないでもクソ認定して笑えますが!
ジャッキー映画につまんねぇなは言えねぇよ。いや言えばいんだけれども言い難いんだよ。ジブリ並にジャッキー映画の記憶つーのは肌に染みついてるしジャッキーが映画に命張ってきたのも知ってるわけだしまたこれほら題材が題材だから…言い難いよとにかく!

一言で言えば痛々しいのだし、痛々しいからストレートに悪く言えない感じがまた痛々しさに拍車を掛けてしまいさぁ困った。これはもう逆にジャッキーだけキャストから外した方がよかったんじゃないか。
仮にジェイシーがレジスタンスの首領役だったとしたら。ジャッキーがせいぜいカメオ出演程度に留まっていたとしたら。映画としてのスペックは低くなったかもしれないがユーザーエクスペリエンスは遙かに向上していたと思うよ俺の場合は。

鉄道アクションといえばバスター・キートン。キートンといえばジャッキーの憧れ。企画には携わっていないぽいですがまさにジャッキーのために用意されたような鉄道活劇巨編で、なのに、にも関わらず、重たい体を引きずってどうにも弾けない、あからさまな敵意を日本軍に向けることもできないが、かといって道化に徹することもできない。
そんな糸の切れた操り人形のようなジャッキーを誰が見たいつーのよ…。

ところで『イングロリアス・バスターズ』が個人的にすごい苦手な映画で、そもそもタランティーノが好きじゃないのですが、俺にとっては不快なその作品群の中でも『イングロリアス・バスターズ』の不快はわりとレベルが違う。
めちゃくちゃ嫌な映画である。ちょっとこれはダーティすぎる。ダーティなものをダーティなものとして描く芸術表現の何が悪いのかと思われるかもしれないが90年代ならいざ知らずタランティーノあるいはタランティーノ的なものがメインストリームになってしまってからこういうのを出す。

悪趣味が悪趣味とされないような状況で悪趣味を消費することの悪趣味は、悪趣味として悪趣味を身に帯びることの悪趣味と同じではない。同情の余地のないSSで憎悪を加速しヒトラーを含めたナチ皆殺しのカタルシスに導くプロパガンダ的で悪趣味な空想はそれが横道からではなく正統なルートで正当な品物として安全に出荷された瞬間、異議申し立ての説得力もパロディとしての攻撃力も失い強烈な腐臭を放ち始めるんじゃないかと思うのだ俺は。

こんなに嫌いな『イングロリアス・バスターズ』なのですが、もしもあの劇場のスクリーンに映る女があらゆる製作面でのハードルを乗り越えてファンク映画で舞うリーフェンシュタールであったなら、嫌いの全ては敬意と尊敬に転化したに違いないんである。
このへんの心情は言語化することがわりに困難なので理解してもらわなくてもべつにいいのですが同様にしていや同様ではないが似たような意味で、『レイルロード・タイガー』にもそこだけ違えば受ける印象は真逆だっただろうなぁつーポイントがあるんであるジャッキーの出演以外にも。

つまり、もっと本気で日本兵を憎んでほしかったよね。それはもう殺しても殺しても殺し足りないぐらい憎んで欲しかったし、戦うなら戦うで本気で戦って欲しかった。ジャッキーのイメージだけ利用して中途半端なコメディになんかしないでほしかったよ。
本筋とはまったく関係ないが映画は機関車博物館(?)を訪れた子供が機関車に描かれた落書きを目にする場面から始まる。ジャッキーら義賊的レジスタンスの活躍は子供の白昼夢という設定で、それを通して国のために戦った人々がいたことを子供は学ぶ。
こども向け抗日映画だから悲惨も残虐も正面からは描かないんですが、そのことが『イングロ』とは表現的には真逆でありつつ意味するところとしては同じ悪趣味をこの映画にもたらしているように俺には思われたわけです。これもなかなか言語化がむずかしい。

だからまぁそういう意味でですねラストの延々続く、スラップスティック風味もあるがちっとも笑えるところがない死屍累累の戦争風景、なんか救われたよね。
戦場のカオスとアクションの連続の中にようやくこのジャッキー映画らしからぬジャッキー映画にいつものジャッキーを見たような気がしたんだ俺は…。

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これはこれで愛国映画の意味合いが強いが作り手が本気であれば愛国がどうとかどうだっていいんだよこれだってなこれだってあんま面白くなかったよ! でもなんか感動したんだよ製作とアクション監督も兼ねたジャッキーの本気っぷりにぃぃぃ!

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