映画『リズと青い鳥』を見た(ネタバレないと思いますが)

《推定睡眠時間:0分》

パンで釣った森のどうぶつたちを侍らせた自然派ガールが切り株でお休み中の青い鳥を一目見て「すごいわ。まるで空の青を映し出したみたい」とかそんな感じのことを言うが空の青というにはあの鳥は濃すぎないですかね、青。
“空の青”からどんな色を思い浮かべるかというのはだいぶ個人差があるとは思いますが。いやでも俺には深海ブルーだったけどなあの青。そうするとまた深海は青くねぇよみたいなブーメランがくるから言葉はむずかしい。

言葉はむずかしいと言えば。『リズと青い鳥』とのタイトルなので童話の映画化かなんかかと思っていたがこれ『響け! ユーフォニアム』シリーズなのかよ全然知らなかったよそれ。
なんでタイトルから響けの看板外したんだろう。シリーズ未見の人にも広く訴求するためか。確かに確かに『響け! ユーフォニアム外伝 リズと青い鳥』みたいなタイトルだったら絶対観に行ってなかったと思うから少なくとも俺に対してはその判断が功を奏したな。俺に奏しても誰も嬉しくないと思いますが。

シリーズ作とはいえ交響曲の第何楽章みたいな感じだったのでこれ単体で全然見れる。『響け! ユーフォニアム』は原作もアニメも一秒たりとも見たことがなかったが、お話の内容は普遍的なものだったし絵もアニメを見ない人のイメージするアニメっぽい絵(伝わるのかそれで)じゃなくて色鮮やかで繊細な水彩画を取り入れたものだったのでゼロ摩擦でヌルッと世界に入り込めた。
まぁシリーズずっと見てきた人はよりディープな方向から楽しめたりするんでしょうが。俺は知りませんけどダブル主人公のみぞれとのぞみのこれまでの経緯を知ってる人だったら感慨もひとしおなのでは。なんか卒業控えた時期っぽいので。

逆に新鮮かもしれないシリーズ知らない人によるストーリー説明。根暗と根明、性格的には正反対のみぞれとのぞみは吹部の仲良しコンビ。高校最後のコンクールの自由曲ではオーボエとフルートの二重奏パートを担当することになったので二人でがんばって最高の想い出にしようぜってなるはずだったが、みぞれは劇的な低テンション期に入ってしまう。
コンクールが終わって卒業したら唯一の友だちののぞみとはお別れしちゃうかもしれない…とかなんとか考えたら恐ろしくて悲しくてもうどうしていいか、どうしたいか本人にもわからなくなってしまったのだった。

この自由曲は「リズと青い鳥」といって、なんでも童話を元にした曲。絵本「リズ鳥」の大ファンだったのぞみはみぞれに絵本を見せてやる。
あるところに孤独な女の子がおりました。ある日のこと彼女の下に一匹の美しい鳥がやってきました。女の子と鳥はすぐさま意気投合、二人だけの相思相愛同居生活がこうしてスタート。
それはそれは楽しい日々だったが、しかしやがて女の子は思うようになる。私は青い鳥を籠の中に閉じ込めているんじゃないか。こんなに美しい鳥なのに、本当は大空を自由に飛べるのに、自分がその枷になっているんじゃないか。

これだ! これめっちゃ私だ! 絵本を読んだみぞれは思わず心のガッテンボタンを連打する。というわけでみぞれとのぞみの静かに葛藤しまくる高校最後の日々が幕を開けるのだった。

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このみぞれという人はフルネームが鎧塚みぞれというらしいですが劇中で誰もツッコミ的なやつを入れてなかったのでシリーズの前の方でもうやってるんだろうな。
めちゃくちゃ強そうじゃないすかなんすかそれ! キャラ真逆じゃないすか! みたいなの。いやそういうアニメなのかどうか知りませんけど。

それにしても息苦しい映画。舞台は高校の吹部なんだからもっとこう、学園要素とかあってもよさそうな気もするが、徹底してみぞれとのぞみの関係性に焦点を絞った90分の映画なのでそういうの全部ナシ。
「今度プール行こうよ。のぞみも来るでしょー?」「…うん…」だがしかし、そのプールの場面は劇中では描かれないんである。スマホ写真としてちょっと出てくるだけだ。
みぞれからしたらプールなんてどうでも良かったんだろうな。全然そういうの楽しくないしそれどころじゃない。だから画にならない。
代わりに入ってくるのはみぞれの空想する美しい絵本の世界。部室の日常風景。のぞみの顔と声だけだ。これは苦しい。

その苦しさをスクリーンを通して一緒に体験しているうちに段々と気持ちが反みぞれに傾いてくる(いや俺はってことですけど…)というのが映画の罠。
重いよ、みぞれさんめっちゃ重いよ…ってなってきたところで今度はどうもみぞれと距離を置こうとしている気配ののぞみ視点にスイッチング。
主観から客観へ。こうして大の仲良しだったはずの二人が少しずつズレて離れて自立していく過程がリアリスティックな散文調で綴られ…ながら、絵本の「リズと青い鳥」を媒介に離れた二人の心の動きが交叉するというわけで、なんかまぁすごいっすねすげぇよくできたお話だと思いましたね。

そのほか思ったこと列挙。吹部の上下関係は野球部並に厳しい。水彩画とか版画で描かれる心象風景がとても綺麗。視線の揺れ、落ち着かない足、会話の間、等々を丁寧に積み重ねていく繊細リアリズム、いいっすね。少女が鳥を束縛しているのか、鳥が少女を束縛しているかということ。
みぞれとのぞみの距離が近すぎるから百合っぽくてドキドキしてしまったというのは内緒にしたい(でもこの距離感の無さは百合というか、幼児と保護者。その距離の近さからお互いに不安と不満を抱えたまましばしば立場が逆転してしまう幼児と保護者の関係だよなぁ)

【ママー!これ買ってー!】


まんが道(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

内向的な天才と外向的な凡才の幸福な出逢い。俺がみぞれとのぞみから連想したのは『まんが道』の満賀道雄と才野茂だったので『リズと青い鳥』が百合ということになると『まんが道』はBLになる。
まぁBLでも構いませんがそれにしても『まんが道』は熱いな。才野茂こと藤子・F・不二雄が一日で就職先を辞めて仕事しないで漫画家目指す宣言をするところとか勇気しか貰えないのでブラック社会に喘ぐ全員が読むべき(実際には一週間ぐらいは務めたとも)

↓読んでないが原作

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章 前編 (宝島社文庫)

1000
よーく

こっちも観てきたので少しだけ書きます。
ちなみに俺はTVアニメの響けユーフォニアムは全話見てます。確か総集編として上映された劇場版は観てなくて原作も未読。
TV版は未見のようですがずっと見てた者からしても満足度の高いええ映画やな…という感想でした。本文で仰られてるようにこの映画は単体で見てもまぁストーリーは分かるようにはなってるんだけど細かいニュアンスはTV版見てないとキツイかなとも思いました。TV版から見てる者の感想としては、ですが。
具体的にはデカいリボンを付けた部長とポニーテールの女の子がいたけどあの二人がみぞれとのぞみにかけるセリフは大体TVシリーズでの出来事を踏まえたうえでのセリフですね。金管パートの二人が校舎の隅でオーボエとフルートのパートを演奏するシーンもあったけど(あの二人はTVシリーズの主役と準主役です)あそこも過去のエピソードを知らないとなぜこんなシーン入れたの…?となるような気がしました。
でもその辺は正直ちょっとしたスパイス的なもので映画としてこの尺の中でみぞれとのぞみの物語はちゃんと成立してるのが大したもんだなぁと思いましたよ。あの絵本パートが導く物語りの導線からメインの二人の心理が反転していく構成は上手いですよね。実はTV版を見てればある程度予測できるんだけど(二人が天才と凡人なのは何となく描かれています)逃げずに正面からがっちり描いたなぁというのがシリーズを見てきた俺の印象です。百合的な面も含めて。
しかしこの作品はちゃんと映画してるなぁと思いましたよ。めちゃくちゃ俺の主観だけの感想ですけど。俺は深夜アニメの劇場版とかたまに観に行くけどTVアニメを5話分くらい繋げただけじゃんていう印象のやつも結構あるんですよね。でも『リズと青い鳥』は映画観たなぁ、て気持ちになった。何が違うのかはよく分かんないですが。
あと息苦しい映画だというのはめちゃくちゃ同意しますが今回メインの二人が飛びぬけて湿度の高い百合なだけでTV版はもっとエンタメというか分かりやすいスポ根ものでもあるのでTV版の方が気に入る人は多いんじゃななぁとも思います。お暇なら見てみてもいいかも…でも今調べたらネトフリにはなかったな…。
最後にこの映画の学校内の背景とか繊細な少女の心理描写とか登下校してるときの雰囲気は少し岩井俊二的な印象を受けました。監督は確か俺と同世代なので10代の頃に岩井俊二にかぶれててもおかしくないんだな…。
今日は一日で『レディ・プレイヤー1』と『リズ青い鳥』を観たので変なテンションになりました。どっちも面白かったけどノリが違い過ぎて疲れたよ!めっちゃ良かったけど食い合わせ悪いよ!

よーく

女性中心の大所帯という吹奏楽部モノなので百合な雰囲気はTV版でも割とあったんですがTV版はまだ「これは友情ですよ、決して百合ではありませんよ」という言い訳ができる程度だったのが、今回の劇場版でその言い訳は効かなくなったな、という感じですかね(笑)
明確にノリが違うと思ったのはむしろTV版なら絶対にコンクールの結果までやっただろうな、ということですね。本編は吹奏楽でトップを取ってやるというスポ根要素が強いのに対して今作は思春期の少女の心理描写だけを丁寧に掬い取ろうという作風だったのがとても良い意味で意表を突かれて番外編としては楽しめましたね。