『タクシー運転手 約束は海を越えて』の感想

《推定トイレ時間:12分(腹下し)》

いやそれは絶対ウソだろっていうまさかのタクシーフォーメーション。戒厳令下の封鎖された光州から軍による民衆弾圧の真実を持ち出し爆走するソン・ガンホの個人タクシーに追いすがる残忍私服軍人カーの群れ。クラッシュ! 特攻! 爆破! やべぇ超かっけぇけどいやそれは絶対ウソだろ。

難しい映画です。すごいなぁおもしろいなぁ韓国映画、なのではあるがこれは作劇においては『アルゴ』とか『ブラック・ホーク・ダウン』のようなもので、つまりはアメリカ流の史実のフィクショナルなエンタメ化、ナショナリズムと結びついた歴史の神話化。
『アルゴ』だってあったよな最後にハラハラドキドキのカーチェイス。いや、それはアガるよそういうのやったらテンション持ってかれるんですけどしかし。それ実際はなかったわけだからカーチェイスとか…。

ラストにはタクシー運転手じゃなくてタクシー運転手が乗せたドイツ人ジャーナリストのご本人登場的実録演出。これ絶対あるやつ最近のハリウッド実録映画に絶対出てくるやつ。
ハリウッド映画の技法を完璧に物にしている韓国映画界の洗練すげぇと本日二度目の韓国映画すげぇですがハリウッド技法を完璧に物にしているということはハリウッド映画同様にして良くも悪くも映画と政治が分かち難く結びついてるってことだろう。

それが良い方向に働くときもあるし。マイナーな社会問題の周知とか社会的弱者のエンパワーメントとか。かと思えば悪い方向に働くときもあるよな。最たるものは戦争プロパガンダ。
このへんの線引きは実在の事件に材を取った映画だと実に超難しくなってくるなぁというのはハリウッド映画も韓国映画も変わらないが、それが如実に表れているのは本国で特大ヒットを飛ばした『タクシー運転手』が公開されたのはこれまた特大ヒットを飛ばした『軍艦島』の公開一週間後という。

その複雑な色彩を楽しめればよいが冷やかし半分で足を踏み込める領域ではなさそうなので、今のぼくは心身ともに疲れてますから、まぁこういう映画がすげぇ当たる韓国の人の政治意識の高さとエンタメ感度の高さはなにか自ら民主主義体制を選んだ自負のある人たちの矜持のようなものを感じますねと当たり障りの無いことを言いつつ、個人的には単純におもしろい『アルゴ』的なあるいはスピルバーグ的なポリティカル・サスペンスとして見ましたし、単純に見てもおもしろいのでそれでいいんじゃないですかね。

催涙弾の煙幕の中からぬっと現れる兵隊のこわさ。ガスマスクで表情を隠して無言かつ全力ダッシュで迫ってくる姿はまるで『新感染』のゾンビ。
だが命令に背いてでも義を通そうとするモブ軍人もいて、この人にはグッときた。そこらへん兵役あるから一方的に軍隊を悪役にはしないというか、悪いのは現場を顧みない無茶命令を下す姿の見えない上層部とサディスティックな上官っていうポピュリーな作りになってるわけです。
これは感情持ってかれるよ。あのオニギリ。音痴な歌。傲慢ドイツ人ジャーナリストとソン・ガンホの言葉のあんま通じない凸凹バディっぷりそして健気で不細工な(褒めてる)子ども。

極めつけがタクシーフォーメーションとカーチェイスというわけで映画としたら波瀾万丈の見せ場盛りだくさんでまったく面白くて、『グエムル 漢江の怪物』にも『ソウル・ステーション』にも光州事件のイメージが影を落としていたし(※いかにも知っていたかのように書いているが本当はこの映画観て気付きました)、これが現代韓国の人の心に響くというのはなんとなくわかるんですけど、でも光州事件を見るつもりではちょっと見れないぐらい、エンタメとして洗練されているが故の難しさは感じたなぁ。
(それを考えればあのデモ隊の中にもいたかもしれない386世代ポン・ジュノの寓意と暗喩に満ちた、ポップだけれども韓国現代史が一貫して伏流している映画作りというのはやっぱめちゃくちゃバランス感覚に優れていて上手かったのだ)

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観てないけどちょっと観てみたくなったので、まぁ、だから、やっぱ上手いっすよ映画の宣伝的な利用が。

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