もちろん公文ではなく映画『〇〇式』感想文

《推定睡眠時間:10分》

テレ東のフェイクドキュメンタリーホラーと『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』でホラー好き界隈を沸かせたばかりの新鋭・近藤亮太の新作が早くも!? と思えばこの『〇〇式』はランタイム50分弱の中短編。一般的な映画館ではかかっておらず志あるミニシアターでの限定的な上映、東京だと下北沢のK2と菊川のStrangerという固定客の濃そうなところがメイン館。まぁ中短編つっても新作には違いないのでペースが早いなぁと感心させられるところではあります。

『〇〇式』。さてこれはなんの式でありましょう。公文かな。ねじかな。蛭子さんのマンガに『さん式』というのもあったよね。いや、どれも違う。ブライダルビデオ作りで生計を立てている兄弟があーいつまでもこんな仕事したくねーということで廃業を胸に最後の仕事として引き受けたのは結婚式のようだがどうも様子がおかしい〇〇式。いったいこれはなんなのだろうか…というのがこの映画。

うむ、そんなに怖くはないな。やはりこのタイトルだとそれはどんな式なんだということを考えてしまうわけだが、実際の式は拍子抜け、洋式の結婚式にしては会場が薄暗く華やかさとはいえ基本的には結婚式である。もっとなんか裸の男女が呪文を唱えながら鍋で臓物とかマンドラゴラとか煮込む式みたいのを勝手に想像してしまっていたので映像的なインパクトはだいぶ薄い。

それならそれでよく知っているはずの結婚式なのにどこかが微妙におかしい…という方向でホラーを醸成することもできるわけで、おそらくはその線を狙っているように見えるのだが、そうだとしたらその試みはあまりうまくいってはいないだろう。「新郎新婦の入場です!」と司会者が告げると式場に入ってくるのは新婦一人、にもかかわらず場内の誰一人として新郎の不在を疑問視せずに式は進むのである。その模様を撮影しながら主人公は「おいこれおかしいよ…」と弟に言うのだが、こんな露骨におかしいと違和感を超えて不条理ギャグっぽくなってしまうんじゃないだろうか。

主人公が撮ってるビデオ映像や新郎新婦のエピソードビデオ的なやつがインサートされるのは前作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』同様に一般的な撮影スタイルのホラーにPOVの手法を取り入れる実験だろうが、前作でもさほど効果的であったとは思えなかったそのスタイルは今作でもそう面白い効果を生んでるわけじゃない。むしろ逆効果でさえあったかもしれない。

ちゃんと三脚に載せて撮ってるからブレるはずのないカメラがとにかくブレるブレる、ズームやパンも無計画でとてもプロのブライダルビデオ業者(の設定の人)が撮ったものとは見えないわけで、この映像の粗さはPOVの恐怖感を演出しようとした結果だろうが、その場当たり的な演出によって物語のリアリティが損なわれてしまっているのだ。ジャンプスケアとか直接的な恐怖映像ではなく物語の空気感で恐怖を感じさせるのがこの監督の作風だろうから、そうであればもう少しリアリティに気を配った方がよかったように思う。

そもそも前作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』にしてもはっきり言ってさほどのホラー映画ではなかったよな。終盤に出てくる民宿のあんちゃんの語りが怖いと話題になっていたが、ワンカット長回しで語りのみを撮る手法は良いとしても、その語りにリアリティがない。このあんちゃんは昔おばあちゃんからこんな話を聞いて怖くなったということを話すのだが、それがいかにも頭で考えたという風な出来すぎた話で、栃木の山奥がどっかの学のない(偏見)あんちゃんが話すリアルな恐怖体験とはどうにも感じられなかったのだ。追求している恐怖の性質はリアリズムなのに、演出やシナリオ面では作為性が前に出過ぎている、というズレが今のところのこの監督の弱点かもしれない。

ゆーて若い監督だしな。まぁええんじゃないか、習作つーことで。『〇〇式』に関しては面白かった部分よりも期待外れだった部分の方が大きかったが、サクッと観られる中短編ホラーを劇場でという試みは大いに歓迎なので、若手監督の習作ホラーなんかどんどん劇場でやってくれればいいと思います。ほら若手監督の習作映画なら劇場側が交渉で圧倒的に強いから作家に対する収益分配率下げられるし!

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