昭和は遠くならない映画『狼をさがして』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

取材中間報告みたいな正味74分の中長編なのでこれを元にしてまたもっと長い版というのもいつか作られたりするのかもしれないが結論から言うとそんなに面白い場面は出てこない映画なのだった。作り手は東アジア反日武装戦線の元メンバーで現在収監中の人に何人か面会を申し込むがいずれも許可が降りなかった、というのもあるし、現在はシャバの身の元メンバーにはちゃんとインタビューもしているのだが、これがもどかしいっつーかなんつーかもっと踏み込んでくれんかなーという感じで…新書映画というか、こういう映画を今作っているからには作り手の人にも相応の意気込みとかはあるのだろうが結果的に東アジア反日武装戦線の輪郭をさっと描いただけで終わってしまったように思う。

といってもですよ、東アジア反日武装戦線なんか名前すら知らんかったヤング世代こと俺なのでざっくりとでもこういう人らがおったんすねーっていうのがわかったんでそれはストレートによかったよね。東アジア反日武装戦線。うん、これはもう名前からして物々しい感じの。なんか学生運動に挫折した人が始めたらしい。指導部があったわけではないが武装戦線の理念に共鳴した人らがそれぞれ独自に行動を起してそのうち合流、「狼」「さそり」「大地の牙」の三部隊編成に。う~ん、ロマンですなぁ。爆破テロでトータル死傷者数百人とか出してますけど。

理念というのは戦争責任の追求です。天皇暗殺未遂などもやったがメインのテロターゲットは大企業。企業爆破をたくさん起した武装戦線はいやお前ら何食わぬ顔で普通に経済活動を続けているけれども戦前は朝鮮人労働者とかヘル環境でガンガン搾取してたし戦中はお国に奉仕したし戦後は朝鮮戦争とかの戦争特需で儲けてる暗黒商人じゃんなにそれズルい! とかまぁなんかそういう理由で悪いこともしてきたっぽいのにお咎めナシな大企業をドカンとやったわけです(それで労働運動とかと繋がりあったらしい)

爆破すべきかどうかはともかくとして俺なんかは比較的イージーに頷いてしまう。日本は米国さんの甘やかし統治術をモロに食らって自分で戦争責任の総括すらできない米国追従のお子様国家に成り下がってしまいましたからなぁ。ましてや戦後は経済経済経済だけやってりゃいいんだよということで経済復興の先頭に立った企業の戦争責任など誰も追求できるはずがありません。まぁ細かい訴訟とかではあったのかもしれませんが。

でね、それは今も全然尾を引く現在進行形の日本の大問題ですけど(過去の清算の不可能性というのが)武装戦線がドカンドカンやってた当時と今で明確に違うのって武装戦線は日本の経済植民地主義を批判してたわけですが今もうそれどころじゃないよね。経済植民地どころかぶっちゃけ国際競争力とか全然ないわけじゃないですか。中国の人なんかカネかからねぇからみたいな理由でガンガン日本旅行に来たりするし。まぁ今は新コロでだいぶ止まってますけど。

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今の斜陽の日本と日本企業を見て当時ドカンドカンやってた人が何を思うのかっていうのは俺この映画で知りたかったところのメインなんですけどそこ、とくになかったね。それはせっかく元メンバーのインタビューも撮ってるのに残念なところではあったんですけど、でも言えることもないのかなという気もした。

俺は戦争責任の主体的な追求による歴史の「仮構」なしに国は前に進めないんじゃないのって思うんですよね。仮構された物語を自国と周辺国で共有しないと協力関係は結びにくくなるし歴史問題は何度も蒸し返されるし、その度に「本当の歴史は!」って不毛な議論になったりするじゃないですか。歴史なんかどうせ誰かがどこかしら偏った視点で作るもんなんだからニュートラルじゃありえねぇからって思いますけど…まぁまぁそれはいいとして!

結局そういう歴史の仮構のできなさって前に向けての歴史の構築のできなさと繋がる話だと思うんですよね。ウチの国はこういう過去があってこういう試練を乗り越えてこういう悪いこともしたけれども反省してそのおかげで現在の我が国の繁栄があるのです的な。国としてそういう国民的な歴史(特定の層だけが好む「歴史」じゃなくて国民みんなが共有できる歴史ね)が語れなかったら国家のグランドデザインとかもないよね。そしたら目先の利益の追求ぐらいしかやれることないから驚異的な戦後復興とかエコノミックアニマル化とかってそういう結果なんじゃないかと思うわけですよ。で、それが今の日本社会の混迷の遠い背景にもなっていて…。

だから、武装戦線が爆破するまでもなく日本社会は勝手に内破しちゃったんじゃないですかね。皮肉っぽく言えば国家のオルタナティブな物語に憑かれた武装戦線自体がそうした物語を語れない戦後日本の病理の無自覚的な表われなのかもしれない。戦争責任の主体的な追及というのはそういう意味で国として将来のためにやるべきことであったのに、そんなもんケシカランもう戦後じゃないんだ平和なんだ経済なんだ! って国民的であったり国際的であったりする物語の構築作業をスルーしちゃったから日本こんなダメになったんじゃないですかって、なんか、今の武装戦線メンバーの妙に空虚で身の入らない言葉を聞きながらそういうこと頭よぎりましたね。

そんなエモい映画でもないと思うのだが上映中ずっと泣いていたオッサンらしき観客がいたので察するにたぶん武装戦線の関係者。実はこの映画で初めて知ったのだが指名手配ポスターの片隅で昔からずっと笑ってる謎の男こと桐島聡は武装戦線「さそり」のメンバーとのこと。まぁ来ないだろうけど念のためってのがあるからな的な感じで観客に紛れて私服の公安の人とかが桐島聡を捕まえるために張ってたりするのかなと思ったらなんとなく、不思議な感じ。昭和はまだ終わっとらんのだねぇ。

【ママー!これ買ってー!】


狼の牙を折れ: 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部

武装戦線側の映画だけ見るのもバランスが悪かろうからこちらは武装戦線を追った公安+αのルポ。

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