【行ってみた】東京・菊川の新ミニシアター”Stranger”雑感

初夏ぐらいからじわじわとツイッターの映画界隈で話題になってた東京は江東区菊川の新設ミニシアター”Stranger”に行ってきた。実はと勿体ぶって言うことでもなんでもないのだが俺は昔あのへんに住んでたのでこの映画館のことはずっと気になっていた。だって映画館が作れそうな建物なんて見た感じない。それに都営新宿線が通ってるとはいえ菊川とかいうマイナー地域。そこに映画館が出来るということがなかなかうまく想像できなかったんである。

ホームページなどを見る限りStrangerの特色は主に二つあるらしく、一つは独自買い付けを含むオリジナリティの高い作品ラインナップ。こけら落としが90年代ゴダール作品特集というぐらいなのでマニアック度で言えば都内随一じゃないだろうか。以後も客に媚びることなくむしろ映画館側が客に観せたい映画を叩き込むセレクトショップならぬセレクトシアターと言うべきラインナップを続けているが、近々あるらしい東映映画特集のラインナップは意外とマニア度が低めだったので、現在はオープン直後ということでどんな映画にどれだけ客が入るか、どういう番組編成なら興行として成立するか色々試行錯誤しているところなのだろう。

もうひとつの特色はカフェ併設という点。併設業態といえば最近銭湯業界で秘かなブームを見せていて、菊川周辺では錦糸町の黄金湯がリニューアルでバーやらレストランやらなんやらを併設していてすごいのだが、これは単独では採算が厳しいと言われがちな施設を存続させるためのある種の多角経営なんだろう、映画業界自体が先細りの気配を見せる中でミニシアターも今や単独では経営が難しいだろうから、カフェで映画館の穴埋めをするということなのかもしれない。

Strangerの場合は併設というか実際行ってみたらカフェがロビーを兼ねていたので外から覗けばシャレオツなカッフェにしか見えない。メニューもいわゆる映画館的なドリンクやフードはなく、喫茶店経験は鬼でもカフェ経験はモヤシの俺なのでこれをどう表現したらいいかイマイチわからないのだが、なんかカフェだなーってメニューだった。今なんかすごく恥ずかしい。

それからこれは映画館自体の特色ではないのだが、ここは東京都東部で唯一のミニシアターらしい。言われてみれば確かにそうだ。錦糸町には映画館が2館あるがいずれもTOHOシネマズだし、都営新宿線沿線の映画館としては数駅先の船堀に2シアターを構える船堀シネパルがあるが、ここはポケモン映画とかコナン映画とかを上映する封切館である。といっても船堀シネパルはなかなか上映機会のない旧作時代劇などの上映も積極的に行う名画座としての顔も持ち合わせており、あの快楽亭ブラックも(半ば神保町シアターと揉めた腹いせに)高く評価していたほど。

新型コロナ禍に入って途絶えてしまったが船堀シネパルはまた高齢者の多い周辺住民の年齢層に合わせた実に渋い上映ラインナップと豪華ゲストの登壇(第一回には鈴木清順が来てた)で地域映画祭の枠に留まらない存在感を放っていた船堀映画祭のメイン上映会場でもあり、地域の映画文化を担う映画館として…と船堀シネパルの話に入ってしまったが、ともかくStrangerは東京東部に住む映画ファンには待望のミニシアターと言えるだろう。Strangerと船堀シネパル、そして錦糸町のTOHOシネマズの三角ハシゴでマニアックなアート映画、クラシックな邦画、最新の娯楽映画と映画ファンに必要なものが都心に出ずとも大体揃うのはデカい。

さてカフェにしか見えないStrangerに足を踏み入れるとうんこれはカフェ。シンプルな内装はオーナーのこだわりなのか壁に映画ポスターが掲示されているようなこともなく、シャレオツな壁面チラシラックの存在が辛うじて映画館っぽい装飾として機能している。時刻表や料金表なども外のメニューボードには書いてあったような気がするが中には見つけられなかったので映画館に来た感覚は全然ない(どこでチケットを買えばいいか少し迷ってしまった)。しかしカフェ内をぶらつくとカタそうな映画関連書籍は置いてあるし奥にはシアターへの入り口も見える。よかったぁ映画館だぁ。俺のような内向人間には初回に限りちょっとスリリングな映画館である。

カフェにはZINEを含む映画館オリジナルグッズの数々が置いてあったりするがそれには目もくれずとりあえずレモネードを買ってシアターに向かう。もぎり人員はおらずレシート型のチケットに印刷されているQRコードをセルフで読み取り機に読ませて入場するシステム。こちらは一応の案内スタッフが横に立っているがQRコード入場はリニューアル後の新文芸座や渋谷のル・シネマもコロナ禍を受けて導入していたので、不正入場リスクが低く人件費が死活問題になるミニシアターでは今後スタンダードになるかもしれない。更に先進的なシステムとしてはアップリンクが導入しているもぎりスタッフもQRコード読み取り機も設置せず完全に客の善意に任せて自由入場させるシステムもあるが。

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場内に入るとあれなんか思ったよりゆったりしてる。座席数49のキャパにしてはスクリーンは心なしか大きめだし最前列とスクリーンの間も比較的距離が取ってある、座席はシート自体もでかでかふかふかしてて好感度が高いが前の席との間隔も多少広めに取っているので窮屈な思いをすることはない(ただし通路は中央右寄りに一本のみ)、加えてこの規模のミニシアターにして各座席列に段差が付いたスタジアム型を採用しているのがありがたい。これならどこに座っても視界を妨げられることなく映画に集中することができるだろう。

居抜き物件を映画館にしてるのでこのへんは建物の限界と見えて映写は少し台形っぽい。とはいってもイメージフォーラムの地下シアターのように気になるほどのものではなく、スタンダードサイズの映画など台形が顕著に表れてしまう場合はおそらくカーテンでマスクするのだろう。俺が行った回はシネスコのスクリーンサイズの映画だったからかカーテンは稼働してなかった。

映画を観ていて気付いたのは壁一枚隔てた向こうが厨房直結のカッフェにも関わらずその音がしない。俺がこの映画館の概要を見た時にいちばん気がかりだったのは遮音性だったのだが杞憂でしたな。音響システムはなにか特別なものを入れてるわけではないのだろうが遮音性が高いということは映画の音が拡散しにくいということでもある。光るものはスクリーンだけという暗さもあってとても映画に集中しやすいシアターになっているのではなかろうか。

気に入った。ぶっちゃけ行く前は「なんだこの気取りやがって…」とか思っていたがStranger、良い映画館でした。ドリンクもクセは強いがおいしかったしこれは通いたい。

…絶賛したからちょっと文句書いていい? やっぱ、高いと思うわ。映画の基本料金が一本立て1800円でしょ。で割引一切ないわけでしょ。上映作品によって料金変えたりしてるっぽいけど基本が1800円は高いって。でカフェの商品として売ってるから騙されるけどコーヒー500円とかでしょ。映画館のコーヒーって高くて300円ぐらいじゃない? 自販機以外で飲食物を販売してるミニシアターはそう多くないからありがたいしカフェ利用料込みと考えれば決して高くはないんだけど、映画館のお供としては高いって。ZINEもねぇ、1600円とかするじゃん論考何本か載ってるだけで。そいつらみんな大御所批評家なんだよ! って言われるかもしれないけどさぁ…まぁこれは好きな人だけ買えばいいんだから別にいいけど。

あとやっぱちょっと意地悪な意味で意識たけーなーとは思うよね。っていうのもね、狭いトイレは男性用小便器と女性用洋式便器と男女共用洋式便器の三室に分かれてるんですけど、小便器個室は扉に「MEN」って書いてあって、女性用個室は「WOMAN」って書いてあって、それは俺の最低英語力でもなんとかギリギリでわかるけど共用個室の扉に「ALL GENDER」って書いてあるんだよ。いや「共用」でよくない!? そんなバカなって高学歴のStrangerオーナーは思うかもしれないけど俺「おーるげん…?」って少し考えたからねマジで!

いや、取るに足らないことだってのはわかってるんだよ。別に共用個室の表記が共用だろうがALL GENDERだろうがそんなのどっちでもいいんだけど、割引一切なしの潔すぎる料金体系とかも併せるとさ、俺みたいな映画が好きなだけで学力が虚数でしか算出できないごめんなんか気の利いたことを言おうと思って意味分からなくなったけどつまり俺みたいなバカは「なんかここは近づきがたいな~」って感じちゃうのよ。

そういうハイソ感もこの映画館の個性だろうからなにも是正しろとか思いませんしこういう映画館も少しはあった方がおもしろい。とはいえ、気にならないと言ったら嘘になってしまうわなそれは。だから今のところそんな大袈裟なものではないが俺の中でStrangerは愛憎相半ばする存在。どうなんすかね他の人は。ま、シアターの完成度はかなり高いですから、行ける範囲に住んでる人にはとりあえず一回ぐらい足を運んでみて欲しいとは思います。そしてトイレのALL GENDERがパッと見で読めるかチャレンジしてほしい。え、それは読める? 読め…そうですよね! うそうそ俺も本当は読めるよはっはっは!

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じゅり
じゅり
2022年11月3日 3:40 PM

初めて映画以外についてのさわださんの文章を読みましたが想像以上に印象が違ってなんだか驚きました!
うまく言えないのですが。
共用でいいですよ、子どもにも読める字でかけっつーの!