【入ってみた】ホラー専門動画配信サイト『OSOREZONE』雑感

その昔スカパーのチャンネルにホラーTVというのがあり、その名の通りホラーしか基本やらない映画チャンネルなのだったがこれが凄まじい放映ラインナップ、知る人ぞ知る的なレア作のソフト化やリバイバル上映の動きは近年活発だが、そんな程度では到底掬いきれない量の怪作鬼作珍作謎作が毎日垂れ流しにされていた。

テレビシリーズ版『13日の金曜日』なんてご存知ですかねホラー好きの皆さんは。俺は全然知らなかったがデヴィッド・クローネンバーグや俳優のデヴィッド・モース、アトム・エゴヤン(!)まで監督に駆り出されたシリーズらしい。これをホラーTVは(たぶん)全エピソード放映した。
『吸血鬼ヨーガ伯爵』と『吸血鬼ヨーガ伯爵の復活』なんてタイトルは聞いたことがありますかねホラー好きの皆さんは。俺は聞いたことが無かったしビデオには撮ったが今でもまだ観ていない。これもホラーTVで放映した。

スカム・ホラーの重鎮にしてアメリカン・スプラッターのゴッドファーザーの異名を持つハーシェル・ゴードン・ルイス監督作品特集を組んだ時には代表作の『2000人の狂人』や『血の魔術師』はもとより、『サムシング・ウィアード』や『悦楽集団』といった日本語字幕での視聴期間がほとんどないレアものまで放映した。後者に関しては恐らく日本初公開だったんじゃないだろうか。

とまぁそういう具合にホラーTVは実に充実したホラーマニア垂涎の映画チャンネルだった。放送期間は短くほんの数年でFOXに買収、ホラーTVの看板はFOXムービーに掛け替えられ毒にも薬にもならない凡庸なつまらない映画チャンネルになってしまったが、それまでの数年間ほど充実したホラーライフはそれから送れていないし、これからも送れないだろう。あの頃は本当に楽しかったなぁ…。

休題するまでもなくのっけから閑話してしまった。すいませんオソレゾーンの話します。
オソレゾーンとは! わざわざこんなの読んでる人に説明は不要かもしれないが、ホラー映画(ドラマも?)専門の動画配信サービスである。
運営は映画.com。新規事業とはいえ映画情報サイトの大手だからそれなりの信頼感もある(あった)。ホラーTVの懐古話をしたのは「もしかしたらオソレゾーンがストリーミング時代のホラーTVになるのかも!」という期待が密かにあったからなのだった。

結論から言えばその期待は現時点では粉々に粉砕されて修復が極めて難しい状態にある。確かにホラーTVも最初期はビデオ屋でレンタルできる有名作ばっか放映しててありがたみが薄かったので、オソレゾーンもこれから化けないとは限らないが…とにかく、現時点(※2019/2/20時点)ではそういう感じ。
まだ2本ぐらいしかちゃんと観てないがとりあえず登録して使ってみたので以下雑感。最初の2週間は無料なので、まぁ作品ラインナップは登録しなくても確認できますが、気になったら一応登録して2週間で切ったらいいかもしれない。そこまでして観たいものがあるかどうかはわからないが…。

作品数はかなり厳しい

まず本数からいうと目視で数えたところ196本。実際には吹き替え版が別にカウントされていたり前後編の映画がそれぞれ1本としてカウントされていたりするので多少前後する。
俺はオソレゾーンの他にはAmazonプライムビデオとNetflixとあと知っている人がどれだけ存在するのか知らないがTSUTAYA TVという動画配信サービスも使っているので、参考までにこいつらでジャンル:ホラーで検索して出てきた本数を載せておくと、Amazonプライムビデオ480本、Netflixは281本、TSUTAYA TVはジャンル分けが独特なので計算しにくいがトータル259本。

オソレゾーン完敗じゃねぇか。Netflixは一番安いプランで800円、TSUTAYA TVは月額1000円で店頭の旧作が借り放題になるTSUTAYAプレミアムのオマケみたいなものだから一応1000円(プレミアムなしの単独プランもあるが月額933円)、この二つと比較するとオソレゾーンの月額は500円だからと苦しい言い訳もできなくはないが、ホラー映画を480本揃えるAmazonプライムビデオは年額3800円、月額制では400円だからアマプラには料金でも負けてる。

作品の質もかなり厳しい

とはいえ動画配信サービスの価値はコンテンツの量だけで決まるものじゃない。確かに量は大事だがアマプラなんてザ・玉石混淆である(それがアマプラの愉しさでもある)。
質の方を見てみよう。質の方は…ぶっちゃけそっちの方でも、というかそっちの方が厳しい感バリバリである。
なにせアマプラとかNetflixでも配信されている作品が結構ある。ひとつひとつ確認してはいないが、オソレゾーンの選び抜かれた196本に入った『クラウン』はアマプラでもNetflixでも見ることができる。『ゾンビ(北米公開版)』とか『悪魔のいけにえ(40周年記念版)』なんかも同様。

もっとも『ゾンビ』とか『悪魔のいけにえ』はホラー映画の基礎教養のようなものだから被っていても大して気にならない。むしろホラー専門を謳う配信サービスでこの2作品がなかったらそっちの方がダメだろう。
ホラーTVがそうだったようにまずメジャー作品を揃えておくことは専門サイトとして最低限やるべきことだ。

という視点でラインナップをもう一度眺めてみる。うん…うん…そうだな…うん、やっぱ厳しいわ!
アマプラやNetflixと違って『ゾンビ』が『北米公開版』『ディレクターズカット版』『ダリオ・アルジェント監修版』と全バージョン揃っているのは素晴らしいと思うが、一昔前ならともかく今ではどのバージョンも様々な手段で容易に視聴することができるし、だいたいバージョン違いを観るようなマニアはもうDVD持ってるだろう。俺も2枚ずつ持ってる。これはありがたみが薄い。

ハーシェル・ゴードン・ルイス作品はそれなりにある。『血の魔術師』、『血の祝祭日』、『2000人の狂人』、『ゴア・ゴア・ガールズ』、『カラー・ミー・ブラッドレッド』とドキュメンタリーの『ゴッドファーザー・オブ・ゴア』。
『血の祝祭日』が入ったのならどうにかして遺作の『血の祝祭日2』とかファニーな珍作『悪魔のかつら屋』も入れて欲しかったが、このへんはかなり健闘したと言えるか。

ホラー専門としての意地を感じるのは『ファンタズム』と『バスケットケース』を全作網羅している点で、これは素直に嬉しい。『ヘルレイザー』も1~3まであって、こっちはシリーズ全作とはいかなかったが、それ以降のシリーズ作を積極的に観たい人もたぶんそんなにいないから問題にはならないだろう。

しかし褒められるのはそれぐらいで、『13日の金曜日』も『リング』も『エクソシスト』もない。観るかどうかは別としてそれはないだろうって感じである。
貧弱なラインナップの穴埋めか変なところで充実しているのはキム・ギドク映画で、なんと7作品も入ってる。
結構なことだがどう好意的に見てもホラーじゃないし、そんなところを充実させるのならゴミでもいいからスプラッター映画10本ぐらい入れて欲しいとか思ってしまう。

だってホラー専門なんですから。ホラー専門って言うから500円の月額払うわけですからこっちは…。

視聴画面も作品ページも超シンプル

これは利点と言えるのかどうかは分からないがアマプラやNetflixなんかと比べるとシンプルの極み、動画視聴画面には再生/停止ボタンと音量ボタンとシークバーと全画面ボタンしかない。字幕選択もなければNetflixみたいな次の動画の自動再生機能も現時点では無い(動画再生の設定はアカウント設定メニューから変更できるが、今のところ変えられるのは画質だけ)

作品ページには字幕/吹き替えの種別とランタイム、監督・脚本・キャスト、あらすじなんかの作品情報がちょびっと載ってるだけで、評価ボタンとか予告編リンクとかコメント機能はなし。再生ボタンとマイリストのボタンが付いてるだけでかなり素っ気ない。申し訳程度に基準が不明な「あなたへのオススメ」がページ下部に表示されるが、とにかく映画を選んで観るだけという感じである。

あんまりスマホで映画を観たりはしないがとりあえずアプリの方でも試してみるとアプリ版では早送り巻き戻しなんかができたりした。
PCから作品一覧を眺めているとサムネイルにワイドと縦長のDVDジャケットサイズが混在していることに気付いたが、アプリから見るとDVDジャケットサイズで統一。たぶんこのシンプルなUIはスマホとかタブレットでの視聴に最適化されたものなんじゃないだろうか。空いた時間でちょこっとホラー観たいときに便利でしょみたいな。俺はそういう使い方はしないんで関係ありませんが…。

※なお2019/2/20時点ではchromeで動画を再生しようとするとノイズが出てしまい、作品によっては画面がほぼ隠れてしまってまともに視聴ができない。公式のメッセージでは別ブラウザでの視聴を推奨しているが、そんな致命的なバグ残したままローンチするかね普通って思うのですが…。

作品検索の仕方はちょっと面白い

ホーム画面の構成は簡素なアマプラっぽく、ジャンルやカテゴリーごとの作品リスト画面はNetflixっぽいので両者のハイブリットという感じ。
やや独特なのはグローバルナビゲーションから「すべての作品」(作品一覧)を選択した時の作品表示切り替えの仕組みで、選択した一つのカテゴリーが一覧表示されるのではなくラジオボタンにチェックを入れたカテゴリー(ゾンビとかスプラッターとか)の作品全てが表示される求人サイト形式。それを配信日や50音で並べ替える。

このカテゴリーメニューは「ゾンビ」とか「スプラッター」みたいな作品のジャンルと「映画祭受賞」とか「吹き替え」みたいな作品の特徴・形式がゴッチャになっているのでぶっちゃけかなり見づらいが、なんとなくメイドインジャパンっぽいガラパゴスな作りで嫌いではなかった。

レンタルビデオ屋の臭いがする

ホーム画面上部にはでーんとでっかく特集が表示される。個々の作品をホーム画面上部で推すのは他の動画配信サイトでもあると思うが、いくつかの作品を特集の形でまとめてサイトの側から提案してくるのは案外珍しいんじゃないだろうか。
これもまたガラパゴス感だが、それ以上に俺が感じたのはCSの映画チャンネルとかレンタルビデオ屋っぽさだった。

Netflixなんかに顕著な流行りの動画配信サイトのスタイルは膨大な作品の中から何を見るかはもっぱらユーザー(とオススメを割り出すアルゴリズム)に任せて、自らは新作をバンバン配信することに専念する大量消費スタイル。
俺はNetflixを見ていていつも思うのですがこのスタイルだと作品トータルの回転率は上がるが、その一方で死蔵在庫のような作品がかなり出てしまって、人気のない作品は徹底して観られないことになる。

どうせ回らない作品は契約更新しなきゃいいんだからサービス提供側はそれでいいかもしれないが、こういうスタイルは作品を尊重するものではないし、ユーザーと作品の事故的な出会いや体系的な鑑賞も難しくなる。つまり驚きや学びがない。
その意味で特集をホーム画面のトップを持ってくるオソレゾーンのレンタルビデオ文化的なカビの生えたやり方は専門サイトに適したものだと言えるのかもしれないし、ホラーTVとレンタルビデオ屋でホラー教養を得た俺としてはちょっと推したい感じではあった。

ちなみに作品ページのあらすじは他の動画配信サイトなんかと比べてやたら丁寧で好感が持てるが、丁寧すぎて『ゾンビ』のあらすじを見たらかなりネタバレしてしまっていた(誰が死ぬとか)。
これもある意味レンタルビデオ文化っぽいところではあるが多少自重しろよとは思う。

現時点での総評

その他いろいろ細かいところで仕上がってないなーとか思ったりはしたが、まぁそのへんは次第に解消されていくでしょうからいいとして、とにかく作品を増やしてほしい。もう、とにかく、作品を増やして欲しい。今言いたいことはそれだけですね…。

※近いうちにオソレゾーンで見れるオススメ映画10選みたいなやつもアップします。

2019/2/20:多少加筆しました。

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