【アマプラ】ニンゲン難しい映画『アンダーウォーター』感想文

《推定ながら見時間:55分》

デニケンを愛読しアトランティス大陸を信じている元ムー読者の知人がニンゲン! ニンゲン出る! と興奮してこの映画のことを教えてくれたのは一年ぐらい前のこと、主演がクリステン・スチュワートなのにとくに話題にもならないということはそのうちヒューマントラストシネマ渋谷の未体験ゾーン(※ソフトスルー映画一挙上映企画)入りかなぁと思っていたら上映はおろかソフトにもならず配信スルーになってしまいました。これからソフトも出るのかな? まぁどっちでもいい。

ニンゲンというのはUMAファンの人にはお馴染みの海棲UMA。南極に住んでてヒューマンみたいなフォルムをしてますがめっちゃでかいので人間じゃないっぽいです。イメージ図みたいの見ると足が退化しているようなのもあるしもっとはっきりビッグフット南極版みたいなのもある。よくわからん。よくわからんからUMAなわけですが。

得体の知れぬでかいものは本能的に怖いのでこんなのに遭遇しちゃったら超こわいよね。それも深海で! 俺は中学時代水泳部でしたが部活に遅刻かなんかした時に懲罰的に夕暮れ後に泳がされたことがあって、まだ夜にはなってないから別に前が見えないとかじゃないんですが、それでもほの暗いプールを一人で泳いでいるとものすごく怖かった。

中学の屋外プールだから足がつかない深さじゃないし、スピードの方はてんでダメだがスタミナの方はないわけではない、だから溺れて酸素欠乏になったせいとかじゃあないのですが…恐怖の中で泳いでいるうちに見えたんですよ俺には、プールの中に半透明の深海魚のようなものが。もちろん幻覚というか、錯覚というか、クロールで泳いでいたから息継ぎに顔を上げたその一瞬なんとなく見えた気がする…というたぐいのもので、恐怖心の産物であることは間違いない。

けれどもそれで俺はパニックになってしまった。プールの中に怪物がうようよいるような気がしてきて泳ぎがドタバタと乱れるものだから、俺に懲罰水泳を命じたスパンタン顧問もビビってもう上がっていいぞとなる。無事プールサイドに上がった後も魚がいる! 魚がいる! とか譫言のように言ってたんじゃないかなぁ。とにかく、ある程度の広さをもった暗い水中は怖い。確実にめちゃくちゃ怖い。

なんというか、自分ではコントロールできない空間に飲まれる感じがするのだ。走って逃げることもできず、棒を手に立ち向かうこともできず、少し先を見通すこともできずに、波が立てばなすすべなく流されていくような状況の中で、死と孤独と人間の無力を強烈に意識させられるのだ。

映画と全然関係ないノスタル話に逃げたのはぶっちゃけ『アンダーウォーター』、俺にはあんま語りたいことがない映画だからなのだった。誤解なきように申し上げておきますがよく出来た映画だとは思いますよ。数多ある『エイリアン2』エピゴーネンの中でも最高クラスの完成度と言ってもいいんじゃないですか。

色々とアクシデントは起きつつもガツンと盛り上がる場面は意外に少ないが、深海の舞台設定とUMAホラーのジャンルが見事に内省的な人間ドラマに昇華されていて、映画を構成する様々な要素がこう無駄なく噛み合う…噛み合ってやがて隠された主題を描き出すジャンル映画というのも滅多にあるものではない。それでいてきっちりUMAホラー・深海ホラーとしても成立しているのだから見事と言うほかない。のだが。

たとえば最近の極限環境ホラー(南極基地とか宇宙船とか人の住めないところを舞台にしたものを俺はこう呼んでいるが、ちゃんとしたジャンル名とかあるのだろうか?)でいったら『ライフ』という『エイリアン』の亜流があった。で、『ライフ』は直球にB級なので今までに超何度も見た退屈なシーンとかがあるんです。宇宙ステーションの乗員がつまらないジョークを飛ばす日常パートとかね。そういうのが『アンダーウォーター』にはなかった。だから俺は『ライフ』の方が退屈だけど面白かったんですよ。

なんか、そういうのってやっぱ必要じゃないすか? 今のジャンル映画はものすごい展開が早かったりするから開始1秒でまず一人殺して開始10分でもう殺人鬼との鬼ごっこに入ってみたいなこととか普通にやるじゃないですか。俺そこは溜めて欲しいんですよね。つまらない日常パートあってこその人死にの重さ楽しさ、みたいなのってありません? まぁ展開の早いやつが流行ってるってことはみんなそう思ってないんだろうけどさ。

俺はそういうクラシック・スタイルのホラーが好きなので、それこそ開始5分を待たずに海底基地の日常が崩壊してしまう『アンダーウォーター』はなにもかもが早すぎて遠すぎた。ジェットコースターで喩えるならこの映画は始まってから終わるまでずっと坂を下ってる。俺はジェットコースターで一番怖くてわくわくするところというのはコースターに乗って最初の坂を上っているあの時間だと思うのだ。

なんの準備もなくいきなり死体にまみれた未知の世界に放り出される冒頭には俺が懲罰水泳で感じたような水中恐怖の本質が余すことなく描かれていたように思う。そこからやがては「ニンゲン」に辿り着く海底地獄巡りを始めたい…という作家的な欲望はなんとなくわかるのだが、やっぱりつまらない海底生活が俺は見たかった…監督のウィリアム・ユーバンクは『地球、最後の男』が日本でもDVDスルーになったが、これは一言で言えばスタンリー・キューブリックmeetsテレンス・マリックなSFポエムで、映像美は冴えているがジャンル映画的なものを期待すると死ぬ映画だった。

俺は逆に『地球、最後の男』はアート映画として楽しめたのだった。結局、映画に何を期待するかという話で、『アンダーウォーター』はウィリアム・ユーバンクの監督作だとは知らないで観たし、ニンゲンの出てくるUMAホラーの先入観があったから、もっとB級っぽくてベタなものを期待したんである。まぁニンゲンもしっかり出てきますが…人間って難しいね、という話。

【ママー!これ買ってー!】


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『地球、最後の男』だって見せ方が違うだけで主題的には『アンダーウォーター』と同じなのにレビューは散々、一方『アンダーウォーター』は俺観測では絶賛に近いので、やっぱりね、人間、難しい。

↓配信/ソフト


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※ほか各配信サイトで配信あり

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