《推定睡眠時間:10分》
これは俺的には重大なネタバレなのだがそのシーンは映画が始まって20分ぐらい経ったところで出てくるので一般的にはネタバレに該当せずと判断し書いてしまうが、サンダーボルツ、例によって前情報をほぼ入れずに観に行っているので詳しくは知らないがどうやらDCのヴィランチームの活躍を描く『スーサイド・スクワッド』のマーベル映画版ということで、実際にはヴィランではなくベンチ入りしてた二軍チームなのだが、ともかくそういうものなのかぁと劇場入り口に貼ってあるポスターを見ながら思ったりしていた。
しかし『スーサイド・スクワッド』の方は結構キャラが立っていたがこっちの方はどうもキャラが薄い。お姉さんとオッサンとお姉さんとオッサン。『スーサイド・スクワッド』はすごいヤンキーみたいな人とか見た目的に人間じゃない人も混ざっていたわけだからちょっとこれは期待が削がれる感じである。だがその個性の薄い面々になんというか『カブキマン』みたいな仮面を着けた戦士がいた。どうにもヒーロー感の薄いサンダーボルツだがこのカブキマン的な人だけはヒーローってかアメコミっぽい。アメコミ映画なんか好きではないのだが、どうせやるからには派手にバカバカしくやってほしいものだと常々思っているので、こいつが何者なのかはまったくわからないがこいつにはちょっとだけ期待である。
カブキマン、戦死。衝撃の展開であった。MCUなんか真面目に観てないので知らんがどうやら主人公はフローレンス・ピュー演じる肉感派バトルお姉さん、CIAのヨゴレ仕事などを引き受けて飯を食ってる人らしいのだが、この人がCIA長官的な人のシャドウワーク隠蔽のためにCIA極秘実験施設に訪れるとポスターに写ってる大体の人がいた。キャプテン・アメリカ3号、サイボーグ忍者(by『メタルギア・ソリッド』)、そしてカブキマンである。事情がよくわからないまま戦闘に入る四人。それぞれ異なる特殊能力を持った二軍ヒーローたちの乱戦バトルはごくごく小規模ながらも『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』の空港大乱戦をほんのちょっとだけ彷彿とさせて久々にアメコミ映画で胸が踊った。しかしこの戦いの中でカブキマンは死んでしまうのである。繰り返しになるが映画が始まって20分ぐらいの序盤でのことである。
その後いろいろあってCIAお礼参りのために同じ舟に乗ることにしたこの人ら(あと3人加わる)がサンダーボルツなのだが、いったいどんな特殊能力を持っていたのかもわからないまま戦死したカブキマンの中途参入を俺は待った。待ち続けた。ははぁん、なるほどね。いくらなんでもポスターに堂々と載っている人が開始20分でさしたる見せ場もなく戦死するなどありえない、きっとカブキマンの特殊能力は蘇生であろう。戦闘能力は低いが死んでも死んでも蘇る。これはなかなか手強いヒーローであろう。だから待った。待ち続けた。待ってる間にエンドロールに入った。ポストクレジットに入った。ポストクレジットが終わった。…カブキマンは来なかった。
大どんでん返しである。そ、そんなことがあるのかい!? てかなんかハッピーエンド気味に最後みんな仲良くやってたけどそれじゃあお前らが開始20分で殺したカブキマンの立場は! 誰だったんだあいつは! もうそればかり気になってぶっちゃけ他のことはだいたいどうでもよかった。まぁ映画的にも面白さのピークは序盤のCIAひみつ研究所で、その後は大きな見せ場もなかったし、今回はサンダーボルツ結成物語なので各キャラの内面にスポットが当てられ、ヴィランらしいヴィランもいないから盛り上がらない。ラスボスはサンダーボルツの一人の「心の闇」である。この「心の闇」に他のメンバーがダイブして「そんな風に自分を憎んでも解決しないぞ。自傷はやめて一緒に歩こう、俺たちがいるじゃあないか!」とかそんな感じになるのでネットを見ると感動したという人も多いようだが、これとマジでまったく同じことをやった『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦』はツイッターで弱者男性たちにクッソミソに炎上させられていたので、インターネットは心から信用ならないなと思う。
いやまぁツイッターdisはいいとして、とにかくねそういうわけだからあんまり面白くなかった。二軍チームであるサンダーボルツのポンコツ軽妙なやりとりはたしかに楽しいけど、お話のメインであるところの「心の闇」に関しては、そのキャラクターがなにせたぶん今回初登場(それともドラマとかに出てきてたの?)の知らない人なので、いろんな新ヒーローを紹介した上でその中の一人の「心の闇」に迫るとなると、どうしても掘り下げが浅くなってドラマがグッと迫ってこない。同じようなスーパーヒーローの「心の闇」映画としてジョシュ・トランクの『クロニクル』という傑作があるが、あれは主要登場人物が三人と絞られていたし、主人公がその「心の闇」を宿した人だったから、ドラマとしてちゃんと見応えがあった。一方こちら『サンダーボルツ』はそうした取捨選択がうまく出来ていなかった印象なのだ。
いろんな要素を取り入れて各方面にアピールしようとしてるこういう中途半端な作りの映画だったら俺としては『マダム・ウェブ』みたいな大味アクションに割り切ったアメコミ映画の方が全然おもしろいと思う。せめて「心の闇」と戦うときにサンダーボルツのメンバーがそれぞれの特殊能力を活用してくれればまだよかったのになぁ。しかし、そういうのは今まだマーベル映画を追っている人にはあまり関心のないところなのかもしれない。カブキマンの予想外の早期退場も含めて、なんだか現在のマーベル映画の迷走っぷりを象徴するような作品、と、俺には見えた。
※あとこれかなり前なので忘れかけてましたが『ブラック・ウィドウ』から繋がる物語です。
これねえ…なんとも残念な出来だったねえ…カブキマンことタスクマスターはなんだったんだよというのは多分タスクマスターを知ってる人のほうが強く感じただろうし人を黒い影にしてぺしゃっとしちゃうセントリーの登場は唐突すぎるしセントリー内のトラウマ回廊はやけに物理法則が働いてたしあの闇に取り込まれた人は全員トラウマに襲われたのかよとなるしニューアベンジャーズを紹介しますのくだりはコントかよ!となったしエンドロール後のファンタスティック・フォーも特段の驚きはなかったし会話のテンポは悪いし場面転換は不自然だし…
ただ戦闘シーンは予想に反して悪くなかった…そこが救いかなあ…
モブかと思ったらあの人名前あるキャラだったんすねぇ。それはまたずいぶんな扱いだ…。
てかニューアベンジャーズ的なもの、そういえば『マーベルズ』でやってたような気がしたんですけど、あれは無かったことになっちゃったんですかねぇ。