インド映画から逃げられない!映画『政党大会 陰謀のタイムループ』感想文

《推定睡眠時間:15分》

インド映画の新作を映画館で観るのはけっこう久しぶりである。最後に観たのが2022年の『RRR』だからもう3年も前だ。それから日本ではインド映画ブームが爆発、インドと一口にいってもタミルとかテルグとかマーヤーラムとか言語・地域ごとにいろいろあるらしいが、よくわかんないからまぁインド映画ということでいいだろう。実に様々なインド映画が新型コロナ禍のようやく落ち着き始めた映画館を彩ってインド映画のスターが来日したりもしていたが、そういうの全然観てない。インド映画は3時間が標準タイムなのでそれは俺の感覚からすれば長すぎ、あとなんかヒーロー活劇っぽいのが多いのも、ヒーローものにあんまり惹かれない俺にはまぁスルーでいいかと思わせるところだったのだ。

というわけであれから3年。3年というのは短いようで小学生がほぼ高校生になる歳月、日進月歩の映画界ならさぞや変化も多いことだろう。事実、俺がこの映画を観ようと思ったのはポスターに映ってる主人公っぽい人がいかにもインド映画スター然とした肩幅の広いヒゲのオッサンではなく、なんか頼りない感じの風貌の人だったからであった。加えて上映時間146分と3時間未満(それでも長いが)。どうやら内容は政党大会でのテロに巻き込まれた主人公が同じ日をループしてテロを食い止めようとするSFのようで、なんとなくこういうテイストのインド映画はあまり観たことがなかったから、それならばと思わったわけである。

3年ぶりのインド映画。はたして現在のインド映画はどんな進化を遂げているというのか…と思ったが進化してないってか退化してるだろこれ! 懐かしい! ちょっと懐かしいよ! 無駄でクドいスローモーション、サングラスをかけることでカッコよさをアピールしようとする演出の超多用、すごく雑なCGを惜しげもなく使うスペクタクルシーン、村のバカ的な天然ボケの面白枠の人の存在、同じような見せ場を何度も繰り返すので全然先に進まない展開…これはむしろ『RRR』とかより十年くらい前のニコ動とかで切り抜き画像がネタにされてた時代のインド映画のノリだろう…!

調べれば2021年の作ということで日本での公開が遅かっただけで最新のインド映画ではなかったわけだが、2021年のインド映画だとしてもこのノリは古くないだろうか。そこらへんテルグとかタミルとかの違いもあるのかな(これはタミル映画らしい)。あるいは単に安い映画だったのかもしれない。安いといってもインド映画だから織田裕二主演作の倍ぐらいの予算はかかっているような気はするが、それでもデジタル撮影による映像の質感は深みがなく、カーチェイスもダンスも規模は小さい。時代の最先端を狙ったものではなく、それまでの娯楽映画のセオリーに則って低予算で作られたVシネ的な映画と思えば、この古臭さもなんとなく納得である。

でも目新しく感じたところもあって例のインド映画スター然としていない主人公、なぜインド映画然としていないかというとこの人はドバイで商売をしているムスリムの設定、だから口ひげもないし人種もインド映画マジョリティとはちょっと違うんじゃないだろうか。インドといえばヒンドゥー教のイメージだったが国土が広いから国内にイスラム圏もあるんだろうなたぶん。この主人公が出席する結婚式はイスラム・スタイルで、台詞でもアッラー連発、物語もムスリムとヒンドゥー教徒の緊張関係が背景となっているのであった。まぁあくまでも味付け程度でそんな深い意味は全然なかったけれども、こういうのは面白い。

それを除けば新鮮さはないが、なにせインド映画だから見せ場を作るためにループ回数が異様に多い。しかもヴィランも一緒にループしてる設定なのでただでさえ多いループ回数が二倍。いったい劇中で何回ループしただろうか。体感的には100回ぐらいループしてるんだが。ここまでループするとSFとかサスペンスというよりもコメディに見えてきてしまうので、主人公を殺せと親玉に命令されたヴィランが「いや、そいつを殺すのはちょっと!」とやって(※主人公が死ぬとヴィランも一緒にその日の朝に戻ってしまう)親玉とコント的問答を繰り広げるシーンなんかアンジャッシュみたいで抱腹絶倒。どうせループするので軽はずみに主人公の友人たちが死ぬのも大いに笑った。序盤はサスペンス&ミステリーだがループを重ねるごとにどんどん天丼的にコメディ要素が強まっていくのが、一つ一つのネタはベタなんだけれどもベタとベタを掛け算することでズレが生まれてくって感じで面白かったな。

体感100回ループして毎日インド映画の世界が繰り広げられるわけだからインド映画カロリーはたっぷり。結婚式がほぼ全然関係ないとかヴィランに使われれた可哀想なあいつはどうなったんやとかインド映画らしくいろんな要素を投げっぱなしにしたまま勢いで強引にエンドロールまで持ってくのはどうなのかと思わないでもないが、ともあれ退屈する暇のない楽しい映画でしたな。楽しくて疲れたのでもう3年はインド映画観ないでいいか!

Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments