またもや香港爆破危機映画『カウントダウン』(2024) 感想文

《推定睡眠時間:60分》

香港爆裂派監督ハーマン・ヤウの過剰演出が大爆発した『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』『バーニング・ダウン 爆発都市』に続いてまたしてもアンディ・ラウが香港大爆破の危機に挑む! いったい何度香港を爆破から救えば気が済むんだ! しかも前二作に引き続きこの『カウントダウン』(2024)もアンディ・ラウが主演のみならず製作も兼任! 愛すべき香港をなんとしてでもこの手で救いたいということなのだろうか? そのために毎回香港を映画の中とはいえ爆破しているので愛なのか狂気なのかわからないがアンディ・ラウは本気である。

本気のほどが窺えるのはやはり香港大パニックの幕開けを告げる爆破シーンだろう。今回の爆破はスクラップ置き場で起きた。そこに雑密輸雑放置された放射性物質が詳しいことはわからないが放水によって大爆破、場所がスクラップ場であったものだからコンテナや廃車などの鉄片が火山弾のように四方八方へと炸裂し想像の三倍はいろいろ壊れる大惨事である(描写されないが500人ぐらい死傷者出てると思う)。すでに見応え十分の爆破であったがしかしこれはほんの序章であった。いまだ多くの水を食らうと大爆発する放射性物質がスクラップ場に残る中、逆ご都合主義で香港に大型熱帯低気圧が接近、数時間後に土砂降りの雨が降り注げば放射性物質大爆破により香港は壊滅してしまうというのだ! こんな危機に立ち向かえるのはアンディ・ラウしかいないだろう。アンディ・ラウしかいないのである!

とても楽しそうな映画っぽいが今回は監督が爆裂派のハーマン・ヤウではなく普段は撮影監督として活躍しているアンソニー・プンという人だったためかなんか案外おとなしめっていうか真面目であった。あと展開がテレビドラマくさい。スクラップ場での火災鎮火作業と降雨による爆破防止という難題をダブルで抱えた消防士たちの物語は良くも悪くもウィットでウェルメイド、一人一人の個性や葛藤や人間関係を丁寧に描いていくのはいいが、そのために『バーニング・ダウン 爆発都市』にあったような爆発的ダイナミズムが失われてしまった。今回のアンディ・ラウは現場ではなく作戦本部的なところで対策を練るその筋の専門家という役柄ゆえ活躍の仕方がかなり地味というのもあって、香港壊滅規模の惨事を題材にしているわりには序盤の爆破以降あんまり盛り上がってくれない。

このテイストは香港映画よりも中国本土の映画に近いかもしれない。中国パニック映画の『クラウディ・マウンテン』もなんかこんな感じで、救助隊員のドラマが中心というあたり日本のそれ系ドラマとかに通じ中国と日本の今の映像文化は遠いようで結構近いのかもしれないなと感慨を覚えたものだったが、それはそれとして『クラウディ・マウンテン』もあんまり良くない意味で見世物性に乏しかったのだ。アンソニー・プンもフィルモグラフィーを見ると近年は本土の大作映画でよく仕事をしているらしいので、その感覚がこの映画にも反映されたのだろうか。

そういえばこの映画、冒頭に「この物語はフィクションです」とテロップが出るのにラストは実録映画風で、「この悲劇は他人事ではない」というまるでこんな大事故が実際に起きたかのような警告テロップまで出ていたので混乱させられたのだが、それも本土映画的な演出というか、中国政府向けの言い訳だったかもしれない。物語は今から十数年前の香港の輸入規制緩和から始まりそれによって別の爆破事故が起きたことで規制緩和を推進した責任者のアンディ・ラウは改心して爆破防止のプロとなったのだが、これは規制緩和と自由貿易を推進するとこんな大惨事が起こるぞという中国政府の見解に従ったものと見える。

中国返還後も香港は文化的にも経済的にも欧米と中国本土を繋ぐハブの役割を果たしているようで、中国本土と直接取引ができない場合に欧米企業は香港のダミー企業とかを通すとか通さないとか。市場経済を導入しているので現在の中国は実質的には資本主義国とはいえ、政治指針としては社会主義の立場を取っているので、政府の統制を弱めて資本の自由に任せるとこんな怖いことになるんだぞ(だから中国共産党政府を信じなさい)というのが政府の言いたいことなわけで、香港はその「それみたことか!」的な格好の標的なのじゃないだろうか。だから作り手は映画の中で言い訳をしないといけない。

ちょっと淡泊で大味なところもあるが、そんな裏事情を勝手に想像してみると、実力以上に面白く感じられる映画かもしれない。

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