昭和お化け屋敷映画『禁じられた遊び』(2023)感想文

《推定睡眠時間:10分》

『禁じられた遊び』とはまた映画史上の名作を襲名する大胆なタイトルだなおい中田秀夫おいといったところでこれは原作そのままのタイトルなので大胆なのは原作であって中田秀夫はただ任された仕事をこなしているだけだが中田秀夫といえば! 最近は『事故物件』とか『“それ”がいる森』とかふざけたホラーばっか撮るようになってしまった元『リング』監督にして元『女優霊』監督そして『仄暗い水の底から』監督なのでこれこれの輝かしい経歴があるから余計にふざけたホラーを撮るんじゃないと映画ファンからの叩かれが発生しがちな監督と化してしまったが(俺は『事故物件』も『“それ”がいる森』も面白かったですが…)今回ばかりは文句は言わせないいや! 文句はあるかもしれないが! 言わせない! 力ずくで言わせない! 今回はそんな映画を撮りましたね。

とある超平和そうで金にも困ってなさそうな家庭でお父さんから息子に他愛ない嘘伝授。「トカゲのしっぽはね、土に埋めて呪文を唱えるとそこから新しい体が生えてくるんだよ」喜んだ子供はさっそく拾ったトカゲのしっぽを埋めてエロイムエッサイム~エロイムエッサイム~と呪文をかけて育ててみる。ははは、子供は単純で素直だなと見守っているとまさかのトカゲ土から復活。そんなバカな、見間違いに違いないうんそういうことにしよう…とか適当に受け流したところで交通事故によりお母さんが死んでしまったから大変である。ねぇパパ、お母さんの指を埋めてエロイムエッサイムしたらお母さんの新作生えてくるかな…? 狂気の発想だが突然の母死にきっとメンタルがやられているんだろうと察したお父さんは心のどこかでは自分もそう願っていることもあって指埋めエッサイムを許可するのであった。一方その頃、お母さんの葬儀に参加したお父さんの元同僚の動画制作者(橋本環奈)の周囲では原因不明の怪奇現象が多発しており…。

俺さいきんビデオ見れる環境作った(※ビデオデッキ買ってきただけ)からレンタルビデオよく借りてきて観てるんですけど、それで中田秀夫が1990年代前半に『リング』の高橋洋脚本で撮ったテレビかなんかのホラー短編集『呪死霊』ってビデオ観て、あ、中田秀夫って昔からこうだったんだってちょっとした発見があった。中田秀夫ってやっぱJホラーの人ってイメージじゃないですか。それで『女優霊』とかは背後にボヤッとお化け映り込んでるのが本当に怖かったんですけど、本人の資質というか好みはどうもあれじゃなくて、むしろ中田秀夫ってお化けはしっかりと画面の前の方に出す、お化け屋敷的な見世物演出をやる人だった。『女優霊』も最後には幽霊がドーンと出てきて風がドバーっと吹いて派手なことになりますし、『リング』の貞子テレビ抜けは当時死ぬほど怖くて二度と見たくない映像だと思ったほどだけれども、考えてみたらあれだってお化け屋敷的な子供騙しの仕掛け。

だから最近の中田秀夫がお化け屋敷みたいな子供騙しの映画を撮るようになったのってもちろん子供も楽しんで観られる(=その層を客として引き込める)本格的には怖くないネタ的なホラーをというお金を出す側からの発注もあるのかもしれないですけど、それは中田秀夫が昔から志向するものでもあったから、中田秀夫は監督として終わったなんて言う映画好きもいますけど、終わってないし変わってない。それは『禁じられた遊び』で確信に近いものになったし、同時にこれはそういう中田秀夫の子供騙し見世物精神とJホラー的な厭さをなかなかうまいこと両立させた作品になっていたので、むしろここ十数年の中田秀夫のホラーではベストではないかぐらい思って…要はだからね『禁じられた遊び』、面白かったです!

まぁでもこれは原作に負うところも結構大きいのかもしれない。今回の中田秀夫はミステリー調のストーリーが面白かった。エロイム一家と橋本環奈のストーリーを並走させつつ二転三転しながら一つに合流する展開の妙、その中でバシバシと巻き起こるJホラー的心霊表現とお化け屋敷的びっくり表現の数々、これが見事に合わさって退屈する場面がほとんどない。いささかオモシロに傾き過ぎているせいで怖さはそれほど感じないというのは痛し痒しだが、まぁ中田秀夫の見世物的サービス精神の表れということでひとつどうか、です。糸で動かしてるみたいなチープなバラバラ死体、目玉の動くゴロゴロ生首、日本刀で霊と対峙するイケメン、…実に楽しいじゃあないですか!

霊能力者がヘアブラシの毛をリーディングして辿り着くのがお馴染みあのヘアスタイル(わからなければ検索しような!)の諏訪太郎でそのシャイニング頭部を植木鉢でぶん殴るとか絶対に客を笑わせようとして撮ってるし、そういうサービス演出やサービスシーンがこの映画には実にいっぱいある。死にかけたお子様が落雷で電撃蘇生なんてそんなバナナだがホラー映画の古典的名作『フランケンシュタイン』のパロディないしオマージュを意図したものと思えばこれも観客の目を楽しませるためのサービスといえるし、一応ネタバレ回避でタイトルは伏せておくが怪異との対決の信じられない結末はこちらもホラー映画の古典的名作のオマージュかもしれない。土から新かーちゃんが生えてくる映画だから『富江』っぽいところもあるし、エロイムエッサイムの由来はオカルト文献とかではなくやはり『エコエコアザラク』でしょ。他作ネタばかりではなく転落死した少女の厭な感じの死体姿勢および背後にボヤッと映り込む白ワンピの霊は『女優霊』のセルフオマージュだ。やがて明らかになる怪異の正体には映画好きな人なら『リング』彷彿不可避なんじゃないだろうか。

元ネタがわからなくても見世物的にネタいっぱいで目に楽しい、元ネタを探そうと思えばそれも楽しい。ホラーなのに楽しい楽しいとそんな感想ばかり出てくるのはどうなんだと言われれば確かにそれもそうかもしれないが、まぁ、でも、いいじゃない。『事故物件』みたいにコミカルになりすぎてるわけでもないしね。そういう意味ではネタはたくさん詰まっているがネタ臭がいささか強すぎた『事故物件』とか『スマホを落しただけなのに』を経て、ネタをいくつも忍ばせつつも表面的には真面目なホラーの体裁を崩さないっていうバランスにようやく中田秀夫が辿り着いたのが『禁じられた遊び』かもしれないわけで、そう考えたらこれはやはりよくできた映画だな、巧い映画だなと言いたくなる。

よかったですよ『禁じられた遊び』。中川信夫の怪談映画みたいな昭和の香りの見世物ホラーだ。このタイトルでカスだったらどうしようと心配してたからちゃんと面白くてホッとしたよ!

※アイドル演技しかさせてもらえなかった橋本環奈にちゃんと役者の芝居をつけたという点でも偉い『禁じられた遊び』だったがいちばんイイ芝居をしてたのはちょい役のシスターMEGUMI。

【ママー!これ買ってー!】


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まぁ中田秀夫の『禁じられた遊び』とは子供が土になんか埋めるぐらいしか通項ないですけどちゃんとこちらの名作の方も教養として観ておきたいものですということで。

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