ドラッグやめよう映画『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』感想文

《推定睡眠時間:20分》

仕事を終えさてレイトショーで観る映画の予約をするかとこの映画の予約画面を立ち上げたところあれまびっくり、予約済みがたったの2席! ツイッターではそれなりに話題になっていたような気もするなにやらA24感のある映画だが(アメリカ配給はA24らしい)やはりネットの評判なんて信頼ならんな…などと思いながら映画館に入るとまたびっくり予約画面ではガラガラだったはずの客席がほぼ満席。すわ幽霊かっ! そんなわけはない。予約しないフラリ客がまさかの大量入場という珍事でもない。単に俺が間違って別の日を予約してしまったのだった。スムーズかつ丁寧に急遽別の席を取ってくれた新宿ピカデリーのスタッフさんありがとうございます。

さて肝心の映画であるがいやー最近の英語圏ホラーこういうの多いですねーまたしても傷ついた主人公が云々ネタ、『ヘレディタリー/継承』によく似た雰囲気を持つシリアス青春ホラーであった。主人公の女子高生は学校の悪友から最新式の降霊術を教えられる。90秒憑依チャレンジ的な感じでその動画がネットでバズっているこの降霊術は石膏だかなんだかの手と握手をしながら「トーク・トゥ・ミー」と言うとオバケが見えて更に「レット・ユー・イン」(吸血鬼が家に入れてもらうために言う台詞のもじりであろう)と続けるとオバケが憑依、なんかエキセントリックな言動をするため周りの人々は見ていて楽しく本人は今までに感じたことのないような感覚を得られてキモチイイのだという。

要するにドラッグ体験を憑依に置き換えている映画と身も蓋もなく言えばそうなる。家庭の問題からやや自暴自棄気味になっている主人公はオバケ憑依を過剰摂取してしまい無意識の奇怪行動を取ると同時にいつもオバケにつきまとわれている感じがしてくる、高校生のお兄さんお姉さん方が楽しそうにオバケ憑依をしているので自分もしてみたくなった中学生が大人であれば90秒であるところを子供なので60秒だけやらせてもらうと(風邪薬じゃないんだから…)案の定オバケが暴走してあくまでも高校生スケールでだが大惨事、主人公とその仲間たちの日常は少しずつ壊れていくのであった。やはり慣れないドラッグの乱用はおそろしいものだ。慣れてるものならいいとかそういう話でもないが。

ジワジワとメンタルを蝕む展開およびJホラー的な狂気を孕んだ静かな恐怖描写はカルト的な人気のあるシングルマザーは大変映画『ババドック 暗闇の魔物』を思わせたりもし、製作国を見るとこちら『トーク・トゥ・ミー』も『ババドック』と同じくオーストラリア。やはり影響はあるのだろうか。暗くてドライでYouTuber出身監督の初長編監督作のくせに面白いは面白いのだが、ただ『ババドック』ほど狂気に走るわけではないし、スーパーナチュラルな描写も多少はあるとはいえ、憑依儀式を新手のドラッグとかにしてもこの展開なら成立してしまう程度には恐怖描写も地味で地に足のついたもの。

逆に言えばその地味さが作品の魅力でもあり、不安定なティーンの繊細心理をよく捉えた青春映画とも言えるのだが、個人的にそういうのは趣味ではない。やはりホラー映画に出てくるティーンは軽はずみに死ぬべきだという外道の信条を持つ俺としてはどうにも煮え切らない映画と映り、90分ぐらいしか尺がないのになかなか死者もオバケも出ないから途中で結構どうでもよくなってきてしまったのであった。そのような子供のお手本には決してなれないズタボロ感性を持つ人以外の人、ということは世の中の大抵の人ということになるが、そういう人ならきっと楽しめる青春ホラーだろう。それにしたってちょっと淡泊すぎないかと思いますけどね。

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