《推定睡眠時間:25分》
日本の配給会社が付けた惹句は「本国台湾で嘔吐者続出!」とかいうものだったのでそんなことを言われれば全人類が観たくなるのは当たり前である。人間は狂っているので観ると吐く映画とか死ぬ映画ほど観たくなる。これは既に放浪の映画問題児・渡辺文樹が数十年も前に証明済みのことなのだ。ということで都内上映館は一館のみ、しかも席数50程度の小箱にて公開されるや連日満席、この結果を受けてすぐさま劇場側(アジアンホラーに定評のあるシネマート新宿)では席数300程の大シアターに変更、それでも満席とまでは行かずとも客入りは好調と見えたので、おそらくこれから上映館が拡大されることだろう。嘔吐でぼろ儲けとはなんだかとても心温まる話である。
ましかし内容の方は嘔吐者続出と煽った映画で本当に嘔吐者が出たためしがないことから当然察せられるように至ってよくあるC級オカルトホラー、面白いか面白くないかで言えばジャンプスケア中心のホラー描写がいちいち安っぽいので怖くもないし面白くもない寄りである。なんか山奥に曰く付きのホテルがあって? まぁそこに行ったら呪われてみんなどんどん死んでくんだよなははっは! 一体同じ話をこれまで何万回見せられたのか!
とはいえ、ミシュランが密かに目を付けていると思われるTOKYOの高級料理店である大戸屋の定食ばかり食べているとたまには無性に松屋の大根おろし牛丼とかいうミシュランが壁に叩きつけるチープなシロモノが食べたくなったりするように、あくまでもチープで「いつものあれ」感のある記憶に全然残らないベタなC級ホラーであればこそ映画館の暗闇と大スクリーンで観たくなったりもする。俺はそんな映画を観ていると実に心が落ち着く。なんたってこういう映画は観るのが楽。展開なんか全部わかるから寝てもトイレ行っても途中でタバコを吸いに行ってもまったく問題がない(※吸いませんが)気楽さ、言い換えれば抱擁力があるし、それでいて現実世界ではまず起こらない怪事がドシドシ無責任に起こってくれるので、ストレス過多な現実生活に蔓延るホンモノの恐怖を一時でも忘れさせてくれるのだ。その意味で『ガラ』のような出来の悪いC級ホラーは癒やしというほかなかろう。
C級C級と書いてはいるが決して一本調子ではないのは『ガラ』の立派なところ。たぶん同じ台湾ホラーのヒット作である『呪詛』からダイレクトな影響を受けて土着信仰と秘神をテーマにしつつ、部分的にPOVを取り入れ肝試し配信を行うところは韓国ホラーの『0.0MHz』(この映画は後に韓国ホラーのヒット作『コンジアム』の原案となった)のパクリを思わせ、呪い効果により食べようとしたラーメンがミルワームぐしゃぐしゃに見えてしまう最悪シーンなどは、台湾オカルトホラーには蟲がカジュアルに出がちとしても、こちらも台湾ホラーのヒット作『紅い服の少女』二部作のパクリと思われ、要するに最近台湾とかアジア圏でヒットしたいろんなオカルト映画のパクリっぽいものがたくさん入っているので、志はたいへん低いと言わざるを得ないが退屈は決してしない。
しかし最大の見所は死体描写であろう。なんか粘膜みたいなのに歯がたくさん生えた日本版ポスターはグロいグロいとSNSで話題となったが、これは呪い死にした被害者の一部を表現したものであった。なんとかというこの映画に出てくる土着の神様に呪われた人は口が両側にギャーと引き裂かれ、両眼には無数の歯が埋め込まれて死ぬのである。なんだかよくわからないがグロくてインパクト大! これに関してはオリジナルの表現だと思われるので、後半の呪い死にフィーバーの場面なんかそれを見せたいだけだろと思うが、こっちもそれを観たいのでありがたい限りである。
ストーリーはやや混乱していてなんかよくわからんところもあるしロボット執事とか怪しすぎる祈祷師のおじさん(絶対そいつ着いてっちゃダメだろ!)とかには笑っちゃったりもするのだが、まぁそれも含めてというか、ツッコミを入れながら観て例の死体が出てきたらうへ~グロい! と肝を冷やす、笑いあり嫌悪あり呆れありの最後は絶望ホラーエンタメとして、C級はC級だが、楽しくて良いホラー映画だったんじゃないでしょーか。「カラカラ…」という怪異接近時の効果音も良。