『絶叫!コンポヨンファ フェスティバル 2022』全5作観たぞ感想文!

コンポヨンファとは恐怖映画の意だそうでその名の通りこれは現代韓国の主に国内向けと思われる比較的低予算のホラー映画を5本厳選かどうかは知らないがとりあえず厳選ということにして池袋の二つの映画館で二週間上映してしまおうというナイスな企画。全然話題になってなかったし俺が観たすべての回で客が20人を超えることはなかったと思うがこういうホラー映画がたくさん観られるありがたい企画は大事にしていきたいですねってことで全部観てきたので感想書いた。

5本観て思ったのはこれがこの特集の傾向なのか現代韓国ホラーの傾向なのかはなんとも言えないところもあるが、純粋なホラーが少ない。スーパーナチュラルなものであったり想像を絶する存在が日常世界に侵入してくることから生まれる恐怖ではなく人間の負の感情から生まれる恐怖を描いた映画が多く、人間由来である以上その恐怖は理性的に把握可能なため終盤で恐怖の種明かしをするミステリーの構造を取っていたりする。俺ごときが言うまでもないことだが現代韓国は政治的にはリベラルが強い国。世界の全ては理性で把握でき人間の力で改良できるというのがリベラルの基本的な世界観なので、もしかするとこうしたホラー傾向の背景には現代韓国の政治状況があるのかもしれない。

とまぁそんなことも考えたりして面白かったコンポヨンファ2022。この客入りだと厳しいかもしれないが2023もぜひぜひ実施してください全部観るから全部。

『0.0MHz』

《推定睡眠時間:20分》

オーソドックスな幽霊もの。大学の心霊研究会みたいなのが幽霊が出ると噂の廃屋でふざけて降霊実験を行ったところホンモノが来てしまい大変なことになる。新味はないが目撃者による幽霊画や降霊のための人形といった小道具、前半の舞台となる廃村の雰囲気などが不気味でムードは良い。タイトルになっている幽霊の周波数0.0MHzがあまり生かされていなかったり展開がやや平板に感じられるところはあったが今回上映された5作品の中では一番正統派のホラーといえたので楽しめた。ちなみにこの映画POVホラー『コンジアム』の原案だそうですが「どのへんが?」ってなる。

『ホワイトデー:壊れた結界』

《推定睡眠時間:20分》

ミッションスクールがあるなら仏教スクールがあってもおかしくはないのだが聞いたことがなかったのでそんなんあるんやって思った映画。仏教高校に転校してきた主人公のややイケ男子はよくわからないが霊能力者の血筋が何か。それと関係があるのかどうかはよくわからないが転校早々学園を怪異が襲いひょんなことから夜の校舎に侵入した主人公は戦うことになるのだった。

主演は人気アイドルだかの人らしいがそのわりにはチープなCGとよくわからない設定と説明なしの急展開に次ぐ急展開でなんじゃこりゃ度が高い謎作。これ単体だとあまりにも謎が多いので原作漫画なりテレビシリーズなりがあってその映画版という位置付けっぽい気がする。ホラー描写はショボめなのでホラーというよりもオカルト・ファンタジーというべきだが、コンスタントに容赦なく人が死んだり急にゾンビの群れが出てきたりして飽きることはない。

『ヨガ学院:死のクンダリニー』

《推定睡眠時間:15分》

なんだかすごいタイトルだが内容の方は完全にタイトル負けしていて第一印象はなにしろ安い。ヨガ学院でなにかを体得してしまった女が憑かれたように老夫婦を惨殺して自殺を図るファーストシーンでこの殺人ヨガ女は「クン…ダリ…ニー…」ガクッ! という感じで意識を失うがいや今時そんなベタな。基本的に全編こんな調子だしカット割りもこなれていなく不自然。脚本5ページ分くらいあったかもしれない刑事の長台詞で恐怖の真相を種明かしするラストは取って付けたような強引さでちょっと呆れてしまう。

とはいえ赤い服の幽霊の演出はJホラー、わけても黒沢清の影響を強く感じさせるなかなか不気味なものになっているし、大蛇を巻きながら全裸でヨガをする(その後アクロバティックなセックスに移行)ヨガ女はソフトコア・ポルノ並のエロさ。女優の人たちもみんな綺麗で、全体的に古くさいがB級ホラー的サービス精神に富んだ映画といえる。

『コ死:デスロワイアル』

《推定睡眠時間:0分》

受験戦争真っ只中の進学校。その夜の校舎に閉じ込められた生徒たちと職員は何者かの校内放送を聞く。お前たちの中に人殺しがいる、そいつを見つけ出すまで一人ずつ殺す…。フーダニット系の学園スラッシャー映画だが登場人物の数が多すぎて誰が誰だかわからない上に伏線もなにもあったものではないのでフーダニットとしては破綻している。だいたい校舎に閉じ込められたってゴツイ鍵の掛けられた入り口の扉を見て生徒も職員もパニックになっているが普通に窓とか割って外に逃げればいいのでシチュエーションに無理があると思う。

が、陰影の濃い映像は雰囲気ありありで安さを感じさせないし、筋運びはだいぶ強引だが切ない幕引きも悪くない、何より校舎各所に仕掛けられたデストラップの面白さと出血量の多さで魅せる。幽霊ホラー→スラッシャー→青春映画とジャンルがコロコロ変わるのもそのおかげで物語の整合性がガタガタにはなっているが面白かった。

『ヒプノシス/催眠』

《推定睡眠時間:40分》

平凡な大学生の主人公男子はゼミの課題かなんかで人間の罪の意識をテーマにしたドキュメンタリーを撮っている。そんな彼が出会ったのは心理学部の教授に催眠療法を受けているというなんというかこうとてもイイ顔をした一人の学生。興味を引かれた主人公は自らも催眠療法を受けてみることにするのだが、彼が記憶への潜行で目にしたのは思いもよらない異常な光景だった…。

混乱したストーリー、意味不明なオブジェクト、シュルレアリスティックな恐怖描写が織りなす悪夢的な世界は鮮烈。どよーんと沈む結末も作品の芯の太さを感じさせる。今回の5本の中では一番寝ているが一番完成度の高かった映画で、これはシネマートあたりでの一般公開も全然視野に入るレベルなので特集上映のみの公開がもったいない、俺ももう一回観たいので今からでも一般公開を検討してもらえないだろうか…。ちなみにこれも某Jホラーシリーズのオマージュと思われる部分があるが書くとネタバレになってしまうので書かないでおく。

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