《推定ながら見時間:40分》
あの『人肉村』から数年というような惹句が配信ページに踊っていたがいや誰が『人肉村』の続編を期待しているんだよと思うし前作も邦題では村と言いつつ実際は小屋が舞台だったとはいえ『人肉村』から『人肉小屋』じゃスケールダウンしてるじゃねぇかとかも思うのだがあの何の捻りもない『悪魔のいけにえ』フォロワー映画『人肉村』の続編である。
ということに一応なっているらしいのだが今回の小屋が森の中にあるのに対し前作の小屋はもっと開けた場所にあったと思うし人喰い一家も見覚えが無い顔なので前作と違う人が演じてるんじゃないだろうか。違う人が演じてるぽいがキャラは同じというややこしさ。こんなもん前作と繋がっていようがいまいがどうでもいいので何も問題がないのだが、それにしてもよほどのオリジナルならともかくあからさまに『悪魔のいけにえ』のパクリでしかない上にパクリにしても今更すぎた前作をどうして今更わざわざ続編にしようと思ったのだろうか。謎多き映画といえよう。
さて今回人喰い家族に食われるのは誘拐犯一味。なにやら表情に緊張をたぎらせ些細なことで怒りを爆発させるピリピリオッサンが三人の男女を乗せて田舎道に車を走らせているので家族かなぁ家族にしては微妙な構成だなぁと思って観ていると実はこの四人は共謀してお金持ちの娘を誘拐して今は隠れ家に向かう最中らしいと会話内容からわかってくる。この車がでけぇシカに激突。誘拐犯たちは仕方がなく車を捨てて森の中に入って行くが、そこには人喰い一家が待ち受けていたのであった。
一見して思ったのはあれっなんかちゃんとしてる! ということで、前作の『人肉村』は低予算なりに頑張った感はあるとはいえいかにも貧相ないつものアレ感だったから、セリフにしてもカメラにしても演技にしてもかなり丁寧に作られていて普通に映画館でかかっていても違和感のないこちらは映画としてのレベルが一段上である(前作も劇場公開されましたが)
そりゃたしかにそんなこといいからさっさと殺せよとかさっさと解体して食えよとか思うことしきりではあるがホラーというよりも犯罪映画として序盤はあまりにも真っ当。誘拐犯と人喰い家族が遭遇してからの展開もちょっとした言い回しの妙や演技の応酬が面白く、ゴア描写以外のすべてが映画として終わっているし往々にしてゴア描写のレベルも終わっているこの手の映画の中では飛び抜けて優等生なんじゃあるまいか。さすが、全体的にあまり面白くはないが技術的な平均点の高いカナダ映画である。
だがそれも儚い夢であった。人喰い一家が誘拐犯一味と誘拐され女子を捕らえるまではいい。それから先はなんなんだ。まず誘拐犯が食われない。『人肉小屋』は邦題にしても原題だって『Butchers Book Two: Raghorn』なのだから食うのが筋ってもんでしょうが。そして誘拐され女子が脱走してからの展開がよくわからない。この女子は今風にトランスジェンダー女子という設定なのだが、この人がある時はせっかく銃を奪ったのに「いや、道案内をさせる」と頑なに人喰い家族を撃たず、かと思えばいろいろあった後には躊躇なく撃ち殺し、肝っ玉のあるところを見せながらも「家に帰りたい…」とキャラがブレることこの上ない。
誘拐犯を追ってやってきた警官も何がしたいのか判然とせず逃げてきた誘拐され女子を小屋まで連れてって手錠で繋いだからははぁんこいつも一家の仲間だったのだなと思っていたら出てきた人喰い一家と面識はないようでアッサリ殺されてしまった。は? 人喰い映画にストーリー性とか整合性なんか期待するわけではないが、なまじ序盤から中盤までが想定外にレベルが高かっただけに、この落差にはガクッとくる。それでもちゃんと人を食ってくれれば溜飲も下りるというものだが先にも書いたようにこの家族全然人肉食わねぇんである。じゃあなんなんだよお前ら。何がしたいんだよ。
殺人もなければオッパイもなし。オッパイが見たいわけではないが誘拐犯一味の女が解体前に庭に吊される場面で下着をきっちり身につけているのはどう考えても不自然だろう。人喰い家族はこれからこいつを解体して食おうとしているのだから下着なんか全部剥ぎ取るのが当たり前である。しかしそうはしないしついでにこの人は食われない。そもそも誘拐犯一味は身内争いで勝手に自滅していくので殺人シーン自体がほとんどないこの映画である。トランスジェンダー設定の導入といい昨今のアメリカに漂うホラー映画にモラルやリベラリズムに求める風潮に合わせた感じだが、それならそもそも人喰い一家の映画なんか作ろうとするなよと思う。
最初はあれちゃんとしてるなと思わせておいてなんだかんだ最終的にはやっぱりしょうもない映画だったこの『人肉小屋』だがどこに需要があるのかシリーズは更に続きシリーズ3作目『Butchers Book Three: Bonesaw』も既に欧米やロシア(ロシアもかい)で配信済みらしい。そうか。とくに興味はないのでコメントはないです。
※唯一の見所はチンチン切断だがしょせん作り物なのに日本版ではモザイク処理となっていた。