あんま難民設定は関係ない映画『ツーリストファミリー』感想文

《推定睡眠時間:40分》

具体的には知らないが映画大国インドは結構当局の規制が強いようでタバコを吸うシーンが僅かでもあれば画面の下の方に必ず「タバコはあなたの健康を損ないます」みたいなテロップがそのシーンやショットの間中ずっと入り続けるし考えてみればインド映画で露骨なエロとかグロというのは今までに見た記憶がないから……あいや、これを書きながら思いだしたが前に一本だけインドのエログロホラーを観たことがあったのだが、でもそれは自主映画だったのでそういう描写は劇場公開する映画の場合には規制対象となっているのかもしれない。この映画はスリランカから海を越えてインドに密入国してきた難民一家を描くものだが冒頭には「この映画はいかなる不法移民も肯定するものではありません」と警告テロップが出る。おそらくこれもタバコの警告テロップと同じで「こういう描写をするならこういう警告テロップを入れないと公開できません」みたいなことを言われてるんじゃないだろうか。映画の規制というのは国によっていろいろ違って面白いものだ。

でも映画自体はそんなに面白いものではぶっちゃけなかった。スリランカから逃れてきた難民一家の云々といえば社会派的なものを想像してしまうのが人の情というものだが良くも悪くもあんまりそういう風味はなく、良くもの部分は貧しいけれども頑張る家族に徐々に周りの人々がほだされて~とか貧しくも温かい家族が都会的で冷たい周囲の人々の心をほぐして~とかそういう感じの人情喜劇として気軽に楽しめるというところだが、悪くもの部分はスリランカ難民という設定(余談ながらスリランカ難民ものの映画といえば『ディーパンの闘い』が傑作であった)がほとんど掘り下げられず単に金も地位もない下層家族であることを印象付ける記号としてしか機能していなかったというところで、無駄に重い映画を観たいわけではないのだが、個人的な好みとしてはもう少しスリランカ難民の設定をシナリオで掘り下げてドラマに絡めた方が面白かった。

吉本新喜劇みたいなコテコテのギャグも嫌いではないけどいささかクドい気もするし、あと展開が行き詰まると子供に面白いことをさせて誤魔化す手法に頼りすぎではないのかこれは。スリランカ一家の掘り下げも浅いが周囲のインド人の掘り下げも浅いのでヒューマンドラマとして物足らないし……とか思いはするが、でもまぁそのへん好き好きなんだろうな。悪い人が(ほぼ)出てこなくてコテコテのギャグと王道の展開で最後ホロリ、みたいなストレスフリーのザ・定番が観たい時にはちょうどいい塩梅の映画かもしれない。

それにしても。スリランカ一家が住む集合住宅を密入国の手引きをした親類のオッサンが「ここなら都会で近所付き合いがないから隠れるのにピッタリ」とか言うのだが、それでも入居時に家族みんなで家主一家に会いに行ってお茶を飲みながら談笑してたので、人付き合いがないといってもこれぐらいの付き合いはあるのかーとか思ってしまった。いや、それはこれが映画だからなのかもしれないけど、不動産屋に諸々一任してるから家主が借主の顔も知らないとか日本だったら普通にあるじゃないですか。なんだかんだまだまだ人付き合いが濃いんだなインドは。この映画にちょっと懐かしさを感じるのは、それが今の日本にはすっかりなくなってしまった「ご近所」というものが自然に描かれているからかもしれない。

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