滋味深映画『男はつらいよ お帰り寅さん』感想文

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《推定睡眠時間:0分》

予告編にあった寅さんファッション桑田佳祐が柴又の土手で主題歌を熱唱する場面、あれMVに入るイメージショットかと思っていたのでタイトルバックで普通に使われていて面食らってしまった。しかもフルで。マジか。大丈夫か。曲終わりで桑田佳祐が仁義を切るとその反対側に寅さんが合成されて仁義を被せてくるという前衛演出に早くもやばみしか感じない。満男の部屋にはこれ見よがしに桑田ベスト盤の『I LOVE YOU』が置かれているし。

しかしこれはどこに向けたものかよくわからない山田洋次の観客サービスであった。そこから始まる物語はちっとも前衛ではなかったので一安心、中年やもめの渋い渋い枯れたラブストーリーを繋ぎにしたシリーズ名場面集でしたね。おもしろかったですよ、だってシリーズ名場面集だもん! 『悪魔のサンタクロース2』よりは新撮部分が多いぐらいと言えば伝わるだろうか。三分の一ぐらいは過去作の引用ということですが。

新撮部分はこのようなお話だった。妻と死別し小説家の道を歩み始めた満男(吉岡秀隆)は新刊のサイン会で偶然にも初恋の人・及川泉(後藤久美子)と再会する。現在はフランスを拠点に国連難民高等弁務官事務所の職員として活動している泉は久々の帰国を機に半絶縁状態の父親(橋爪功)の入居している介護ホームを訪問しようとしていたので、満男もそれに同行するのだった。中年ともなれば介護ホームへの小旅行がデート代わりだ。

いやぁ渋い枯れた大人のラブストーリーでしたねぇ。満男の方は中学の娘がいて小説家の仕事がある、泉の方もフランスに夫と子供がいて国連の仕事がある、満男が法事で柴又に帰省すれば泉は介護ホーム訪問ですよ。もうロマンスの余地とか全然ないよね。だからとくに何が起こるということもないのだけれども、かつての初恋の人同士(かどうかはシリーズ後半を見てないので実は知らないが)が二人で過ごす大人の休日のさぁ、お互いに相手のことはだいたいわかってるから距離が近くもならないし離れてもいかないしみたいなさぁ、でもちょっとだけifが脳裏をよぎったりみたいな空気がさぁ、すごくイイっすよねぇ。

で、それを繋ぎに満男の回想としてシリーズ名場面集を入れてくる。オープニングだけ見ると心底心配になってしまうわけですが、そういうわけで作りとしては存外手堅い、三分の一ぐらいは引用にも関わらず一本の作品としてちゃんと観れてしまう映画になっていたわけです。さすが山田洋次、腐っても…いや腐ってはいないと思うが安定の巨匠クオリティでしたなぁ。

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しかし思いましたよ。渥美清ね、やっぱめっちゃ面白いですね。寅さん本当に面倒くさい。本当に面倒くさいけど断然お茶目。ユーモラスなのにどこでキレだすかわからない怖さもある。この絶対に一緒に暮らしたくはないけれどもたまに会うと超楽しいだろうなぁっていう雰囲気、絶妙っすよねぇ。

ちゃんと観た記憶がある『男はつらいよ』は1~3作目だけ、他は何本か浅草新劇場で観たような気もするがタイトルは覚えてない。そういう人間からすると『お帰り寅さん』はシリーズの集大成というよりもシリーズ入門編として映る。満男の回想としてシリーズ作が引用されるので若気の至りな寅さんから老境に達しつつある寅さんまで満遍なく、とは言えないのでしょうがざっとは出てくるわけで、あぁこんな寅さんもあったんだと観てないシリーズ作が観たくなってくる。

可能な限り当時のキャストに続投してもらったお馴染みのキャラクターで旧来のファンをくすぐりつつ寅さんビギナーにも寅さんの魅力を伝えつつ…でそれを当たり前の風景として撮ってるのがよかったですよね。およそ四半世紀ぶりの寅さんの新作だからって変に肩肘張ったりしないでさ、佐藤蛾次郎とか出演時間2分ぐらいだったもの。しかも被ってる野球帽がたぶん蛾次郎の自前。あんな感じの帽子被った蛾次郎が自宅を紹介するテレビのお宅訪問企画を前に見た。寅さんっていうキャラクターの面白さは当然としても、シリーズを重ねる中でのそういう実家感が『男はつらいよ』が人を引きつけてやまない所以なんだろうなとか思ったりしましたよ。

あとですね、超いいなぁと思ったのがさくらの倍賞千恵子で…若い頃の倍賞千恵子が俺は結構苦手で、なんか全身の神経を常に張った状態で芝居をしているようなところがあるので演技は巧いし知的なエロスも漂わせて映画女優だなーって圧倒されたりもするんですけど、ピリピリした感じが伝わってくるのであんま積極的に見たい感じにならなかった。
それが加齢でなんというか、身体に浸透してたっていうか。背筋はピンと伸びて眼差しには油断がなくえらいカクシャクとしてるんですけれども、そこにピリピリ感が入るともう、なんかイイ女感みたいのがすごいんですよ。かっこいいしエロい。声の艶も深みを増していたように感じて…いや倍賞千恵子よかったですねぇ。

年寄りには年寄りにしか出せないエロスがあるからな。年寄りが撮ってるわけだからそういうところには敏感だったのかもしれない。年寄りといえば、『男はつらいよ』なんていう昭和的な拡大家族賛歌(?)のシリーズの最新作にして、家族の呪縛が子供をどれだけ傷つけるかというのをちゃんと描いているのも素晴らしいと思った。お年寄りを大事にしなさいなんて説教臭いことは言わない。今回は完全に脇役のさくらにも倍賞千恵子が演技の綾でそのへんのニュアンスを与えているように思う。

ほのかな哀しさであったり、枯れたエロティシズムであったり、ペシミスティックなポジティブさであったり。いやはや滋味深い映画ですよこれはー。後藤久美子の棒読み調の台詞回しも日本よりもフランス在住歴の方が長い人のキャラ設定だから違和感はあるが違和感がないっていうあたり、よく練られてるなーと思いましたよねー。談志モノマネをする立川志らくだけは練られてないなって思いましたけれどもー。

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とはいえ48作もあるとどっから観るのよ問題もあって実際はなかなか観ない。最終作ぐらいは押さえておいた方が『お帰り寅さん』も深みが増しそうな感じではありましたが。

2 Comments
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ジェイムス
2020年1月7日 12:20 午後

若いころ観光バスの帰り道、ガイドさんに「寅さんと釣りバカ以外で願いたい」と言っていた。
寅さんは何本かは観たが、あとは「いいや」と。

が、今回の『男は・・・50』は非常に良かった!
ストーリーの良さについては、さわださんの解説の通りですね。

観ながら浮かんだのは・・・
セリフ棒読みの後藤久美子だが、アレジと結婚しスイスに住んだから、こういう設定になったんだろうな。
吉岡秀隆は一人身だけど、映画と違い、内田有紀と別れたからなんだよな~。
それにしても若いころの倍賞千恵子は、なんで美人なんだ!
昔のカトリーヌ・ドヌーブみたい。

観終わったあと、ホッコリとする良い作品でした。

話は変りますが、『ガーンジー島の秘密の読書会』を観てきました。
『マリーゴールドホテル・・・』のプロデューサーの製作とか。
物静かで意志の強い司書務めの家人の、ツボでした。
さわださんもDVDででも観られたら、また感想お願いします。