人生に「これが正解」なんてあるもんか映画『そして彼女たちは』感想文

《推定睡眠時間:0分》

どうやら若い未婚の母をテーマにした映画のようだということは始まってすぐにわかったがそれにしてもファーストシーンに出てくる未婚の母はずいぶん童顔だ、これでは中学生といっても欧米基準ならまぁまぁ通じるんじゃないかなどと思っていたら次のシーンではまた別の未婚の母が出てきてこちらも見た目が幼く見える、いったいいくつぐらいの年齢設定なんだろうという疑問は15歳だというセリフで判明、次第にわかってくることにはこの映画、シングルマザー支援施設に通ってる5人の子持ち少女のそれぞれの葛藤や選択を描いた群像劇というかオムニバスのようなお話なので、5人全員が15歳なのかはわからないが、まぁでもとにかく若い、妊娠できるようになってすぐぐらいのタイミングで出産した人たちを扱っているらしかった。

日本でもたまにニュースでそういう話が出るよな。女子高生が一人でコンビニのトイレで出産して子供を放置して死なせちゃったとかそういうの。平成の絶頂期にはコインロッカー・ベイビーなんて流行語(か?)も生まれたりしたが、最新2025年版の犯罪白書によれば日本で2024年に起きた嬰児殺しは8件に過ぎず、たとえ少なかろうが死んでるは死んでるし悲劇は悲劇じゃろがいという熱血な人の意見もあるだろうが、とはいえ統計的にはこうした事例はレアケース中のレアケースといっていいだろう。ショッキングな事件はテレビや新聞やネットニュースで多く取り上げられやすいので、そんな報道を見聞きしているとなんだか最近はショッキングな事件ばかりだ、物騒で殺伐とした世の中になった……という印象をどうしても受けてしまうものだが、事実に即して言うならこれは誤った現実認識なのだ。

いやそんなことは映画と関係ないのだでどうでもいいとして。監督はこれまでも『ある子供』なんかで十代の父母を描いたことのあるベルギーの社会派代表選手ダルデンヌ兄弟であるから、題材は尖っているがショッキングとか鮮烈とかそういう感じではなく、お馴染みのヒリつくようなドキュメンタリータッチの映像と演出も逆にまったり感があるというか、うむ、やはりダルデンヌ兄弟の映画は間違いなく面白いナァと安心してしまうのだから、良いのか悪いのかわからない。

そのへんドキュメンタリータッチだが被写体に対する眼差しはあくまでも慈愛に満ちているダルデンヌの作家的特質にも依るところだろうな。『息子のまなざし』ぐらいの頃のダルデンヌ映画なら観ているこっちにダルデンヌ経験値がないから「いったいこれからどうなってしまうのか!」というサスペンスがあったが、いろいろ大変なことはあっても最終的に大変な人がちゃんと救われる感じになるのがダルデンヌ映画であることを俺も映画世間も数々のダルデンヌ映画を観て知ったので、今やダルデンヌ映画はサスペンスよりも安心感を得るものとなったのであった。

ところでダルデンヌ映画のサスペンスは社会的弱者や傷ついた人にフォーカスして一人称的にドラマを綴ることで生じていたが、今回はダルデンヌ初の群像劇。なぜ群像劇かという理由は明白である。中学生にして母親となった少女たちが自分の子供をどうするか、父親(そっちも中学生)と一緒に育てるか、育てられないから養子に出すか、家族と一緒に育てるか、まぁ選択肢はいろいろあるでしょうが、そのどれが正しくてどれが間違っているということにはしないためである。

ややもすれば社会派映画は「これが正解」という独善の罠に陥ってしまう。だいたい社会派映画なんか社会問題に強い関心のある人じゃないと撮らないわけだし、社会問題に強い関心のある人はそれについて「これが正解」の持論を普通は持っているのだ。だから社会派映画は「これが正解」になりやすいのだが、それは出産や育児のようなセンシティブでプライベートな話題の場合、「これが正解」以外の選択をした人を否定することになりかねない。たとえば、十代で妊娠したら中絶するのが本人のためだという「これが正解」を提示する社会派映画は具体名は出てこないがそう珍しくないように思うのだが、出産した方が幸せになれるという人もいれば中絶した方が幸せになれるという人もいるわけで、どちらの選択が本人の幸福に寄与するかなんてのはケースバイケースとしか言いようがないんじゃないだろうか。

『そして彼女たちは』では不安と焦燥に揺れ動く5人の中学生マザーが子供をどうするかということについてそれぞれ異なる選択をするし、そもそも妊娠と出産に関しても望まずにそうなってしまった人もいれば自ら望んでという人もいるわけで、そこに安易な「これが正解」はない。何を選択するか、した方が幸せなのか、あるいはその選択によっては幸せになれないかもしれないとしても、すべての選択の背景には個人個人の人生があるわけで、十代の妊娠と育児に関して「これが正解」を見せるのではなく、ただそこにはいろんな母親の人生があるんだよということを見せるのがこの映画なんである。

人生の多様性(それは豊かさと言い換えることもできるかもしれない)を示すために群像劇にしているのだろうから、これまでのダルデンヌ映画に比べると生々しさよりも作為性が強く感じられてしまうのはちょっと弱点かもしれないのだが、とはいえ安易な「これが正解」が幅をきかせる世界で人間はそんな単純なものでも画一的なものでもないと言外に訴えるダルデンヌのリベラル精神にはなかなかグッと来てしまう。それにダルデンヌは自分の主張のために登場人物を都合良く理想化したりしない。俺がこの映画の一番良かったところだと思ったのは5人の中学生マザーのほとんどが平気でウソをついて人を騙そうとするところだった。

5人はいずれも家庭環境や経済状況に恵まれていない。恵まれていない人というのは年中切羽詰まっているので後先考えずにとりあえずウソをついて目先のピンチを乗り越えようとするが、そのウソがまた別のピンチを招く悪循環に陥りがちである(断言)。そのダメさセコさを隠さずにちゃんと描いているからこそ5人の中学生マザーがいかに追い詰められているかがわかるというもので、うんうん、やはりねダルデンヌは誠実だし優しいですよ。表面的だったり独善的だったりする自分のための優しさじゃなくてちゃんと他者のための優しさがあるな。そういう優しさが優しさとしてどうにも評価されにくいように思える昨今、まぁ名匠ポジションだから世間の目なんか気にせず好きに撮れるからと言ってしまえば身も蓋もないが、ダルデンヌは偉いな、やはりダルデンヌ映画はいいな、と思わされる、そんな『そして彼女たちは』であった。

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ガネオ・トカゲ
ガネオ・トカゲ
2026年4月3日 11:20 PM

こんばんは。
予告編を見た時は「なんか、NHKの『ドキュランドへようこそ』で放送しそうな内容だなぁ」と思ったのですが、劇映画なんですかコレ?