『ノーマ、世界を変える料理』『オマールの壁』で闘う料理人映画二本立て感想(ネタバレ皆無)

すごく寝た。とても寝た。しかも質の悪い眠り。
こう、スクリーンに広がる光景を次第に脳が処理できなくなり音と映像の全てが意味を失ったノイズと化し、睡眠とゆーよりは気絶、時折目覚めるがスクリーンは相変わらず意味不明なノイズを垂れ流しており、沈んだままの意識を少しも象徴世界に引き上げてはくれない。カットと音の変化によるショックは更なる発作的睡眠を断続的に引き起こし、かつノイズの断片が意識下の快楽として少しも作用しない。もちろん夢も見ない。それが質の悪い睡眠鑑賞である。

質の良い睡眠鑑賞とゆーのは俺の定義によればこうである。第一に、スクリーンとの分離ではなくその境界の崩壊によって。第二に、夢の介入を許すことによる風景の変容によって。第三に、意味を成さないノイズや睡眠による暴力的なセルフ編集が快楽として作用することによって。そーゆー場合には、たとえ上映時間の半分以上を寝てたとしても至極の映画体験となり得るんである。

とにかく、寝た。悪く寝た。そんな映画二本のボヤボヤ感想です。

『ノーマ、世界を変える料理』

《推定睡眠時間:40分》

お前は喋りすぎる。と、思ってしまうのはやはり頭の中に料理人=寡黙な職人みたいな日本的イメージがあるからで、北欧デンマークはコペンハーゲンに超々高級レストラン「ノーマ」を構えるお喋りオーナーシェフを追ったこのドキュメンタリー映画、世界の最先端に触れるどころか俺がいかに平均的な無能日本人であるかとゆーことばかり意識させられてしまった。こじらせている…。

なんでもこの男レネ・レゼピ、誰が呼んだか知らないが料理界のスティーブ・ジョブズ。これはメチャクチャ言い得て妙である。いや、その、独創的な料理で業界にイノベーションをもたらしたからだろが、独善的で自己愛が強すぎるウゼェ部分も含めてのジョブズ感。
映画ではこの人が自分の生い立ちから今までの歩みなんかを語ったりするが、その一挙一動に俺ってカッコイイっしょ感が滲むので凡人には結構ツライ。
それでもきっとこんなウゼェ奴から至高の料理が生まれんだろなまったく仕方が無いなそれならと思ってはいたが、料理の方もツラかった。
食材。苔、樹液、生きた蟻…ホラ、俺凡人だから! マックのポテトが超美味い人間だから! 凡人の舌と目はバカだからな! そら理解できませんわ! ははは!

寝てたから詳しいことは知らんが高級店系のドキュメンタリー映画としては通り一遍の感じではあった。
店の歴史を関係者に語らせその料理を美しく撮り評論家に賛美させてイノベーターたるシェフをひたすら持ち上げる。どうでもいいようなことをドラマティックに誇張してちょい感動風。ノレる人は面白いんじゃないか。
最近この人みたいなキャラどっかで見たなと思ったら『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(2013)のディカプリオだった。
なんでしょね、世界を制する人間はやっぱ違うね!
(あとアレだな、「スタッフはみんな家族なんだ!」と語り覇気を丸出しにするレネさんを見てるとヤンキー上がりのラーメン屋が頭に浮かぶね…)

『オマールの壁』

《推定睡眠時間:35分》

パレスチナ分離壁とゆーのはてっきりイスラエルとの国境に設けられてるんだろうと思ってたがどうも違うらしく、治安維持やなんやの名目があんのかどうか知らんがヨルダン川西岸地区内部をくねくねとのたうちながら張り巡らされてるそうである。
そんなワケで主人公のイケメンパン職人(また料理人じゃないか!)は友達んちに行くにもロープで壁を乗り越えなきゃならないが、その度にイスラエル兵に撃たれそうになったりする。これは極限。

そんな極限状況がすっかり常態化してるんですよパレスチナでは、とそのよーな映画であろうから逆に静かで退屈な映画なのだった。パン職人がイスラエル兵に襲撃されようが拷問されようが抵抗運動に参加しようが全部当たり前の日常になってしまうのでドラマティック皆無。
コペンハーゲンで悠々と金持ち相手の商売しといて「店で食中毒が起きた時は絶望したもんだぜ…」とか気取って語るどこぞのシェフにこのパン職人を見せたい。

パレスチナで生きる等身大の若者像を素っ気なく提示すること自体が戦略的な抵抗運動である。この監督の人は『パラダイス・ナウ』(2005)でも同じよーなことをやっていた。なんか一貫した思想がある。
しかしそれとは無関係に面白そうな話をつまんなそうに語られたらやっぱ眠くなっちゃうので、こちらもあぁ俺はやっぱ平々凡々な日本人なんだなぁと意識させられながら、僅か自己嫌悪を覚えつつ質もバツも悪い睡眠に入るのであった。

パン職人が想いを寄せる友人の妹のシャクレっぷり、狭い路地を駆けずり回るカメラワークとか面白かったかもしんない(後はあんま覚えてない)

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


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どっちも闘う料理人の映画であるが、闘う料理人といえばやはりケイシー・ライバックであろう…。

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