嫌いじゃないSF『リディバイダー』の感想(ネタバレは多分ないが…)

《推定睡眠時間:35分》

そうでない人はどうか知りませんが俺はチラシ裏に載ってる押井守の推薦コメントを事前に読んでの鑑賞だったので悪し様には言えないよねお前それ予想できたろ押井守の名前から、の口撃を受けたら反論できないものね。できません。
だいたい俺は押井実写を好む人間だからな…思わせぶりな雰囲気といい厨二がかったミリタリー趣味といい見た目に『アヴァロン』とか『アサルトガールズ』とかの象限に属するような映画は好きか嫌いかで言ったら好きに傾くが好きと面白いはイコールじゃないから。
『アヴァロン』も『アサルトガールズ』も大好きですけど全然面白くないから。面白くないけど好きだから…。

かなり寝ていたので細かいところはわかりませんがこのようなお話。近未来の地球でエネルギー危機勃発。おおきなエネルギー会社が差し迫った危機に対してウルトラスマートな解法を差し出した。メカニズムは不明だがアナザーなユニバースを作って(または多世界解釈などに依って出来合いのアナザーユニバースと接続して)そこからエネルギーを吸い取ろうというのである。天才か。

かくしてエネルギー危機は回避されたのだった、と思いきやどうも様子がおかしい。(このあたりに睡眠が集中しているようなので心許ないが)色んなものが消失するようになってしまった。船とか電車とか。あとずっとお空が曇り空。いったいなにが起きているのだろう。
ということで主人公の顔を覚えられない人がこの複製世界エコーワールドに送られる。エコーワールドは主人公のFPS的主観視点。本格FPSアクション『ハードコア』と同趣向。
順序立てて書きましたが映画はここがスタート地点なので、見ている側としてはこのよくわからん状況にいきなり放り込まれる感じになる。

はじめてのエコーワールドは廃墟のようだ。徐々にその全貌が見えてくるとそうでもなかったが至る所に死体と破壊、生命の痕跡は少しも見当たらずにリアルワールドと接続された巨大なエネルギー供給塔だけが生気というか妖気を帯びて煌々と光の柱を放っている。
どこかで見た。『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』の鏡面世界だ、この不気味は。空きチャンネルに合わせたTVの色な虚空から船が電車が落ちてくる押井の言及していたシュールな絵面は『リディバイダー』の見所のひとつであるが、『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』もなんもない空から突然ドスンと落ちてくる場面があるからな、巨大ロボットの断片が。

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空からなにかが降ってくる。差し迫った危機を回避するためにココではないドコかを「侵略」するがドコとはココの別名であったから、それは結局明るい未来の幻覚を生きるために目の前のリアルを搾取する同語反復的な現実逃避でしかなかったのだ。
どうしてもこのプロットから連想してしまうのは星新一の『おーい、でてこーい』で、今更ネタバレもクソもないだろうが一応一応未読勢に配慮してオチに絡まないラスト一文を引用したい。

だが彼は、ますます美しくなってゆく都会のスカイラインをぼんやり眺めていたのでそれには気がつかなかった。

この、ドライな文体の隙間からほんの少しだけ顔を出す逃避人のせつない心情! 星新一のこういうところが俺は大好きなのですがー、世界を救う(はずの)光の塔を不安な面持ちで眺める『リディバイダー』の主人公にも星新一的せつなさがあったんじゃないかと最大限好意的に解釈する。
その諦観の重さからすればこれは文学系終末SFの類だろう。予告なんかだと多分に『ハードコア』のイメージを引きずってFPSアクションの部分をプッシュしているが、そもそもあんま戦わないし戦ってもせいぜい武装警備ドローンを撃ち落とすぐらいなアクションしか出てこない地味映画なのでFPSを期待するとメンタルが終わる。

押井映画的な空気感に星新一の真顔の皮肉が乗る映画、とでも見ればいいのかもしれない。先の引用部からのダジャレ的連想になるが独特の美学を感じさせるアーティスティックな冷たいビジュアル&ムードはええ感じでストラウス兄弟の『スカイライン』なんかとは色合いとかメカデザインとかつまらなさとかも含めてよく似て…いかん!
押井実写っぽいの一言で一気に期待値を下げつつもぼくはこの映画が嫌いではなかったからなんとかどうにか頑張っておもしろそうに感想を書こうとしたが再び悪口が。
一旦は飲み込んだはずのガッカリ感が虚空から出てきてしまったからやっぱり小手先の誤魔化しで問題から目を逸らしてはいけない。抑圧されたものの回帰。

小手先の誤魔化しといえば『おーい、でてこーい』は1958年の作ですが核廃棄物を底なし穴にぶちこんで処理しようとする場面があるので2018年現在の目から見れば著者だって予想していなかったであろう重みが出てくる。
『リディバイダー』もエネルギー問題がお話の核心なのであるから、いくらその部分のシナリオ的な掘りが浅くともどこか重力を帯びているんである、というわけで再三になりますがつまらないと言いつつ奇妙に惹かれてしまうのだ俺は、この映画に。

今ひとつの惹かれポイントは、これは俺は寝ていたから最後までわからなかったのだが、主人公が属する世界がリアルワールドなのかエコーワールドなのか不明瞭なところ。
ちゃんと見ていた人なら逆に惹かれなポイントなのかもしれませんが俺はそれがわからなかったからモヤモヤが残っちゃって、でもそのモヤモヤが堪らないんだよ。
なにが救われてなにが救われなかったのか判断できなかったから。あるいはその結末も別の現実逃避でしかなかったんじゃないかと臭わせたから。その価値観の転倒、SFだなぁって思いましたね。

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鏡面世界に虚空からの贈り物だけじゃないぞ。『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』だって資源を巡るお話だからそこでも『リディバイダー』と類似点が。
人類を奴隷にせんとする帝国主義のロボット軍団をしずかちゃんが辛辣批評。「まるっきり人間と同じじゃない…」。
そのまるっきり人間と同じ野蛮なロボット軍団とドラえもんら人類代表がすべての反転した鏡面世界でバトるアイディアが秀逸。

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