大自然スラッシャー映画『バイオレント・ネイチャー』感想文

《推定睡眠時間:2分》

どうやら『13日の金曜日』みたいなスラッシャー映画らしいということは映画館に貼ってあった殺人鬼大写しのポスターから分かったのだがそれにしても『バイオレント・ネイチャー』とは? 暴力的な自然? スラッシャー映画にもいろんなタイトルがあって『バーニング』なんか一見どのへんがスラッシャーなのかわからないが、そんな中でもこのタイトルは異質に映る。このタイトルの意味は映画を最後まで観ればなんとなくわかるかもしれない。

元祖スラッシャーの『ハロウィン』ではラストシーンで惨劇の舞台となった家の誰も居ない各所をカメラが次々と捉えていくが、それに倣ってか『バイオレント・ネイチャー』ではスラッシャー殺人鬼が若者を殺して回った山の様々な美しい自然風景がこんな血まみれ映画のラストには似つかわしくなく映し出される。その直前のシーンである登場人物が長々と(いや本当に長々と…ちょっと寝てしまったほどに)山でクマに襲われた怖かった体験談みたいなのを話すので、どうもこのラストシーンは人間には征服できない、人智の及ばない畏怖すべき自然というものを暗示しているようなのだ。

映画の導入部で山にトラバサミを仕掛ける男がレンジャーに咎められていたり、ジェイソン風に不死の殺人鬼なんとか君は生前に山の開拓業者と対立して殺され復讐のために蘇った的なエピソードを若者たちがキャンプファイヤーを囲んで話していたりと、そう思えばたしかにこの映画には山と人間の関係に関する描写が数多い。つまり殺人鬼なんとか君は山の意志の代弁者であり、スラッシャー映画のスタイルを借りて自然の怒りを表現したのがこの映画だったわけである。だからタイトルが『バイオレント・ネイチャー』、暴力的な自然なわけだ。なるほどネー。

作ってる人の意図はわかりました。しかし面白いかどうかはまた別の話。まぁつまんなくは無いとおもう。殺人鬼なんとか君の殺しには湖で泳いでいた人の脚を引っ張って溺死させる(これなど単なる水難事故にも見えるので殺人鬼=山の自然という図式のわかりやすいシーンである)とか地味すぎるものもあるが、お腹に背中から鉄拳パンチで穴を開けてその穴を通して鉤で頭部を刺し腕を穴から引っこ抜くことですっぽり抜けた頭部がお腹の穴から背中側にコンニチワという『ザ・ミューティレーター/猟奇!惨殺魔』を思わせる良識ゼロの残酷殺害もあるので、とにかく容赦なく若者がちゃんと殺人鬼に殺されるという点では立派なスラッシャー映画といえよう。

ただ誰かが「テレンス・マリックの撮った『13日の金曜日』」と評していたようにお話の内容はあらすじ不要なドベタ王道のスラッシャー映画なのに映像スタイルは独特、全編通して劇判が一切無くBGMは山の環境音のみという中で、ビハインドカメラで殺人鬼なんとか君が山をぶらぶら歩くだけの姿を野生動物密着ドキュメントの如く延々と撮り続けるのだ。「テレンス・マリックの撮った『13日の金曜日』」とかふざけたこと抜かすなと読んだ時は思ったがたしかにある時期からテレンス・マリックはこういう撮影法で全然面白くない映画を量産するようになってしまったので言い得て妙だった。『名もなき生涯』なんかは山で撮ってるしこの映画とかなり雰囲気近いのでは(なお『名もなき生涯』は近年のテレンス・マリック監督作では珍しくちゃんと面白い方)

そんなわけでシナリオの面では超スラッシャー映画なのに演出の面ではスラッシャー映画を甚だしく逸脱しているというのがこの映画である。こういうのをきっと脱構築と言うのだろうな。それを斬新さと取るか退屈さと取るかは意見が分かれることだろう。変な映画は好きなので俺は結構楽しめましたけど、でも「気取ってるな~」とかはそれでもやっぱ思ったよ。A24がスラッシャー映画作ったらこんな風になるんだろうな~とか。ま、ともあれ、こういうスラッシャー映画も世の中にはあるってことでいいんじゃないすかね。ただ殺人鬼のマスクはダサすぎ。

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