案外大人なキラキラ映画『ストロベリームーン 余命半年の恋』感想文

《推定睡眠時間:0分》

フランスの異端思想家バタイユは死は人間の連続性を回復させるというようなことを書いており、人生というのは人によっていろんな形を取るわけで、それは言ってみれば人間の分化・個性化であり、孤独でもあるが、誰もに共通して訪れ、すべての人生がそこに収斂する死は、それによって人の人生に失われた連続性、バタイユはこうは言っていないがおそらくそれは同胞意識と言い換えることもできるだろうと思うが、そうしたものを人間にもたらすがために、古来より葬儀は一大公共事業であった、と俺はざっくり読んでざっくり理解したのだが、仮にその理解がある程度正しいとすれば、この映画のような難病系キラキラ映画はその一つの例かもしれない。

プロット的にはキラキラ大ヒット作『君の膵臓をたべたい』を踏襲して(キラキラ傑作『orange オレンジ』も思わせる)かつてキラキラだった人々の大人になった現在から物語が始まる回想形式、幼なじみの杉野遥亮と中条あやみは今はそれぞれ地元で小学校教員と警官の職に就いているが、そんな二人には今はもうこの世にいない忘れられない人がいた。それが高校時代の同級生・當真あみで、詳細は描かれないがこの人、16歳まで生きられれば頑張ったねという難病を患っていたのだ。難病だから学校には行けずお勉強も遊びもちょっとしたお城のような金持ちハウスでパパのユースケ・サンタマリアとママの田中麗奈を相手にやる。そのおとぎ話のような日々は楽しかったがさすがにティーンに成長してくると同世代の友達も欲しくなり恋人だってほしくなる、ということで杉野遥亮と中条あやみの高校生バージョンである齋藤潤と池端杏慈は當真あみと出逢い、ちょっとだけマジカルな青春の日々を過ごすことになるのだった。

難病系キラキラ映画としては実に王道、キラキラならば主演のヤング役者をいかに立てるかが最重要課題だが、その点この映画は明らかにウサギ顔の當真あみの魅力をよく把握して、ぴょこぴょこ跳ねるように動くその挙動はかーわーいーいー。とくに齋藤潤に告白して「でもボクはあなたに釣り合わないから……」とかいうカッコつけてんじゃねぇぞテメェな理由で断られてからの一連の流れね。當真あみ、引き下がらずに告白の場となった講堂をウサギのように跳ね回りながら齋藤くんが私の告白を受け入れるべき理由をプレゼンしていくのだが、ここはもう當真あみの魅力全開。いいよね、若ぇ役者さんが元気いっぱいフレッシュ真っ直ぐに自己を主張する姿……キラキラと輝いているよ……。

しかし當真あみ(の役)は死すべき運命にある。従って物語は徐々に當真あみの周辺にいる人々、両親のユースケ・サンタマリア&田中麗奈や齋藤潤&池端杏慈、そしてその数人の友達の心境や、その後の物語にシフトしていく。當真あみが輝けば輝くほどその輝きを受け止めきれない現実が観ているこちらに重くのしかかる。それとも逆で、現実が重くのしかかっているからこそ、當真あみが輝いて見えるのかもしれない。いずれにしてもたしかなことは、誰もが當真あみとのキラキラな日々を過ごすことはいつかできなくなってしまい、冴えないけれどもそれなりに楽しいこともある普通の日々を送るようになるということだ。後に残される人々がそれを静かに受け入れていく過程は優しくも痛ましく、難病青春映画の名作『タイヨウのうた』を彷彿させたりもした。

『orange オレンジ』ほど明瞭な形ではないものの、當真あみの死が人々を結びつけている、というのがこの映画の核心である。実はそれに先立つ別の死、齋藤潤の母親の死というのもあって、それが結果として齋藤潤と當真あみを引き合わせることになったのであった。この生と死の循環、誰かの死が人と人の生を繋いで、その死がまた新たな関係性のかすがいとなるという在り方。思えば俺も何年か前に祖父が死んでそれから十何年か会っていなかった祖母にたまに顔を見せるようになったのだが、人と人の関係はこんな風に誰かの死によって支えられているというのが、少しだけギョッとさせられるような人間関係のリアルなんじゃないだろうか。だから、キラキラ映画といってもこの映画には浮き足だったところはない。人間が生きていく、生きて人と関係していくとはどういうことかという少しばかり苦い大人の認識があるから、おとぎ話のような設定でもスッと頭に入ってきてしまうんじゃないだろうか。ドラマティックな展開にならないサラッとしたラストも切なくも爽やかで、まぁ現実こんなもんだよなみたいのもあって良かったよ。あんがい大人の映画なのだ。

それにしても田中麗奈、なんか歳取ったらだんだん梶芽衣子に似てきた。若い頃から似ていたのかもしれないが加齢により水分が抜けてきたら梶芽衣子的な鋭敏さが表情に出てきたというか……いやそれはどうでもいいのだが、この映画のベストアクトは助演に徹した田中麗奈だな俺主観では。難病の娘を持つお母さんの心境をなんでもない日常の中で見事に見せていたんじゃないでしょーか。夫のユースケ・サンタマリアが見せる若干ウザったいユーモアもなかなか効いてたと思います……とあとそうだ、出番は少ないが現在のシーンで元キラキラスタァの中条あやみが出演というのは回想シーンに出演の若手キラキラ役者たちを先輩の立場から見守るが如しで、キラキラ映画ファンには心憎いキャスティングでございました。心憎いといえば、『時をかける少女』』オマージュなのか、杉野遥亮=齋藤潤の稼業が醤油工場、というのも。

※當真あみのファーストキスのシーンかなりドキドキしてしまったので、演出力があるなぁと思う。監督は酒井麻衣。

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