気候問題よりもエサ問題に切り込んで欲しい映画『ズートピア2』感想文

《推定睡眠時間:40分》

あのころ誰が小島秀夫が世界のKOJIMAになるなどと想像しただろうか。おそらく当時のコナミ社内で毎日1本のレンタルビデオを観る習性があることから小島ビデオと呼ばれていた小島秀夫(それが後に『メタルギアソリッド』のかの有名なブラックマジックにおいて「ビデオ」の代わりに「ヒデオ」と出る理由である)の肉声を世間一般がはじめて聞いたのは小島秀夫がテキストADVでやりたいことはすべてこの作品でやり切ったと語る1994年のゲーム『ポリスノーツ』のラストチャプターでのことであり、ここで主人公を取り囲む警官隊の一人の声をアテているのがディレクター小島秀夫本人であった。それから30年。クリエイティビティの面ではもはや青息吐息といえる現代のディズニーの本当に数少ないヒットした新規IPである『ズートピア』の続編が製作されるにあたり、そのスタッフは小島秀夫をゲスト声優の一人として招聘した。小島秀夫がハリウッド系の映像作品にゲスト出演したのはこれが初めてではなく、ニコラス・ウィンディング・レフンのエログロノワール配信ドラマ『トゥー・オールド・トゥ・ダイ・ヤング』にも謎のヤクザ役で出演していたが、いやまったく光陰矢の如し、思えば遠くへ来たもんだ。ちなみに『ズートピア2』での世界のKOJIMA出演シーンだが俺は寝ていたので見ていません。

まそんなことはどうでもいいとしていやーなんか久しぶりにこういう「ハリウッド大作!」みたいなの観た気がしたなー。最近は旧作リバイバル上映が本当に多くてミニシアターだけじゃあなくシネコンまでもリバイバルをかけまくっているわけで、円安もあれば単にハリウッドの体力&求心力低下というのもあって、「ハリウッド大作!」を映画館で観る機会が何年か前に比べてかなり減ったと思う。俺はハリウッドの滅亡を望んでいる映画急進主義者なのだがそうは言っても実際に「ハリウッド大作!」が映画館から消えてしまうとやはり寂しく、今は以前ボロカスに悪口を言った記憶のある『アバター』の最新作公開が楽しみという程であるから、この『ズートピア2』もなかなか楽しみにしていたのであった。

ということで蓋を開けてみればいつもの「ハリウッド大作!」である。でけぇ街とかがあってそこが様々な色で溢れていて登場人物が無駄に多く全てのシーンにいちいち面白くないジョークを最低一個は挟まないと気が済まずそして作品全体を貫くメッセージは空虚で偽善的。これだ! これが映画館で観たかったッ! こんな映画ばかりがシネコンにかかってたら今度は一転して映画の腐敗だの観客の衆愚化だのとクソミソに文句を言うことは目に見えているので自分で言うのもどうかと思うが本当に面倒臭い人間だなと思う。

さて前作の『ズートピア』はぶっちゃけそんな好きな映画ではないというかどちらかと言えば嫌い寄りで、面白いことは間違いないとは思うのだが、肉食動物も草食動物も入り混じって暮らす街を舞台に多様性とか多文化共存というものを語る映画だものだから、どうしてもこうその偽善性というか嘘くささというか、いかにも世渡り上手な大人が考えましたという物分かりの良さが気に食わなかった、はず。それでたぶん同じ年だと思うのだが『ミニオンズ』のイルミネーションが制作した『SING/シング』っていうこちらも多種多様な動物たちが暮らす街を舞台にした『ズートピア』対抗作みたいのが公開されて、それはめっちゃよかったんですよ。なんか『SING/シング』の方は『ズートピア』の優等生感に対して悪ガキ感みたいのがあって、そのぶん多文化共存メッセージに嘘がない感じがしたんだね。いろんなどうぶつたちが混ざって暮らしてればそれば当然価値観とか意見が大激突することもあるし、100%の善人いや善動物かなんてのは一匹もいなくて、みんなどこかしら欠点があったりするし共感できないところがある。そういうのを隠しているように俺の目には見えたのが『ズートピア』で、隠さなかったのが『SING/シング』だったわけです。

まぁ、この続編もそういうところは基本変わってなかったね。いや全然面白く観たんですけど、今回はさズートピアではどのように多種族が共存しているかっていうところに主人公のウサギ&キツネが密航ヘビを追いながら切り込んでいって、それが気候なわけ。ズートピアではでけぇ機械によって寒い地域とか暖かい地域を人工的に作り出しているからその気候操作システムによって野生ならば殺し合っちゃったりするような動物さんたちも共存できてますよ~ってなもんですけどいやそんなのウソじゃん。ウソっていうか論点ズラしみたいなもんじゃん。こっちが知りたいのはエサなのよ。そりゃ気候も大事だけど肉食動物と草食動物が共存してるんならエサはどうなってるのっていうのは最大の疑問点でしょうが。でもそういうことは話がややこしくなるから語らないのだなこの映画は。子ども向けだからって言ったらそうかもしんないけど、俺はこういうのは子ども向けにしても不誠実だと思ったりする。

そういうところもあるし、あと単純にさ、前作は新規IPだから街の風景とか生態系にも目新しさがあって面白かったけど、その初回特典は同じ街が舞台の続編だからもう通じない。なんでも前作はジェイムズ・エルロイのノワール小説を元ネタにしているとかしていないとか言うが、公開も多少SF要素を加えつつのハードボイルド探偵もので、それはちょっと面白いのだが、問題はそのプロットと最近のディズニー映画らしい無駄に躁なわちゃわちゃ演出がどうも上手く噛み合っていない。アクションも前作はもっと勢いがあった気がするんだけどなぁ……というわけで、久しぶりの「ハリウッド大作!」だし面白かったは面白かったんですが、そんなに良く出来た映画とは思わなかったし、前作に比べたら明確にパワーダウンしてるんじゃないだろうか。新キャラのヘビくんは造型も性格もキュートキュートで良かったけどな(そのぶんヘビくんのキャラがあまり活かされていない感じがするのがもったいない)

まぁでもこんなものか。こんなものが「ハリウッド大作!」なわけで、こんなものだからカップヌードルと同じでたまに食べたくなるみたいなの、ある。すごくどうでもいい話かもしれませんがこの冬の値上げでカップヌードル一個258円ぐらいになるそうです。いやもう高級食じゃねぇか! あぁ、カップヌードルを気軽に食べられていたのはいったい十何年前のことだろう……やはり人間も動物も、エサ問題は避けて通れないのである!

※最近のハリウッド映画は『シャイニング』オマージュを安易にやりすぎなのでこの映画にも『シャイニング』の生け垣迷路パロディが出てきたんですが全然意味がないし面白くもないから普通にそういうのやめたらいいとおもいます。

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りゅぬあってゃ
りゅぬあってゃ
2025年12月6日 1:23 PM

初期の没設定「肉食動物は興奮できなくなる首輪の着用が義務付けられていたディストピアだった」を、どうにか映像化してほしいところ。

子供向けにならないとお蔵入りした。