人生は何の前触れもなく発狂するのだ映画『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』感想文

《推定睡眠時間:40分》

なんなのかまったくわからない。この映画いわゆるひとつのファウンド・フッテージもの、映画の冒頭では警察に通報した際の記録音声が流れるが、この手の映画ではよくあることだが男女の絶叫と意味不明な会話しか聞こえない。なにかわかるとすればどこぞのわけぇもんが惨死したということであった。後日警察は通報のあったスマホの発信源らしいモハーヴェ砂漠にてわけぇもんの惨死した痕跡などを発見、残されたビデオカメラのSDカードから何が起こったのかを確認しようとする。みなさんがこれからご覧になるのはその映像である……というわけなのだが!

とにかくなんなのかまったくわからない。最初のたぶん30分ぐらいはずっと仲良し四人組みたいなのが歌なんか歌っちゃったりしながらミュージックビデオ撮影のために砂漠へ向かう紀行記録、途中で祖母宅かなんかに寄ったりしてとにかく平和で仲良しであるが、わけぇもんどもが平和で仲良くしている映像など面白いわけがないので速攻でスヤスヤと眠りについてしまった。俺は訓練されている睡眠鑑賞者なので惨劇が始まったらきっとう脳が「人が死に始めたぞー!」の覚醒信号を出してくれるだろう。俺が寝ている間もつまらない画面を観ることなく観続けてくれている脳ありがとう。

目を覚ましたのは四人が夜のテントでなんか話している場面であった。そんなに切迫した様子はないのでどうやらまだ誰も死んでくれていないらしい(チェッ!)。外からはドシーンドシーンという何か重たい音。「乾雷だろ?」と誰かが言ったので雨雲とかあまり広がらなさそうな砂漠でも雷が落ちることはあるようだ。怖いな、逃げる所ないから。ということでカメラを持った誰かがテントの外に出てみるのだが、はいここからもうわからない。どうも遠くに人影が……巨人かな? 巨人に見えなくもないけど照明が暗すぎて遠近感が掴めずよくわからない。惨劇はその直後であった。突如、わけぇもんたち絶叫と大ダッシュ。何があったのかは照明が暗すぎてよくわからないが何かが襲ってきたのだろう。気付けばわけぇもんたち全身血だらけである。照明が暗すぎてよくわからないがたぶん誰かは死んだだろう。

カメラを持った何者かはとにかく逃げ続ける。だが何から逃げているのだろう? ドシーンドシーンに加えて甲高く耳障りなきゅるるるるるという鳴き声のようなものが聞こえる。しかしその主がカメラに映ることは……いや、きゅるるるるに冠しては一瞬だけ何かの触手なのか、それともヘビ様の異常生命体なのか、なんだかよくわからないか何かが映る。しかし照明が暗すぎる上にスポット照明なので部分的にしか見えず結局よくわからないのであった。

場面変わって朝である。あれ、朝とかなるんだ。この夜に何者かに襲撃されてわけぇもんは惨死しましたというお話かと思ったらそうでもないらしく、カメラを持った誰かが歩く昼間の砂漠は平穏そのもの、アルパカだかヤギだかがメェメェ鳴いて通り過ぎていく牧歌空間である。ところがどこからともなくドシーンドシーン、きゅるるるる、そしていつの間にやら夜である。またぞろ何かが襲ってくるが例によってカメラには断片的にしか映らずよくわからない。点滅する謎の光とも遭遇した。その光に触れると異空間に入ってしまうようで、良いことなのか悪いことなのか、なんか気持ちよくなったりもする気配である。

遠くには砂漠に来た時の自分たちが歩いているのが見える。タイムスリップしているのか? いなくなったはずの仲間はいつの間にか傍らに居た。生きているが全身血まみれである。そしてカメラを持ってる誰かも血まみれで、血、というか、何か膜のようなもので表皮が覆われてしまっているようだ。一体何がどうなっているのだろうか? 他のみんなはどこ行った? いったい何に襲われているのか? 今はいつでここはどこか? だいたいこれを撮ってる自分は誰なのか? 観ている側としても何がなんだかわからないが、カメラを持っている誰かも何がなんだかわからないらしいので、次第に、という感じでもなく比較的さっさと発狂してしまい、意味不明なことを呟き続ける。なんなのかまったくわからない映画である。

おそらくネタ元は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とアメリカ発のネット怪談backroomsだろう。この世界のどこかにはパッと見そうとはわからないが現実の裂け目のようなものが存在して、不幸にもそこに落っこちてしまった人は人間の棲まう世界の常識がまったく通用しない異常世界を彷徨うことになる。ファウンド・フッテージという形式も含めてこれとよく似た映画がそういえば最近あった。YouTube番組『フェイクドキュメンタリーQ』の60分スペシャル版『フィルムインフェルノ』である。だから『フィルムインフェルノ』が好きな人はこの映画も好きなんじゃないかしら。俺はそうでした。

呪いのビデオの如し不気味で意味不明な映像の末に内臓ドロリで晴れ渡る砂漠の空に両の手を突き上げる。なにがなんだかサッパリわからないが、あんがい人生というのはこんな風に何の前触れも無くまったく急に狂ってしまいあっけなく終わってしまうものなのかもしれないと思えば、なにやら人生の真理を抽象的に描いた映画にも見えてくるというものである。良い。

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